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DNAジャパニーズ  作者: violet
20/22

株主総会

「その資料の信憑性を知っているか。」

リーライがハオランに言う。

「イーシャン総師は、代表を決定してない理由がある。

その金額は別に流用する予定だから決定できないのだ。

この10憶ドルは別会社を作るための資金であるというのがこれだ。」

リーライには答えずにハオランは意気揚々と声を上げる。

「3年後には海王星を出て外宇宙にステーションを建設する。

その投資ファンドの売りだしだ。

投資家は錚々たるメンバーだ。間違いなどない。」

ハオランは投資額を確認するとモニターに映し出した。

株主達がいるテーブル自体がモニターになる。


地球人類は貧困層を中心に爆発的に増えている。

度重なる異常気象で住める地域と住めない地域の差も開いた。

住めない地域のインフラは整備もされず、犯罪者の巣窟になっている所もある。

反対に住める地域は人口密集率が貧困国程異常に高い。

汎用型ワープシステムはそれさえも解消できる可能性を秘めている。

高価な宇宙船でなくとも宇宙に人類をだせる、そこを開拓する人間はたくさんいるのだ。


そこには利潤を生むループが存在する。


「リーライ、貴方はこれを売りだしておきながら、我々には一説の説明もなかった。

しかも資金はグループ各社からの余剰資金だ。

本来なら株主に配当すべきところを流用している。

我々は株主としてリーライ・イーシャンを背任で訴える。」

釣れた、リーライはほくそ笑んだ。

「その存在は知っている。」

リーライの言葉に会場からモニターを見つめる視線が熱くなる。自分も1枚かみたい、利潤が確定しているファンドなのである、しかもそれは未知なる可能性を秘めている。


「ワープシステム管理会社創設の為に貴方は10億ドルを用意したが、実際は大半をこの宇宙ステーションに使われる。不足分をファンドという形にしている。

あきらかにこれは違法性をもつ行為である。」

ハオランの鼻息はあらい、どうだ、と言わんばかりに次々とデータをモニターに映し出す。


これはリーライが長い時間をかけ用意したファンドだ。

最後はニコライ・デーテボルグ・フォン・クライストが仕上げた。

彼がからむことで、白人至上主義のメンバーが名前を連ねたのだ。

リーライも二条もニコライもファンドに、かかわったように見えるファンドである。

イーシャングループ、二条金融グループ、ドートリッシュホールディングスの資本参加による宇宙開発、と外宇宙の開拓、植民地化。

ケックステクノロジーをメインにしていることで汎用型ワープシステムが優先的に建築されるのは見えている。

リーライはこのファンドを作り蛇黒に流した。

二条もドートリッシュもケックスも知っていたが関係の否定を表示しなかった。

ケックスの倫太郎は煽りさえしたのだ。

外宇宙開発を視野にいれている、と公言している。

ただし、時期や詳細は追求されても言わなかった。

ただ、この投資に信憑性を持たせる為に時期を選んで言ったのだ。詳細など決まっているはずもないが、汎用型ワープシステムで研究者達が現地に行けるようになるのだ、開発が加速する事に間違いない。


人は否定をしなければ肯定と取るのだ、欲が先に目に入った人間には特にそう思える。


「そういうファンドがあるという情報を知っている。

身に覚えのない名前の使われ方はよくあることだ。」

リーライ・イーシャンの言葉に会場が鎮まる。

「何故にかと考えた、私の名があった方が信頼度が高まるという事なのだろう。」

それはどういうことだ、会場の人々がモニターに食い入る。

「私の名前を仕える人間はそうたくさんはいない、私の名前をだしても疑われない人物。」

モニターがもう一つ表示されイーシャン・グループの連結決算書が表示された。

単位は億ドルなので見やすい。

「監査報告もあります。どこか不明な所があれば詳細をお見せします。

ワープシステム管理会社の創設資金は、ワープシステムを自社で開発する必要がなくなった研究資金を転用すると、臨時株主総会で役員会の結果として報告、認可を得てます。」

リーライの説明に合わせ秘書がモニターを操作する。

そこに確かに10憶ドルを超える額があるが、新規事業の会社が各国の空港に同時設立の報告が添付されている。

「同時設立である為、代表役員を含め、上部執行役員を各国からの選抜であり内定は済んでますが、公表までに至ってないというだけです。ゲートの建設も進んでおり、この資金を流用というのはありえないでしょう。」

この決算書では、ハオランの言う資金の流用が見当たらない。



ファンドは最初の3年間は5パーセント還元確定だが、翌年から10パーセント以上配当還元となっている。

甘すぎる話だが、宇宙開拓という言葉と世界情勢、プライベートエクティーファンドで今しか買えないという期限付きの誘惑に巨額の投資がされた。

イーシャン、二条、ドートリッシュの名の信頼度は高い。

プライベートエクティーファンドということで第3セクターの金融機関が振り込み先であっても疑うことはなかった。

イーシャンも二条もドートリッシュもグループ内に銀行や証券会社があるにも関わらず、そのどれでもない。


ケックスと二条、鷹司は倫太郎と沙羅の婚約で関係が強化されているが、イーシャンの接点がない。

沙羅とユージンの関係が秘密にされているからだ。

だが、汎用型ワープシステムはケックスとイーシャンの共同会見で公開された。

イーシャンは次を狙って動いていると市場が見るのも当然のことだった。


そこにこのファンドが出てきた。

最初は投資家達も最低額の大きさに躊躇していたが、そこに投資者として鷹司冬斗の名前を見た時に躊躇いから我先にと変わった。

冬斗は名前を使うことを志願した、この投資で必ず犯行グループの首謀者達を釣り上げる為に。

鷹司と二条は濃密な関係にある、それが投資をしているのだ。

そうやって見ると、10パーセントどころかもっと期待できる利益があるはずだ。

公開して小さな額をたくさん集めるより、宇宙開発の資本参加のパートナーを集める為にプライベートは納得できる。

投資という面でも、宇宙開発にリードする会社への経営参加という面でも魅力は大きいと思わせるに充分であった。

だが、このファンドは意志をもって特定の人物の眼に止まるように頒布されていた。

リーライが14年間でたどり着いた人物達だ。

14年もの月日を使わねばたどり着けなかったということだ、そして密かに渡りをつけるに必要な年月でもあった。

金を持っている者のみが捕まる罠、それがこのファンドである。

このチャンスしかない、二度目はない。


イーシャンの株主総会でほとんどの株主がこのファンドを知らなかったというのも当然のことである。

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