表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
39/149

人間とドラゴンの戦い(訓練)

 「…?」


 真意を計りかねて返答につまるキルトランス。

 だが思案はレッタの大声によって断ち切られる。


 「はぁ?!なに言ってんの!家の中で暴れるなんて非常識にもほどがあるでしょ!!」

 至極正論。

 男たち沈黙。


 「いやいや、別に暴れるわけじゃないぞ?ちょっとした手合せをするだけだ。」

 慌てて取り繕うジャルバ団長。

 「剣振り回すんでしょ?!」

 あまりのレッタの剣幕に、隣のアリアすら怯えている。

 「ま、まあそうだけどさ…。」

 村随一の猛者ジャルバが小娘の剣幕にたじろぐ。

 だが、いかんせんレッタの方が正論であるために反論のキレが悪い。


 ジャルバ団長の変節の真意はこうだ。

 オレガノ邸は周りを(へい)で囲われているとは言え、近隣の家の二階から見える場所が無いわけではない。しかも門はただの格子であるから正面からは丸見えなのだ。

 いくら戦う相手がホートライドとはいえ、その様子を村人に見られるのは少々不安だったのだ。


 しばらくのすったもんだの後に、かなりの条件が付けられた立会稽古のような試合が始まった。

 しかもその条件はほとんどがキルトランスの能力の束縛であり、ほとんど手足をもがれたような内容になってしまった。

 キルトランスは魔術・飛行の使用禁止。

 一方ホートライド側の禁則事項は、家の中の物を傷つけたら二度とオレガノ邸へ来ることを許さないというものだった。

 この条件でも怒りの治まらないレッタではあったが、アリアの(なだ)めもあり、なんとかかんとか立ち合いを許可してくれた。


 ジャルバ団長は立会人として玄関の前に立ち、その前にキルトランスとホートライドの両名が対峙する。

 アリアとレッタは、二人から離れたホールの隅に移動して座り込んだ。


 ホートライドが剣を抜いて正眼の構えを取り、キルトランスは何事もないように立ち尽くした時、部屋の隅からアリアの珍しい大声が響いた。


 「もう一つお願いです!絶対に二人とも怪我しないようにしてください!」


 相対する二人が視線を交わしながら苦笑いする。

 「また難しい事を…。」

 「無茶言うなよ…。」

 害意は無いとは言え剣を交える以上、無傷というのはなかなか難しいものなのだ。

 そして同じく苦虫を噛み潰したようなジャルバ団長の掛け声と共に戦いが始まった。



 気合い裂帛(れっぱく)からの一閃。

 まずはホートライドが正眼(せいがん)からの素早い横斬りで突っ込む。だがキルトランスはそれを後ろに飛びずさり(かわ)す。

 空振りした剣の反動を使って飛びずさり距離を取るホートライド。

 相手の実力が分からない初手であり、怪我させないようにゆっくりめに大振りをしたが、それは難なく(かわ)された。

 (なるほど、この程度の太刀筋では話にならないか…。)

 再び剣を正眼に戻すと、次はさらに踏み込んで速度を上げた逆薙ぎ。これも当然のように躱される。

 だが空振りした瞬間、剣先は方向を変え反す手で二連撃。

 しかしキルトランスはそれを体をひねり、やはり余裕で避けてみせた。

 そして余裕たっぷりに「ふむ…」と呟いたのだ。

 再び間合いを取るホートライド。

 (さすがは伝説の魔物ドラゴン、この程度では話にならない…。)

 そして次は八双(はっそう)の構え、剣を立て体を半身にして構えた。

 ゆっくりと息を吸い丹田(たんでん)に貯める。そして全身に気を巡らした瞬間に、声もなく体を滑らせるようにキルトランスの懐を目がけて足を運ぶ。

 そして袈裟切りからの返し、突きの三連。

 さきほどまでの二撃とは明らかに速度の異なる三連撃は、斬りからのさらに一歩踏み込んだ返しが、何かに弾かれたように鋭かった。

 レッタの口から恐怖の息が漏れる。状況の見えないアリアはレッタの服をギュッと握る。

 しかしその二蓮までをバックステップで躱し、最後の突きの瞬間にキルトランスは手甲で剣を叩き払い喉元を逸らした。そしてその体勢から、素早くホートライドの左に滑り込んで、剣を持つ腕に手刀をたたき込もうと腕を伸ばした。

 伸びきった腕と踏み込んだ力の乗った脚。攻撃直後の硬直状態に近い体勢のホートライドだが、その瞬間に硬直した膝の力を抜いて崩れるように態勢を落とした。

 キルトランスの手刀は空を切った。


 ホートライドは驚愕した。

 我流とはいえ、先ほどの連撃はそれなりの自信作であった。いつもは団長に余裕で防がれる立ち合いでも、この連撃だけは真剣に防ごうとするのだ。

 あの強い団長に、一瞬でも本気を出させるくらいの技。その渾身の突きを素手で防がれたのだ。


 ジャルバ団長はその様子を見て(うな)った。

 あの三連はオレでも本気で防がないと詰む場合のある一手だ。防ぎにくい下段からの攻撃をかわすと、その直後を突きが狙ってくる。

 下段を交わした瞬間に一瞬希望を抱いたが、突きを事もあろうか手の甲で逸らしたのだ。

 一歩間違えれば大怪我にもなりかねない行為を、事もなげに無傷で逸らしたのだ。つまりはその切っ先を確実に見切っていたという証左になる。

 しかしさすがはホートライド。その後の反撃を力で(かわ)すのではなく、あえて力を抜くことで躱したのだ。

 その瞬時の柔軟性はやはりオレが見込んだだけのものはある。


 そしてキルトランスは何とも思っていなかった。

 なるほど、人間の動きとはこういう物かと見ながら反応しているだけだ。

 むしろ咄嗟(とっさ)に魔力を出してしまわないように、注意しながらの回避に徹している。

 それもそのはずである。

 ドラゴン族はそもそもの動体視力が人間の二倍近く高いのだ。

 少々現実的な比喩(ひゆ)となり恐縮ではあるが、パラパラマンガをイメージしてもらおう。

 一秒間に十枚程度の絵であれば、普通の人間ならコマ送りのように見えるだろうが、十五枚を越えればなめらかに動いているように見える。

 まして二十枚を越えれば、普通の人間には完全にコマは見えない。ごく一部の選ばれた者ならば辛うじて見えるのかもしれないが。

 しかし、キルトランスには秒間二十五枚くらいまではコマ送りのように見えるのだ。

 そのためにホートライド自慢の三連撃も、全て切っ先が動き始めてから目視で対応が可能なのだ。もちろんそれに対応できる筋力があっての話ではあるのだが。

 そしてあまりに防戦一方なのも(しゃく)なので、少し反撃の真似事をしてみた。

 だがホートライドはそれをしっかりと避けた。その点に関しては少しだけ感心したのだが。


 「まいったな…さっきの三連撃は自信あったんだけど…。」

 地面を転がり体勢を整えたホートライドは、再び正眼の構えに戻り息を整える。だが口から出た言葉はまだまだ余裕を感じた。

 「そうか…。だがもう少し本気を出してくれて構わない。」

 本人としては全く挑発のつもりはないのだが、結果的にはホートライドの戦意に火をつけた。

 レッタは小声でアリアに耳打ちする。

 (大丈夫だよ。キルトランスは全然余裕あるみたい。)

 それでもアリアの顔から不安な表情は消えない。それもそうであろう。どんなに言葉で余裕だと伝えられても見えないのだから。


 再び気合いを発しホートライドは突撃をする。

 それを先ほどと同じように、今度は左手の甲で外へはじき流すキルトランス。

 だがホートライドは弾かれた剣の流れを利用して腕を曲げ、そのまま肘でキルトランスの胸元を突こうとしたのだ。

 キルトランスもこれには面食らった。

 当然剣で攻撃するものと思い込んでいたので、まさか体術になるとは予想外だったのだ。

 そのために少し体を後ろにずらして衝撃を軽減するのがやっとであった。もちろんダメージというほどでもないが。

 だが予想外だったのはホートライドも同じである。

 不意打ちで入れた肘打ちではあるが、肘が当たった時にまるで鎧に当たったのかと思うほどの衝撃が返ってきたのだ。

 ドラゴンは(うろこ)を持ち、硬い皮膚で体をおおわれているとは昔話で聞いた事があるが、まさかこんなに硬いとは思わなかったのだ。下手な体術は自分が怪我をしかねない。

 体術による不意打ちは諦め、純粋に剣技のみに絞る事にした。


 ここからはひたすら剣戟(けんげき)の嵐となったが、そのすべてを躱し、弾き、凌いでいくキルトランス。

 合間に反撃を試みると、おおよそはギリギリで躱しきるホートライドであったが、手数が増えるにつれ次第に疲労で動きが鈍くなり、キルトランスの反撃を受けるようになってきた。


 「そこまで!」


 様子を見てジャルバ団長が一喝する。

 肩で息をして額から汗を流すホートライドと、片や涼しい顔のキルトランス。

 レッタとアリアは立ち上がりキルトランスの元に歩み寄る。


 「いやあ、強いとは思っていたが、想像以上の強さであったな!」

 そう言ってホートライドの肩を叩きながら、豪快に笑うジャルバ団長。疲れた笑いを浮かべて(さや)に剣を収めるホートライド。だがその顔は充実感にあふれていた。

 「いや~すごいねキルトランス!あとホートライドもお疲れさま。」

 そう言って笑顔でホートライドを褒めるレッタ。

 「そりゃ…どうも…。」

 肩で息をしながらも照れるホートライド。

 アリアは二人の怪我を気にしているが、幸いキルトランスは無傷だし、ホートライドも疲労のみであった。

 「それにしても、魔術を使わずにこれほどの強さとは…。」

 恐れ入ったように髭を撫でて呟くジャルバ団長。無言で同意するホートライド。

 「むしろ、うっかり魔術を使わないようにするのが一番大変だったがな…。」

 苦笑するキルトランス。呆れる男二人。

 「念のために聞いておくが、先ほどの戦いで本気の何割くらいで戦ってたのだ?」

 少年のような顔で聞くジャルバ団長。やはりキルトランスの強さには痛く魅かれたようだ。

 「ふむ…。そうは言われても、そもそも今までに本気で戦ったことがないので答えにくいが…。」

 そう言ってしばらく考え込むが、ポツリと

 「肉体だけで言えば、二割くらいか…。」

 と呟いた。

 それを聞いてジャルバは驚き、ホートライドはげんなりした。

 これほど本気で戦ったのに、相手は二割も本気を出していなかったのだ。しかも最大の武器である、魔術を封印していた状況で。

 「なるほど、ドラゴン伝説も伊達ではないという事か…!」

 再び豪快に笑う。

 「伝説の勇者でなければ、とても太刀打ちできないという訳だな!」

 「で、僕は伝説の勇者ではないですからね…。」

 ため息をつくホートライド。

 「というか、本気で少しでも勝てると思ってたアンタらがすごいよ…。」

 二人を見ながら呆れるアリアとレッタ。



 そうして五人は思い思いに語りながら応接室に戻り、運動後のティータイムとなったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ