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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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自分と彼女の未来のために

 「レッタ。座ってください。」

 その言葉に気圧(けお)されて、レッタはへたり込むように椅子に腰を落とした。そして小さく「はい。」と答えた。

 「あのね、レッタ。黙って聴いてちょうだい。」

 そう言って小さく息を吸うと、アリアはゆっくりと話し出した。


 「昨日も言いましたけど、目の見えない私はずっとレッタに助けられてきたわ。もちろんホートライドさんにも、自警団の皆さん、村の皆さん、みんなの助けで生きてこられた、って事を忘れていないつもりよ。」

 「でもね、やっぱりこのままじゃダメだって思ったの。…いいえ、本当はちょっと前から思っていたわ。」

 「私たちももう大人になるでしょ?普通ならもう、みんな独り立ちしてもおかしくない年齢になるのですもの。」

 「レッタだって、いつまでも私と一緒にいるわけにもいかないでしょ?」

 反論しようとするレッタを手で制し言葉を続ける。


 「レッタだってそのうち、誰かいい人と結婚するかもしれないわ。」

 「でも私とずっと一緒にいたら、その機会すら失われてしまうかもしれない。」

 その言葉にホートライドが反応して少しだけ目を()らした。

 アリアはここで少しだけ間をおいて息を整えた。


 「もちろん。私だって一人で生きていけるなんて自惚(うぬぼ)れてはいないわ。やっぱり誰かに…レッタに助けてもらわないと、一人で出来ない事だっていっぱいあるもの。」

 アリアの口元には微かに笑みが、自嘲の笑みが浮かんでいる。それに対してレッタは双眸(そうぼう)に涙を浮かべていた。


 「でもね。そろそろ私も一人で生活する練習をしないといけないと思うの。…ううん、独り立ちみたいに偉そうな意味じゃなくて、一人でこの家でやれる事を増やしていきたい、と考えていたわ。」

 「でも、キルトランス様がこの村に来てくださったおかげで、いつもの生活が変わったの。」

 「私は今の生活を変えるいい機会だと思ったの。だから今、こうやってレッタにお話ししたのよ。」

 そういってゆっくりと息を吐いた。今まで心のうちに秘めていた事を吐き出したように。


 「少しずつでもいいから、自分で出来る事を増やしていくの。手伝ってくれないかしら?レッタ。」

 「そしてそのうち、私がキルトランス様に何か一つでも、自分の力でしてあげられるようになったら嬉しいな…って思ってます。」

 「そうね…とりあえずは我が家のお客様に、お茶くらいは出してあげられるようになりたいわ。レッタの淹れてくれるお茶と同じくらい美味しいものを、ね。」


 そういって再び微笑むエアリアーナ。その笑みには彼女の決意の強さがにじみ出ていた。

 その言葉を聞くレッタは、涙が滂沱(ぼうだ)として流れていたが、嗚咽(おえつ)を押し殺し、ただただ肩を震わせて泣いていた。その様子をアリアに悟らせまいとして。


 「…わかった。」


 そう短く一言応えて、レッタは深く(うつむ)いた。

 その肩は震えていたが、その一言だけは辛うじて嗚咽にならずに言う事ができたのは僥倖(ぎょうこう)だったかもしれない。


 キルトランスは語るアリアを見ながら思っていた。


 この少女は強い―――と。


 人間という物は、自分が魔世界にいた頃におぼろげながら思い描いていた存在よりも、強い生き物だという事はなんとなく分かってきてはいた。

 そして今、感じた。

 この目の前の盲目の少女は、その中でも一際強い心を持っていると。

 その心の強さと高潔さを、キルトランスは好ましいと思った。

 たとえ弱き宿命の生物だとしても、この心の強さは決して魔世界の住人に劣るものではない。

 気まぐれで訪れた村だとはいえ、良い出会いに恵まれたものだと感じ、彼の心の中に暖かい物がゆっくりと広がっていった。

 心地よい風が応接室に吹き込み、カーテンを揺らして微かな音を立てた。

 今日もタタカナルの村には良い風が吹いていた。



 だがこの後にレッタが帰る段になった時に、彼女が散々ごねにごねて大騒ぎしながら、最終的にホートライドに担がれて門を出たのはご愛嬌という事にしておこう。

 人間と言うものは、理解しているからと言って、納得できるものではないのだから。


 帰宅後、レッタは殺されかねない勢いで両親から怒られ、ホートライドも含めて平謝りして辛うじて自宅軟禁状態で許してもらえたのだが、数日後に釈放されることになる。

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