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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第四章】ドラゴンとメイドと来訪者
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少女の密やかな嫉妬

 戯れが一通り終わると、レッタは何事も無かったように言い出した。

 「さーて、寝ましょうか。」

 すると立ち上がって軍服の乱れを直していたイルシュが応えた。

 「そういや、私はどこで寝ればいいんだ?」

 「あ、そう言えばまだ考えていませんでしたね。」

 すっかり忘れていたという口調でアリアも呟く。

 レッタは「うーん…。」としばらく考えたが、さも当然のように言った。

 「キルトランスの部屋で寝ればいいんじゃない?」


 「「「え?」」」


 アリアとイルシュ、そしてキルトランスの声が重なった。

 しかしレッタは、むしろその反応が理解できないといった感じで話を続ける。

 「え、いや、だって…イルシュはキルトランスの監視に来たんでしょ?」

 イルシュがうなずく。

 「だったら一緒に寝る方が監視にならない?」

 イルシュが慌ててレッタにくってかかる。

 「そ、それはそうだけど…!なんというか…っ!!」

 どう説明すればいいのか迷っている彼女の顔を見て、レッタがにっこりと笑う。


 「帝国軍人さん、もしかして怖いの?」

 「はい!怖いですぅ~!」


 即答であった。

 レッタからすれば嫌味のつもりで言った言葉だが、どうやらイルシュには帝国軍人の誇りは無いらしい。

 「アンタねえ…。」

 しかし、こうもはっきりと言われてしまうと二の句の告げようがない。だが誇りをかなぐり捨てたイルシュは強い。

 「だって隣でドラゴンが寝てるなんて、安心して眠れるわけないじゃん!」

 言われてみればその通りである。

 アリアもレッタも慣れてしまったが故にキルトランスに対して恐怖心は無いが、イルシュは今日会ったばかりなのだ。「見慣れた」と本人が言っても、それは視界の中にいても驚かなくなったという程度の話であって、朝起きて目を開けたら目の前にドラゴンがいるというのはまた別問題なのだ。

 「で、でもキルトランス様は人間を襲いませんよ。」

 なんだかキルトランスを悪く言われたようで、納得いかないアリアが擁護(ようご)に回る。

 「そんな保証がどこにある!!」

 「そうだぞ。」

 キルトランスが便乗する。ここで否定しておかないと、この鬱陶(うっとう)しそうな女が同居人になりかねない。そうなれば今度はキルトランスが安心して眠れない。

 「え、キルトランス、この子襲うの?」

 意外だという顔でレッタとアリアが彼の方を向く。

 「こんなギャーギャーとうるさい人間が隣に寝ていたら、寝ぼけて吹き飛ばしかねない。」

 真顔で答えるキルトランスに思わず笑い出す二人。

 「あー。ありそうね。」

 「いやいや、ねーし!私だって寝るときくらい静かだし!」

 「じゃ、いいんじゃないの?」

 「それはイヤだ!!」

 軽妙なやりとりのレッタとイルシュだが、イルシュはいたって真面目だ。そこにキルトランスが口をはさむ。

 「と言うよりも、私の部屋にはベッドは一つしかないのだが。」

 その言葉にアリアがハッとなるが、レッタはそれには気が付かなかった。

 「そっか…そう言えばそうだわ。」

 レッタは顎に手を当てて考え込む。

 「確かにキルトランスが大きくて二人ではキツイわね…。」

 「ね?ね?だから一緒に寝るのは無理だって!」

 この時とばかりに叩き込むイルシュ。

 「そ、そうですね!私もキルトランス様と一緒に寝るのはいかがかと思いますよ!」

 アリアも控えめに反論する。


 アリアは想像した。キルトランスの隣にイルシュが寝ている様子を。

 すると胸の奥に小さな(とげ)が刺さったような痛みを感じる。その痛みを彼女は本能的に嫌だと感じたのだ。

 あの日以来、レッタがいない日はキルトランスを呼んで一緒に寝るようになった。それは彼女の数少ない秘密であり至福のひと時であった。

 それをイルシュが感じることを彼女は許せなかった。

 もちろんイルシュがそんなものを感じる事はないのだが、そこはそういう問題ではなかった。その居場所をほかの女に()られると感じる事に耐えられないのだ。

 それを世間では嫉妬(しっと)と言うのだが、初めての嫉妬を知った少女は、自分の胸の(おぼろ)とした気持ちを形容する言葉を持ち合わせていなかった。


 「だから私はお姉さまと同じベッドで寝る!!」

 そう強い口調で言い切るイルシュに、レッタはそっけない口調で答える。イルシュの顔は心持ち上気していた。

 「え、駄目よ。アタシはアリアと一緒に寝るもの。」

 さも当然のように答えるレッタ。

 むべなるかな、彼女にとってアリアの家にいる日は一緒に寝るのが当然だからだ。昔からずっとそうして来た習慣なのだ。

 「そこに私も入れてくれればいいじゃん!」

 なおも食い下がるイルシュ。

 イルシュのミナレバでの寮は女子寮である。男女平等のラクメヴィア軍と言えども、さすがに寝所(しんじょ)は男女別であり、四人部屋で他の軍属の女子と寝食を共にしていた。

 だからこそ一人で寝る経験があまりなく、一人が寂しいと感じてしまうのだ。

 ちなみにたまに実家に帰ったときは、それらしい理由をつけて姉妹の部屋で寝ることが多い。

 「いや、さすがに一つのベッドに三人は無理でしょ。ねえ?」

 困ってアリアに話を振るアリアだったが、彼女は虚を突かれたように戸惑う。

 「え?!え~…そ、そうですね。さすがに三人は…。」

 言葉を濁しつつ曖昧(あいまい)な笑みを浮かべるアリア。

 「そんなぁ…。」

 「大丈夫よ。もう一つ客室はあるから、イルシュはそこで寝なさいよ。」

 「そうなの?!」

 食いつくイルシュ。とりあえずドラゴン同居は避けられそうだ。

 「ま、さすがに部屋の準備してないから、今日は使えないけど、そこだったら大丈夫よ。」

 胸をなでおろすイルシュ。

 この際、一人寝の寂しさは我慢することにするか…。ドラゴンと同じベッドに寝ることを思えば天国だわ。

 「だから今日だけは一緒に寝ましょうか。」

 苦笑するレッタに飛び上がって喜ぶイルシュ。ただただ苦笑いするしかないアリア。

 そして静かに寝られることを密かに喜んだキルトランスであった。


 かくしてイルシュの同居か始まった。


 ただし翌日、イルシュの部屋がキルトランスの部屋の隣だという事が発覚して、再び大いに揉めた事は仕方のないことである。

 そしてアリアは気づいていなかった。

 イルシュがいる間、キルトランスを部屋に呼べなくなった事に。


 ルーナの半月が静かにタタカナルの村を照らす。

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