父と子
ユージンは一言でいうとリーライにそっくりだった。
親子と疑いようもない。
「ユージン。」
「お姉ちゃん。」
会いたかった、会いたかったと抱き締めて泣く沙羅。
まだ6歳なのにユージンは既にいろんな事がわかっているようだった。
「ユージンには後継者としての教育をしてます。」
我々が沙羅に戸籍を与えたように、リーライもユージンに与えたのだろう。
今の沙羅とユージンには何の接点もない、同じ母から生まれた証もない。
二条はユージンの元に膝まづくと、手をとって、
「じいじだよ、ユージン。会いたかったよ。」
泣き晴らした顔は許しを請うかのようだった。
「おじいちゃん。」
ユージンの笑顔が二条を救う。
倫太郎にはわかった。
犯人達はリーライが自らの手で処理しただろうと。
「リーライ・イーシャン総師、ありがとうございます。
貴方がいたから沙羅が生き延びれた。」
リーライは倫太郎からの言葉に驚いたようだった。
「貴方がいなければ、沙羅は生まれる前に美鈴さんごと殺されていたかもしれない。生まれても育ってなかったかもしれない。
貴方は一番安全な方法を取ってくれました。美鈴さんのことはとても残念です。」
犯人達は日本人を生かして返すつもりなど最初からなかったんだ。
鷹司や二条が相手だと金だけとって早々に殺していただろう。
それは鷹司も二条もわかっている。
「美鈴に生きていて欲しかったんだ。」
そう言うと総師は泣き崩れた。
「パパ。」
ユージンがかけよってきてリーライにすがり付いた。
「ユージン、愛しているよ。」
リーライはユージンを抱き締めた。
沙羅はユージンの後をついてきて、リーライに言った。
「16になったら結婚するの、ヴァージンロードを一緒に歩いて。」
「もちろんだとも!」
リーライが満面の笑みで笑った。
その翌日、倫太郎は再度リーライを訪ねた。
もちろん仕事の話である。
「我が社は近いうちに、純血日本人でなくともワープゲートを通過できるようなシステムを開発するでしょう。」
「イーシャングループでも開発しているが、簡単にはいかない。」
リーライは巨額の投資をしても難しい、と言う。
「我が社が100年かけた事です、簡単に開発されては立つ瀬がない。
問題はその後です、混乱が起きるでしょう。」
「利権の取り合いだね。今までは純血日本人というストッパーがあった。
それがなくなると個人で設置が可能になる。」
「その通りです。」
「いつの間にかテロ組織の戦闘機が上空に現れる、などとあってはいけない。」
「我が社が開発するものは、他社でも開発するでしょう。
それに一番近いのはイーシャンエレクトロンです。
貴方は純血日本人しか使えないシステムを憎んでいる。」
リーライは遠い昔を語るような目で倫太郎を見た。
「そうだね、世の中は全ての人を助けるようにはできていない。
美鈴がね、ユージンを身籠った時に言ったのだ。
嬉しい、とリーライの子供が嬉しいと言った。」
思い出しているのだろう、幸せな顔だった。
「あの近くにワープゲートを作っていたのだよ、美鈴達なら通過できるからね。だがあのシステムは大きく、秘密裏に作るのは難しい。ケックス社の顧客リストに私の名があるはずだ。」
知っている、貴方がいろんな可能性を試していたことを。
「憎しみは続かないんだ、私にはユージンがいるからね。
ユージンを見るのは楽しい、憎しみを埋めてくれるんだ。」
美鈴さん、貴女は沙羅を守ったように、ユージンもリーライも守ったのですね。
「ワープゲートの到着ゲートには管理が必要だろう。」
「イーシャン総師、私はワープゲートは決められた地のみに設置しようと思っています。空港のようにするのです。」
「なるほど。」
「空港の運営のノウハウは我々にはありません。」
「イーシャンにはある。」
「従来のゲートが無くなる訳ではないが、汎用性の高いゲートは大量人員の輸送になる。
物資は従来通りにゲートが仕えるが、集約した方がいいだろう。」
「人の大量雇用が生まれるな。」
「その空港は宇宙にも繋がる、まずは宇宙ステーションだ。」
「次は我が国で作業担当員レベルの会合を開こう。」
長い時間話し合った後にリーライは言った。
「一つ思うのだよ、何故ゲートは純血日本人しか通過できないのか。」
リーライはどこを見るともなしに言う。
「犯人グループが鷹司や二条でなくイーシャンに接触してきたのは、日本人じゃないからだ。
日本人はすぐに正義だ、道徳だと言う。
武士道というやつかな、潔くあれと言うのだろ。
それは素晴らしい事だし、誇れる事だ。だが犯罪者にとっては嫌なものなのだよ。
正義を思えば犯人グループに金を出すなど出来ない事だ。
私は美鈴の為なら躊躇いなく金を出す、日本人は悩みながら金を出す。
それがストッパーなのではないかな。
ゲートはDNAではなく日本人の心を通過させるのではないかと思う時がある。」
そう言ってくれて、ありがとう、と言葉が出た。




