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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第三章】ドラゴンと少女と村の人々
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魔獣死すべし

 『魔獣』とはアルビに昔からいる野生動物のうち、魔力を持っている獣を指す。

 基本的には獣と変わらぬ知能であるが、魔力を持っているために暴れると甚大な被害をこうむる場合もある。


 視線の先の魔獣「ガットユール」は一見ヤギの角を持つキツネのように見えるが、その大きさは大人になると熊に匹敵する巨躯となり、魔力を除いた攻撃力だけでも人間にとっては脅威になりうる。

 基本的に四匹前後の群れで行動することが多く、村のはるか北に見える南ラクメヴィア山脈の中腹からタタカナルのある平原の近くに生息している。

 人里に近づくことはあまりないが、春先になり子供が生まれると、その子供のエサを探して平原の方まで来ることも多い。

 そして子連れのガットユールの母親は特に気性が荒く、ジャルバ団長の「親子とは面倒な」という言葉の意味はそこから来ている。

 肉食なので村の郊外に放牧されている牛や羊たちが狙われる事が多いが、時折人間にも襲い掛かり被害を出すこともある。

 だから春になるとしばしば村の近くまで来て、それに自警団が応戦するのはある種の風物詩でもあった。

 しかし彼らの厄介さの最大の特徴はやはり魔力による攻撃であろう。

 ガットユールは知られている殆どが土か水に関する魔術を使い、地割れ(アースクェイク)液状化(マッドハンド)水流槍(アクアジャベリン)などで攻撃をしてくる。

 土の魔術は団員が足を取られるだけでなく、畑で使用されれば農作物にも被害が出るという厄介な敵なのだ。


 しかし昔ならいざ知らず、今となってはある程度の習性が知られているが故に、二~三匹であればそこまで危険度の高い魔獣ではない。それでも多少の負傷者は出るが。

 だが(まれ)に六~七匹という群れで襲来することがあり、そうなると自警団員たちも無事では済まなくなる。

 村の言い伝えでは五十年ほど昔に八匹のガットユールに襲われた悲劇が今でも語り草になっている。

 その時は家畜や畑の被害はもちろん、団員の死者:十一名・負傷者:二十七名と、実に自警団の戦力の八割近くが戦闘不能になる大惨事となった。

 自警団の者は必ずその昔話を聞かされるために、この時期に甲種警報がなると緊張が走るのだ。



 徐々に近づいてくる魔獣ガットユールの姿をジャルバ団長が睨んでいると、彼の背後の下から声が聞こえてきた。

 下を振り返ると櫓の下に第一陣の団員が到着しており、視線を上げれば村の中心から次々と団員たちが走ってくるのが見えた。

 ジャルバはそれを見て、初めて自分たちがどれだけの速さでここまで飛んで来たのかを実感したのと同時に、キルトランスの魔術の凄まじさの片鱗を実感した。あの日庭先で見た火球も決してハッタリだけではなかったのだ。

 「キルトランス殿、下ろしてくれ。」

 そう言うとキルトランスはふわりと地面に降り立ちジャルバ団長を解放した。ついでゆっくりとアリアを地面に立たせた。

 飛んでいるキルトランス達を見ながら櫓に駆けつけてきた団員たちは、歓声と共に次々と集まってくる。

 その様子はまるで緊張感が無く、普段の自警団を知る者ならばおおよそ魔獣戦の前哨(ぜんしょう)とは思えない光景であっただろう。

 「静粛に!各員準戦闘態勢を維持せよ!」

 そのたるんだ光景にジャルバ団長は一喝すると、団員たちは慌てて小隊単位で集まり戦闘態勢を取った。


 「キルトランス殿。あの二匹の魔獣を倒すことが出来るか?」

 ジャルバ団長が真剣な眼差しでキルトランスを見つめる。だが彼はいつも通りの無表情で淡々と答えた。

 「初めて見るから何とも言えないがやってみよう。」

 ふと視線を上げると最後に到着したモルティ副団長の部隊が整列をした。

 (かたわ)らに立つアリアの背中をそっと押し、ジャルバ団長に頼む。

 「エアリアーナを頼む。」

 「分かった。自警団の誇りにかけて守る事を誓おう。」

 真剣に答える団長に対して彼は少しだけ鼻で笑う。

 「そんな大げさな意味ではないがな。」

 そう言うとキルトランスは力強く地面を踏みこみ一気に空に舞い上がった。

 (やぐら)よりも高く舞い上がると改めて魔獣の来ている方角を見た。ガットユールは既に1キロほど先まで来ており、もうすぐ種まき前の畑へさしかかろうとしていた。


 キルトランスはゆっくりと息を吸い込むと一声、吠えた。


 その長い咆哮(ほうこう)は烈震となり力強く広がっていった。


 ガットユールの親子は急に走るのを止めた。

 そしてくるりと向きを変えると立ち去ったのだ。

 「…ま…魔獣が…逃げて行きます…。」

 何が起こったか分からないと言った顔で櫓の団員が報告をすると下の団員たちがどよめく。

 魔獣とて獣だ。

 そして獣は勝てないと分かりきった相手に戦いを挑むほど愚かではない。それは村人たちも知っている事だ。

 つまりあの一声でガットユールの母親は、この声の主が戦って勝てる相手ではないと悟ったのだ。

 歓声の湧く櫓を見下ろしながらキルトランスはジャルバ団長に近づいた。

 「どうする?確か請け負った依頼は魔獣の殲滅(せんめつ)だったが…。二匹しかいなかったがね。」

 そう問うと、ジャルバ団長は静かに目を閉じて考えた。

 「すまんが、やはり仕留めてくれないか?」


 ジャルバは考えた。

 もしガットユールが大きな群れで暮らす生き物であれば、この威嚇(いかく)によって群れの中に「あの場所は近づくな」という認識が生まれるかもしれない。しかし小さな群れのガットユールではたとえあの親子が二度とここに来なくなっても、他の群れには通じまい。

 まして子供のガットユールが大きくなってから再びこの村を襲う可能性もあり、その時にキルトランスがいる保証はどこにもないのだ。

 ジャルバとて無用な殺生を好む男ではない。しかし村の命を守る責を担う者としては禍根(かこん)は出来るだけ少なくしたいのだ。


 「…分かった。」

 キルトランスはそう応えると、目を伏せた。彼もまた無用な暴力を好む男ではないのだ。

 ジャルバの意図がどこまで伝わったのかは分からないが、もしかしたらあの目を伏せたのは黙祷(もくとう)の意味なのかもしれない。

 そして彼の自警団としての初陣である以上、明確な成果を出しておいた方が良い事には変わらないのだ。

 ゆっくりと目を開くとチラリとアリアを見た。ジャルバ団長の横でホートライドに支えられて経っている彼女はやはり不安げな顔をしていた。

 そして風と共に空高く飛び上ると、尻尾をうなだれて帰る魔獣の親子を凝視(ぎょうし)した。


 「…あまり気は進まぬが…。」


 そう一人呟くと、右手の指を二本突出し身構える。

 地表では自警団たちが何が起こるのかと興味深々の様子。だが先日の茶番とは違い、ここで派手なパフォーマンスをする意味は少ない。

 キルトランスは指先に意識を集中して魔力を籠めた。不意に空気がざわめくとキルトランスは突き出した二本の指で空を斜めに切り裂いた。

 その瞬間、空間がビィンッ…と弦をはじいたような音を発した。

 キルトランスは再びふわりと地面に降り立った。

 「終わったぞ。」

 それだけ言うとアリアの元に歩き始めた。

 団員たちは何が起こったのか分からない様子で顔を見合わせていた。ジャルバ団長も言葉の意味が分からずに説明を求めようとした瞬間だった。

 櫓の団員が大声で叫んだ。

 「ガットユール二匹!動きを止めました!倒れて動きません!!」

 驚愕の声が広がる。

 何が起こったんだとキルトランスに問う言葉にアリアの肩を持ちながらキルトランスは

 「自分で見てくればいいだろう。」

 と短く答えた。

 ジャルバ団長は団員を引き連れて走り出した。櫓の上にいた団員たちも慌てて飛び降りて後に続く。

 アリアはキルトランスの声を聴いて、キルトランスが少し不機嫌なのに気付いていた。自分の肩に置かれている彼の手に、自分の手をそっと添えたが、アリアは何も言わなかった。

 何かを伝えたいとは思ったのだが、今の彼に言うべき言葉が浮かばなかったからだ。


 残された二人は真昼の太陽の下、穏やかに風に吹かれていた。

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