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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第四章】ドラゴンとメイドと来訪者
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イルシュの剣技 その2

 「始めっ!」

 ジャルバ団長の号令と共に一気に場の緊張が高まる。

 いきなりの剣戟と思いきや、最初は静から始まる。

 間合いを取りつつ、すり足でホートライドとの間を計るイルシュ。


 基本的に先手必勝が多いホートライドは攻めあぐねていた。

 同じ正眼の構えでも、イルシュと自警団とは隙が違う。

 様子を見ていたジャルバ団長も思わず(うな)った。


 彼女のブレの無い構えは常に攻防一体でありつつも、ホートライドの出足を上手く潰していく動きを絶やさない。

 (これが正規軍の剣技か。)

 自警団は基本的に集団で外敵に勝つことを考えており、その剣も相手を仕留めるための剣だ。

 眼前の敵さえ倒せば済むという思考から、結果的に無茶な攻撃が多い。

 それに対して軍隊は継続の剣だ。多対多で戦うことを前提として、兵士を消耗品とは考えず、敵から敵へ、戦場から戦場へと戦い続けることが要求される。

 つまりは被害を最小限に抑えつつ、可能な限り戦い続けられるように教育されているために、剣は必然的に攻防一体の型になっていく。

 立ち合いひとつでこれほどまでの違いが出るものか。


 だが(にら)み合いはホートライドの初手で破られた。

 イルシュの(せん)の足をひっかけと踏んだホートライドは、声を出さずに突きを伴って彼女の懐に飛び込んだ。

 だがイルシュは最小限の動きでその突きを木刀で逸らすと、そのまま彼の脳天めがけて振り下ろす。

 突きで伸びきった手を返そうと体が硬直する瞬間を狙ったが、ホートライドは足さばきで避けた。

 流れるような動きで間合いを再びとる二人。

 だが間合いを完全に取らせる前にホートライドが再び踏み込む。

 右へ引いた剣をそのまま返して低めに胴を薙ぐ。

 叩き落とすか受けるかを迷うことなく、イルシュは剣の根元で受けつつ軸足をずらして衝撃を逃す。

 隙を作らずに態勢を戻したイルシュは、そのまま彼の頭を狙って振り下ろした。

 これはとどめの剣ではなく誘いの剣だ。

 頭を守ろうと薙いだ剣をそのまま頭上に持ってきて防御するホートライド。剣の威力を二頭筋で正面から受けきる。

 だが意図的に胴を開けさせるための一の手であり、二の手を仕込んであるイルシュは振り下ろした木刀を滑らして横に抜くとそのまま彼の胴を狙った。

 踏み込みは浅く切っ先が彼の胴を薙ぐかと思った時であった。

 ホートライドは肘当てでその切っ先を打ち逸らした。だがすさまじい衝撃が肘当てを通しても彼に伝わる。

 「ぐっ…。」

 その予想外の防御にイルシュは思わず後ずさった。

 団員たちが一斉に歓声を上げる。

 「うわ…そんな避け方ありかよ…。」

 正眼の構えに戻しつつ吐き捨てるように言うイルシュ。

 学校での剣技の授業で体を張った防御は禁止されていた。真剣であんな防御をしたら確実に肘が破壊されて使えなくなる。

 倒したら次の敵、倒したら次の敵と教えられている軍隊では、消耗する戦い方は教えない。だからこそ彼女はホートライドの防御に対応できなかった。

 間合いを取り剣の正眼を崩さぬまま、イルシュはすこしズレた眼鏡を直した。

 実戦であれば間違いなく切り込まれる隙であるが、さすがに模擬戦でそこまで追い込んでくるほどホートライドも小者ではない。

 「でも、そういうやり方は長続きしないわ。」

 そう諭すように言うと、イルシュは腰だめに近い下段の構えをした。

 見慣れぬ構えにホートライドは剣先を正眼に戻し、不測の行動に対応できるように身構える。

 下段の構えは足を狙うものであり、相手の機動力を落とすための作戦だ。

 ホートライドの強さを足さばきと見抜いたイルシュは、その足を封じることに作戦を変更したのだ。

 戦場でも下半身の備えを万全にしている兵士は少ない。だからこそ、相手の足を狙えば必然的に動きが鈍るので確実に仕留めやすくなる。

 いかに木刀と言えども、(すね)に当たればしばらくは歩くことすらままならなくなるであろう。

 ジャルバ団長は彼女の目的を見抜いたがゆえに迷った。自警団は基本的に対人戦を重要視していないために、足を狙ってくる人間のような相手が苦手な者が多い。

 だが剣技の伸びにおいて一目置いているホートライドが、この状況をどう打破するのかを見てみたい気がしたのだ。


 しかし、彼が迷っている間に事態は動いた。

 ただでさえホートライドとの身長差が大きいイルシュが腰を落とし、一歩深く踏み込んだ瞬間に大きく薙いだ。その深さは瞬時の後退程度では逃げ切れない深さだ。

 そしてこれを避けようとすれば必然的にジャンプをする者が多い。だが空中に逃げてしまえばその瞬間詰みになる。

 それこそキルトランスならいざしらず、普通の人間は空を飛べない。

 宙に浮いた瞬間に体当たりをすれば大抵の者は転ぶのでそこにとどめを刺す。

 木刀が彼の脛に切り込む。ホートライドの足が浮いたと思った瞬間、イルシュは勝ちを確信した。

 (やれるっ!!)

 そう思った瞬間、ホートライドは予想外の行動に出た。

 浮いた足は前足だけであり、後ろ足は地についたままであった。

 そして浮かせた足でイルシュの剣の柄を踏みつけたのだ。

 彼の体重が乗った前足に抑えられた柄は地面にたたきつけられ、握っていたイルシュも共に地面に落とされる。

 一瞬何が起こったか分からなかったイルシュが慌てて視線を上げると、目の前にホートライドの膝があった。

 そしてその上には大上段に構えたホートライドの姿があった。

 イルシュはその瞬間に負けを確信した。この状態で剣を振り下ろされれば確実に死ぬ。 だがそのホートライドの顔を見たときにイルシュは思わず笑い出した。

 「ぷっ…はぁあ!はっはっ!なんだよその顔は!」

 ホートライドの顔は驚愕していた。彼自身が何が起こったのかが分かっていなかったのだ。

 無意識に体が動き、大上段に構えた腕は振り下ろすためではなく、体をより遠くに伸ばす反動をつけるために振り上げただけであったのだ。

 「び、びっくりした…!」

 ようやく我に返ったホートライドが、彼女の剣を踏みつけたまま大声を上げた。

 その瞬間、団員たちも彼女につられて大爆笑した。

 「そこまで!!」

 ジャルバ団長の号令と共に二人の立ち合いは終わった。

 そしてその笑い声の中、突然真顔に戻ったイルシュがホートライドをにらみつけた。

 「いてぇから早く足どけろよ!」

 柄を握ったままのイルシュの指は、ホートライドの足によって地面にめり込んだままであった。


 ホートライドへの賞賛と、イルシュの健闘を称える声の中、彼女はふてくされた顔でキルトランスたちの元に戻ってきた。

 「なんだよ、あの雑な技は!」

 憤懣(ふんまん)やるかたないイルシュにジャルバ団長は笑って迎えた。

 「お疲れさん。いい試合だったぜ。」

 だが彼女の怒りは収まらない。手に持ったジャルバの木刀を投げて返すとジャルバは難なく受け取った。

 「お前があんな雑な技を教えてるのか!」

 「いやいや、オレだってあんな技は初めて見たぜ。」

 そういってジャルバは笑う。それは本当だ。

 「あれはマグレで勝っただけだ。その証拠にホートライドが一番びっくりしてただろ?」

 憮然(ぶぜん)とした顔のイルシュ。

 「マグレに負けたのかよ!」

 「そうだろ?マグレでなきゃ絶対アンタが勝ってたさ。」

 さりげなく彼女の機嫌を取るジャルバ団長にほだされて、イルシュの険しい顔が少し緩む。

 「あ、当たり前だ!普通の剣技で私が田舎の自警団ごときに負けるはずがない!」

 「じゃ、次は勝ってくれよ。」

 そう言いながらもジャルバ団長は、仲間に絡まれてるホートライドを見た。


 ジャルバが最もかっているホートライドの能力は瞬時の対応力だ。

 あんな無茶な芸当がそうそう成功するはずもない。だが初めて見る技に瞬時に対応してみせた防御本能はおそらく自警団でも一番であろう。

 ジャルバは内心で改めて彼の団長への素質を確認した。

 愚かな指揮官は戦って死ぬことを美徳とするが、優秀な指揮官は戦って生き残って再び戦場に立つ戦士を最上とする。

 その優秀な戦士に最も必要な能力をホートライドは持っているのだ。

 戦いにおいて最も被害が大きくなるのは指揮官の死亡だ。最前線で戦って生き残って指示を飛ばすことができる指揮官こそが最も強い部隊を作る。そう考えているジャルバにとって、ホートライドは次期自警団団長に最適なのだ。

 ジャルバは満足げに顎髭を撫でながら団員の訓練を眺めていた。


 「イルシュ、おいでよ。」

 手袋を外して踏みつけられた指を見ているイルシュにレッタが声をかける。

 レッタの前で無様な姿をさらしてしまった事に引け目を感じているのか、彼女はとぼとぼと歩いていった。

 「お疲れさま。頑張ったね。」

 妹をなだめるように優しく語りかけると、痛そうな指をやさしく握った。

 「とりあえずキルトランスに治してもらいなよ。」

 その言葉でイルシュが驚いてキルトランスの方を向く。

 「え、アンタ治癒魔術も使えるのか?!」

 眼だけでイルシュの方を向いて面倒そうに答えるキルトランス。

 「ああ、得意ではないが使える。」

 「ええー…なんだよ、それ…。」

 彼女もまた、魔族が治癒魔術を人間に使うことに驚いた。

 「嫌ならやらなくてもよいのだぞ。」

 そう言ってそっぽを向くキルトランス。その少し子供っぽい仕草に苦笑いするアリア。

 「いや、やってくれ!」

 一も二もなく即答するイルシュ。このじんじんと痛む指を治してくれるのなら誰でも構わなかった。それこそ魔族であろうが。


 「やれやれ、アルビに来てからというもの、一番使っているのは治癒魔術だな。」

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