噂
その情報は会社内を猛スピードで駆け巡った。
独身の巨大企業の社長、しかも創業家で株も半数以上持っている。
顔は純血の為、混血には劣るもののそこそこいい。
その社長が婚約したのだ。
相手は名家の令嬢というから、狙っていた女性達は諦めざるを得なかった。
だが相手と歳の差があるらしい、というのはどういうことだ。
まだ狙えるのか、政略結婚じゃないか、と女性社員達は興味津津である。
夏休み子供教室。
いろんな企業が小学生を対象に企業の仕事紹介をしている。
ケックステクノロジー社も公募をして公開していた。
「小学生ですでに美少女かよ、すげぇな。」
「鷹司ってあの鷹司かしら、お兄さんはいないのかしら。」
「最初の挨拶で他の子達とレベルが違うと解ったね、ちゃんと調べて来ている。」
午前中に論理を小学生向け単純化したものを説明し、実験をした後、食堂でお昼を取って、午後からは実際のワープシステムを体験するというコースだ。
食堂では鷹司沙羅が噂の的になっていた。
子供教室には毎年社長も顔を出すが、沙羅がいるとは知らなかった倫太郎が固まる。
「どうしてここに?」
「ちゃんと公募で合格しました。午前中の論理も面白かったです。」
「社長、お知り合いですか。子供教室の担当の鈴木です。」
子供教室担当社員があわてて寄って来た。
「あぁ、鈴木君世話になっているね。
こちらは、鷹司財団の御令嬢で二条金融グループ総領家の後継ぎだ。」
聞き耳を立てていた周囲が一気にざわつく、血統書付きかよ、とこぼれ出ている。
「先週は鷹司商事の夏休み体験プログラムに参加していたら、お祖父様と叔父様にみつかって大騒ぎでしたわ。」
それはそうだろう。
ここでもすでにそうなっている。
「来週は二条夏休み子供投資教室に参ります。」
「祖父殿は?」
「もちろん秘密です、どこも社長が顔をだすのね、すぐバレてしまう。」
でも社長が未来を託す子供達を見に来るのはいいことね、と言っている。
うちの公募は論理が理解できる子供前提で公募している、たしか作文を添付させるはずだ。
作文というより量子力学論文に近い、小学生でもそんなものを書けるのがすごいが、倍率2倍というももすごい。
私はそんなの見てないから、本当に実力で来たな。
あはは、と社長が笑いだしたので、周りはびっくりしている。
「たいしたヤツだな。沙羅。」
でしょ、と沙羅がふんぞり返っている。
「鈴木君、昼の休憩中だね、少し私もお邪魔させてもらうよ。」
沙羅の前の席に座ると、
「倫太郎さんお昼まだでしょ?ちゃんと食べなきゃ。」
と沙羅が母親のようなことを言ってくる。
周りは、倫太郎さん、って何だ、と沙羅に驚いている。
沙羅は南米の日焼けた肌から元々の白い肌になっている。
手入れされた髪も、どこをとっても美しい少女だ。
倫太郎は社食のランチを注文して食べ始めた。
「私、お料理練習しているのよ、期待していてね。」
「必要ないだろう、シェフがいるからね。」
「倫太郎さんに食べてもらいたいの、わからないの?」
「悪かった、家庭の手料理なんて食べてないから気が付かなかったよ。
だがシェフは本職なんだから、それが上手いと思うよ。」
「ゼ―――タイに沙羅の料理が世界一美味しいと言わせて見せる!」
なんだこの会話、聞き耳を立てている周りの反応は、11歳と26歳の会話の違和感に戸惑っている。
「あ、きゅうり残そうとしている!」
め、と沙羅が自分のフォークに倫太郎の皿からきゅうりを刺すと倫太郎の目の前に突き出した。
「きゅうりの必要性を感じないね、栄養価は低いし。」
沙羅はきゅうりをパクンと口に入れると倫太郎に口づけし、きゅうりを倫太郎の口に押しやった。
「沙羅!どこでこんなの覚えてきた!」
周りからも悲鳴があがる。
「ライがママにしていた。」
きゅうり、食べさせてやった、と沙羅が言う。
ライとは何者なんだろう、話を聞く限りでは沙羅の母親を大事にしていたようだ。
だが、ここは会社だ、すでに衆人の注目を浴びていた。
「わざとしたな。」
「トーゼンよ。倫太郎さんを狙う虫を追い払わなくっちゃ、私にはハンデがあるからね。
まだ小学生なんて悲しすぎる。」
「沙羅が婚約者だ、アピールしなくていい。」
周りは戦場のごとくの大騒動になった。
「さて、時間だ、私は行くよ。あまり騒動起こすなよ。」
「はい、倫太郎さん。みなさんもお騒がせして申し訳ありません。」
にっこりほほ笑む様は自分の容姿をわかってやっている。
沙羅はテーブルの機械に子供教室で配布されたカードを通し操作するとアイスティーがでてきた。
倫太郎が沙羅の為に注文していたらしいケーキも一緒だ。
ふふ、と笑うと沙羅はパクンとケーキを食べ始めた。
ママはいないが、こんな幸せな日が来るとは思わなかった。
ライは弟を大事にしていた。ライの元にいるなら、大丈夫だろう。
弟はライの元に行けたのだろうか。
怒涛の夏休み子供教室は終わったが、翌週には二条でも同じような騒動になった。




