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第13話:茶会



 夜になった所で、ひっそりと部屋を出て城内を歩く。

 辿り着いた先、既に話を通しておいてくれたのか扉横に居た護衛の魔族は、何を言う前に部屋の中へと通してくれた。


 通された魔王様の執務室は書類も以前より片付き、埋もれていたローテーブルやソファが現れ、執務室らしい姿を取り戻していた。


「すまないベール、もう少しだけ待たせてもいいだろうか」

「よろしければ、私にもお手伝いさせて頂けますか?」

「……助かる」


 部屋の隅に残されていた椅子と机を引っ張り寄せて、その後暫くお互い無言で仕事を進めた。

 ペラペラと紙を捲る音と、ペンを走らせる音に、時々遠くで遠吠えが聞こえる。

 静かすぎず、煩すぎず、何より魔王様の魔力が心地良い。

 油断すると寝てしまいそうだ。


 この身体に生まれ変わった頃に感じていた魔力の圧に、すぐに順応できたのは魔族の身体だからなのか。

 人間だった時にはマルコと相打ちという結果になった為、結局魔王様には出会っていない。

 この世界に私とは違う人間のエレノアがいるように、全く同じように思う世界だけれど、もしかしたら私が人間だった世界の魔王様は、とんでもなく恐ろしい、私達人間が想定していたような魔王様だった可能性も……。


 チラリと横目で魔王様を見つめる。

 絹のように滑らかな黒髪から覗く、側頭部から生える捻じれた立派な角。絵画の世界の住人かと思う程に整った美貌に、深い海を思わせる蒼い瞳。

 外見の年齢は二十代といわれても疑わないが、地下の書庫に置かれていた本が真実ならば、不老となっているだろうからその姿から年齢を当てる事は出来ないだろう。


「何かあったのか?」


 私がじっと見ているのを、問題が起きたから相談したいという意味かと受け取ったのか、微かに眉を寄せて心配そうにこちらを見てくる。


「あ、いえ、魔王様って美しいなと思っただけ、で……」


 言ってる途中からもしかして失礼な事を言っているのではないかと思って、言葉が尻すぼみに消えていく。

 だが言われた魔王様は怒るどころか、顔を赤くしたかと思うとパッと両手で顔を覆った。

 一瞬呆気に取られて、でもそんなに恥ずかしがられるとだんだんこちらも恥ずかしくなってきて、私も思わず顔が熱くなる。


「も、申し訳ございません、魔王様。唐突に変な事を……」

「い、いや、私もすまない。その、予想外の事を言われて思わず……」


 確かに仕事をしていたと思ったら、いきなり美しいと言われるなんて思わないだろう。

 それにしても言われ慣れていそうな魔王様が、こんなに初心な反応をされるとは思わなかった。


「飲み物でも、用意してきますね」

「私の部屋に茶葉が置いてあるから、好きに使ってくれて構わない」


 変な空気になったのを誤魔化すように席を立つ。

 ギクシャクとぎこちない動きだったのか、それともまだ顔が赤かったのか、扉外にいた護衛が不思議そうにこちらを見てくるので、お茶を用意してきます、と言い訳めいた口調で伝えて魔王様の私室に入る。



 以前魔王様が淹れてくれたのを思いだしながら、手早く準備する。湯を用意ぐらいならできるが、魔法でカップを浮かすという芸当は出来ないので、トレーに三客載せ、魔法である程度支えながら部屋を出る。


 部屋を出た所で、護衛の魔族がこちらに近づいてくると、私の手許からそっとトレーを取り上げた。


「危ないのでお持ちします」

「ありがとう、助かります」


 護衛の男は一瞬瞠目し、しかし少しためらった後に口を開く。


「いえ……最近、マルコ様がベール様にお世話になっていると、それは嬉しそうにお話されていました」

「あれは世話というか、餌付けというか……」

「勇者の問題でマルコ様も難しいお立場ですが、貴方の存在に救われているのでしょう。ウェンドランド隊の一員として、感謝申し上げます」


 そう言ってトレーという不安定な物を持っているので、それと分かる程度に腰を曲げて頭を下げる。


 マルコは城の警備責任者の為、管理している部下も城内勤務が多い。魔王様の護衛は、その最たる例だ。

 仕事の内容からして、おそらくこの護衛の魔族はマルコの部隊の中でも上位の者なのだろうが……。


「マルコは、慕われているのね……」


 思わず、口から言葉が零れた。

 どうもさっきから、考え無しに喋ってしまう。

 対面している護衛の男も、私の言葉に慌てたように言葉を探す。


「ベール様の部隊の者も、今の貴方と接すれば」

「ごめんなさい、変な事を言ったわ。聞かなかった事にして下さい」


 私がそう言えば、護衛の魔族もそれ以上は何も言わなかった。



 そのままトレーは有り難く持ってもらって、執務室に入る。お茶を飲む為に片づけておいてくれたのか、外に出ていた書類がほとんどなくなっている。

 護衛の男が、書類の海が消えた事によって現れたローテーブルに、トレーを置いてくれた。魔王様はそこに三客のカップがあるのを見て、すぐに私の意図を察してくれたらしい。


「それでは、私はこれで」

「いや、今日はここで一度休憩にしよう」

「しかし……」

「折角ベールが淹れてくれたお茶が、冷めてしまうよ」


 護衛の男は魔王様を見て、それから私へと視線を移す。

 私はそれに、ニコリと笑って一つ頷く。


「偶にはいいじゃない?」

「偶にはいいだろう?」


 私と魔王様は、ニコニコと笑みを浮かべて護衛を見つめる。

 視線に負けたのか、護衛の男は扉へと向けていた身体を、室内へと戻した。



 それから少しの間、三人でお茶を飲んで何を話すでもなくのんびり過ごした。

 深夜のお茶会が終了する頃には、私と魔王様の間に流れた変な空気も、紅茶と一緒に綺麗にサッパリと消えていた。



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