思惑
倫太郎のロリコン婚約の話は社内だけでなく、広く知れわたっている。
沙羅はきちんと内外に御披露目が終わっているからだ。
それでもケックステクノロジー社長の魅力は大きい。
年の差があるため、恋愛関係ではなく政略と思われ、妻がいても愛人としてお金をかけてもらおう、とする女性もいたりする。
日本人の純血を守るための結婚、そういう認識があるのだ。
それは沙羅の方にも言える。
長いストレートの黒髪と大きな瞳は、母譲りなのであろう。
女性に不自由しない男二人を執着させた母だ、魔性に見えない魔性がある。
沙羅の追加オプションが政略で年の離れた男に嫁がされる儚げな美少女だ。
男性達の沙羅を見る目は熱い、鷹司の令嬢で二条金融グループの唯一の後継者、何もケックステクノロジーにやる必要はない。
「こちらには?」
コンサルティングセミナーに参加していた沙羅の目の前に色鮮やかなカクテルが置かれた。
「少し休憩はどうかな?」
そこにはセミナーの参加者だろう、見知らぬ顔の大学生ぐらいの男がいた。
「せっかくですが、お祖父様から見知らぬ方からの飲食物は避けるように言われてますの。」
何でも祖父のせいにできるのは便利である。
「僕は一宮真人、もう知らない人物ではなくなったね。」
沙羅はクスッと笑って、
「益々怪しい人物になりましたわ、どなたか他の女性を誘われたらいいわ。」
「一宮の次男だよ、僕も純血だ。」
君のお眼鏡に叶うだろと言わんばかりだ。
「祖父の許可がないと無理ですわ、ごきげんよう。」
沙羅はわざと淑やかに会釈をして席を立ち離れる、心の中では自滅しろと思っている。
おとなしい印象をつけて相手の出方を伺う。
はっきり言って面倒だが、余計なトラブルは避けたい。
大学生でこのセミナーに参加するとは富裕層の息子なのだろう、実際に自分は中学生である。
中学生にカクテルを勧める、魂胆が丸見えである。
普段、スイスのお嬢様学校に通学している沙羅の他者との接点は少ない。
ここは最高のチャンスなのだ。
「一宮君、お嬢さんにお酒はいけないね。
大丈夫かい?」
さも心配そうに別の男性が声をかけてきた。
「僕は桐生悠雅、マサチューセッツ工科大の学生だ。」
沙羅の長い睫毛が潤むように目を伏せる。
まさしく小悪魔、倫太郎で磨いたスキルである。
声かけてきた男性以外も注目をしている、沙羅の一挙一動に視線が集まる。
あの時、偽のパスポートでワープゲートを通過しようとした。鞄の中には違法薬物。
ママには、わざとバレるように言われていた。
心臓が爆発しそうなぐらい緊張していた、審査官の目に留まるよう、犯人達の手が届かない距離を取るよう、声を出すタイミング、周り中に神経と尖らせていた。
これぐらい、あの時の緊張に比べればどうってことない。
倫太郎にだけ好かれればいい。
けれど、魅力がないと倫太郎にも誰にも好かれはしないのだ。
そして、魅力は倫太郎を繋げ止めておける、子供でもそれぐらいは解る。
でも、魅力ってなんだろう。
それが解らないから、沙羅は試したのだ、倫太郎に。
反応が悪いものをしないようにした。
子供は恐れをしらない、倫太郎は実験台にされているとわからないままに、のめり込んでいった。
セミナーが終わるとすぐに声がかかる、ここで帰させるものかと思案が伺える。
「もう日本人の純血の次代は終わる。汎用ゲートが公表になったからね。建設に時間がかかるだけさ。」
貴族的な美男子が声をかけてきた。
「ニコライ・デーテボルグ・フォン・クライスト、宇宙空間での建設を手掛けているよ。次は土星だ。」
インフラは環境開発の最初に始まる、それは未開の地に入って行くことだ。アグレッシブなのもうなづける。
水や空気、電気製造施設を造り、重力整備の宿泊施設と続くそれが完成して研究者の進出や全てが始まるのだ。灼熱の地や永久凍土の地もある、そこに入る開拓者なのだ。
彼らがゲートの為の建物を造らないとゲート建造は始まらない。
ドートリッシュホールディングス、建築・薬品をメインとしたヨーロッパのグループ企業。
ヨーロッパの貴族家系である
「君はなんてチャーミングなんだろうね、僕にもチャンスを欲しいな。」
「婚約者がいます、それは受け入れかねます。」
「僕はね、今一目ぼれを体感して感動しているんだ。あきらめないよ、婚約者がいても夫がいてもね。」
いかにも貴公子然とした容貌なのに、威圧をかけてくる。
沙羅はこの容姿とバックボーンを持っている、初めて告白されたわけではないが、やはり女の子。
こんなに強く好きだと言われると、やはり嬉しい。
倫太郎から乗り変える気はないが、ドキドキはする。
「ごめんなさい、それは無理なの。」
真っ赤な顔で拒否されても男には無駄だというものだ。
ニコライは自分の容姿に絶対的な自信を持っている。
このセミナーに参加してよかった、運命に出会えたとさえ思っている。
沙羅には、イケメンでもったいないけど倫太郎さんにばれると大変、ぐらいの認識でしかないが、ニコライは奪い取る気まんまんである。
恐るべき狩猟民族、さすがゲルマン人、執拗に追いかけ体制に入ろうとする。
狙われた農耕民族日本人は、まだハンターの真剣さに気づいていない。
そこに先程の男二人も集まって来て、誰が沙羅を送っていくかでもめ始めた。
「ボディガードが外で待機しているので、結構です。」
沙羅の言葉は無視して着いてくる男3人。
沙羅の連絡先をゲットすると、ボディーガードに沙羅を引き渡し安全を確認して帰っていった。




