表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
PR
52/149

来る人 来られない人

 朝日の差し込む応接室、二人はゆっくりとお茶を飲んでいた。

 その様子は静謐(せいひつ)で淀みなく、まるで緻密に描かれた絵画のように穏やかであった。


 とは言ってもアリアとキルトランス、この二人がお茶を用意するのには大変な苦労があった。

 形を上手く説明できないアリアと、見た事もないキルトランス。その二人の必死の伝達で今こうしてお茶を飲めているのである。

 幸い彼はティーポットとカップを見た事があるのが救いであった。探すのはやかんと茶葉だけだったからだ。

 それでもアリアは彼女の知識の持てる限りを動員して彼にどんな物かを伝えようとしたし、キルトランスも想像を総動員して思い当たる物をアリアに持たせては確認した。


 アリアがゆっくりと香りを楽しむようにお茶を口に含むと、彼もカップから小さなお茶の粒を口の中に放りこむ。

 キルトランスは彼女を見ながら一つ学習した。別にお茶が冷めるのを待つ必要はなく、魔力で温度を下げて一口大に丸めて口の中に放りこめば楽だという事に気が付いたのだ。

 この飲み方であれば、そもそもカップを必要とはしないのだが、そこは人間世界の文化を真似るのが面白くて、見よう見まねでカップに爪を通して人間のように持っていた。

 先ほど厨房で水を探して水瓶を発見した時には内心、この(かめ)に直接口を突っ込んで飲めば楽だな…とは思ったが、柄杓(ひしゃく)で水を汲むアリアを見て思いとどまった。

 あくまでもアルビの文化を知るための偵察なのだから、可能な限り人間の真似をしてみるのも面白いと思い始めたキルトランスであった。


 何杯目かのお茶を注いだ頃、キルトランスがふと顔を窓の外に向け呟いた。

 「ホートライドとジャルバ団長が来たようだな。」

 アリアはゆっくりとカップをテーブルに戻すと二人は連れ添って玄関へを迎えに出た。

 「キルトランス殿、おはよう。」

 「アリア、おはようございます。」

 玄関を開けるとそこには防具を着ていない普段着のジャルバとホートライドが立っており、ホートライドの腕には作り立てと思われる食事が入った籠が抱えられていて、なんとも言えぬ香りを放っていた。

 二人とも帯剣はしていたが、それは単に自警団の義務としてである。二人にもう敵意が無い事は防具を着ていない事よりも表情を見れば明らかであろう。

 四人は応接室へ向かった。


 「あの…今日はレッタは…?」

 座って落ち着くと開口一番アリアが尋ねた。

 渋い顔をするジャルバ団長とホートライドだが、ジャルバは肘でホートライドを(つつ)き、お前の口から説明しろと無言で促した。彼は少し嫌そうな顔をしたが観念したように話し始めた。

 「今日はレッタは来られそうにないよ。と言うより、たぶん数日は家から出してもらえないと思う…。」

 神妙な面持ちで話し始めるホートライド。

 「やはり、ご両親に怒られてしまいましたか…。」

 悲しそうな表情をするアリア。とは言っても事態が事態だっただけに、彼女も内心そうなるだろうと多少は覚悟していた。

 「うん。かなり。」

 そう言って彼も少し苦笑をする。

 「まあ、しでかした内容も内容だから仕方ないけどね。」

 その言葉を聞いたジャルバ団長も苦笑いをした。

 「でも俺もあんなに怒ってたお父さんとお母さんを見るのは初めてだったよ。」

 そう言う彼の頬には少し(あざ)があった。半狂乱で怒るレッタの両親を止めようとして彼も殴られたのだ。だがそれはアリアには見えないのが救いであった。

 「だからたぶん、しばらく家からは出してもらえないと思う。」

 ホートライドはそこまで告げると小さくため息をついた。

 「すみません…。私がレッタを巻き込んでしまったばかりに…。」

 謝るアリアにホートライドは慌てて手を振った。

 「いやいや、アリアは何も悪くないよ。レッタが勝手にやった事だし。」

 「それにたぶん、誰がどう止めても絶対にレッタならアリアの所に辿(たど)りついたと思う…。」

 そう言ったホートライドの脳裏にあの夜のレッタの様子が蘇った。

 彼が戦慄するほどに疲弊したレッタ。あそこまで全身全霊を持ってアリアの元に駆けつけようとしたのは、裏を返せば彼女がどれだけアリアの事を大切に思っていたかの証でもある。

 彼と同じようにジャルバもまたレッタの事を考えていた。彼はもちろん事後報告でしかレッタの事を聞いてはいないが、その全てを考慮しても驚くべき事だったのだ。

 レッタは昔から快活な娘ではあったが、あの厳戒態勢の村で自警団を完全にやり過ごして敵の本拠地の裏木戸までたどり着いたその身体能力と度胸には驚きを禁じ得なかった。

 「何日かしたらご両親も落ち着くだろうからさ。アリアも様子を見に行ってあげてよ。僕も一応毎日行くからさ。」

 気丈な笑顔で顔を上げるホートライドにアリアも答えようと必死で笑顔を返した。

 「ま、そういうこった。別に誰が悪いってもんでもないからよ。あんまウジウジ悩んでも仕方ないぜ。」

 その場の沈んだ空気を吹き飛ばそうとジャルバはわざとおどけて笑った。

 「それよりもとっとと朝飯を食おうぜ。せっかくの温かいパンとスープが冷めちまう。」

 そうですねと肯いてホートライドは立ち上がると、彼は人数分のスープカップや皿を取りに厨房に向かった。

 浮かない表情のアリアもあまり周りに気をつかわせまいと気丈に振る舞って、キルトランスと飲んでいたカップを片付けようとしたが、ジャルバ団長に助けられてお礼を言った。

 キルトランスはどうしたものかと考えたが、特に自分に出来そうな事もないので、大人しく座っておくことにした。


 ほどなくして朝食の準備が整い、四人は朝食を取り始めた。

 今朝のパンは今までと違っていた。

 このパンは保存性を重視したものではなく、嗜好性を重視した柔らかいパンであった。

 堅いパンは日持ちがよく、今頃の春ならば1か月ほどは常温保存が可能だが、その分食感や風味は劣る。

 柔らかいパンは常温で数日しか持たない代わりに、柔らかく芳醇(ほうじゅん)な香りが好評だが、現在のアルビでは贅沢品の部類であった。

 それでも村のパン屋で数日に一度、早朝から作り村人のたまの贅沢として人気はあった。

 今朝はその日であり、ホートライドは家に軟禁されている二人を思って、わざわざ朝早くに買い求めに行ったのだ。

 そして少なくともタタカナルの村が多少なりとも日常が戻ってきた証左でもあった。実際、その芳香は村に流れて村人たちの心に安らぎを与えたのだ。

 そんな焼きたてのパンの香りはキルトランスの鼻と好奇心も大いに刺激していた。


 四人が食事をとり始めると、ジャルバとホートライドは彼の魔力を使ったスープの飲み方に驚き、その後しばらく質問攻めにあったり結局三人まとめて魔力で浮かせたりと大忙しであった。

 ただ焼きたてのパンの甘さには感動し、可能ならば毎日食べたいものだと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ