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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイドと どらごんめいどへ――  作者: あてな
【第二章】ドラゴンと少女と自警団
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応接室の会談

 キルトランスたち三人が玄関に向かっていると、扉が強めにノックされてホートライドの大きな声がした。

 「おーい、レッタ。昼飯持ってきたぞ。」

 まさか扉のすぐ向こうに三人がいるとは思わず、暢気(のんき)な声がホールにこもって響く。

 アリアとレッタは笑い、キルトランスも苦笑した。

 「はいは~い!お待ちくださ~い!」

 レッタがわざとらしく大急ぎで開けた風を装って開ける。ジャルバ団長とホートライドは予想外の早さに驚きのけぞった。

 「ありがと、ホートライド。まあ入ってよ。団長さんも。」

 そう言ってホートライドが差し出した(かご)を受け取りながら二人を招き入れた。

 二人はオレガノ邸に踏み入れるとキルトランスと対峙する。

 暢気(のんき)なレッタとは対照的に、緊張してオロオロするアリアの隣で、キルトランスは何食わぬ顔で立っている。

 「お邪魔するよ。ドラゴンさん。」

 そう言ってニヤッと笑うジャルバ団長を見て少し驚くホートライド。先刻の対峙の時とは思えない、気を許したような言い方だったからだ。

 「ようこそ、でいいのか?私の家ではないが。」

 キルトランスも少々驚いたように応える。

 「ま、立ち話もなんだからみんな応接室に行こう!」

 そう言って先頭を切って歩き出すレッタ。右手に籠、左手にアリアの手。

 男たちは顔を見合わせながらも、大人しく少女二人に続く。


 応接の前に立つと、レッタがアリアに頼んで応接室の扉を開けてもらう。

 アリアに続いてキルトランスが、そしてジャルバ団長に続いてホートライドが入ろうとした時にレッタが止める。

 「ちょい待ち。ホートライド。アンタはこっち。」

 そう言いながらアゴで奥の厨房を指す。

 「え、なんで?」

 キョトンとする彼に

 「ちょっとくらい料理手伝いなさいよ。タダメシ食えると思うな!」

 と言い放つレッタ。

 「いやいやいや、それ俺が買ってきたやつだからな?!」

 思わずつっこむホートライド。アリアとジャルバ団長がそれを聞いて大笑いする。

 「いいじゃねぇか!手伝って来いよ。たまには二人で共同作業ってのも悪くないだろ。」

 野卑ではあるが、不快ではない言い方でジャルバ団長はホートライドに(げき)を飛ばす。

 ホートライドは少し顔を赤らめて視線を泳がせながらも

 「な、なに言ってんですか団長…。わ、わかりました。」

 と不承々々(ふしょうぶしょう)ながら答えた。

 「大丈夫ですよ、ホートライドさん。お代は後でお支払いたしますから。」

 慌てて付け加えるアリア。だがそれをジャルバ団長が割って入った。

 「あ~いい、いい、アリア。このくらいはこっちで持つぜ。」

 「やりぃ!団長様太っ腹!」

 「えええ?!そんな、申し訳ございません!」

 躊躇(ちゅうちょ)なく甘えるレッタと、恐縮するアリア。

 そして彼らのやりとりを見ながらキルトランスは思う。本当に人間と言うものは、我ら魔世界の者となんら変わらぬやりとりをする種族なのだと。

 ホートライドを引き連れて厨房へ消えるレッタと、恐縮合戦を繰り返すレッタとジャルバ団長。

 その彼が後ろでに応接室の扉を閉じた時に、ふとジャルバ団長の声色が変わった。


 「アリア。これは正当な自警団の経費なんだぜ。この村を襲ったドラゴンと…この村を守る俺たち自警団の『打ち合わせ代』だ。」


 その芯の強い声色にアリアはビクンとなり言葉を失う。だがキルトランスは、彼のその目に何の敵意も無いことを見抜く。

 「でも…キルトランス様は悪いかたでは…。」

 おずおずと言いだすアリアに、ジャルバ団長は不意に破顔する。

 「なーんてな。分かってるよアリアちゃん。とにかくひとまず座ろうぜ。」

 そう言って応接室中央の円卓に歩き出すジャルバ団長。キルトランスに連れ添われて円卓の椅子に座るアリア。

 そして円卓の椅子には座れないキルトランスは、自分専用のソファを持ってきて同じように円卓の近くに座った。その様子を目で追いながら、何かを考えている様子のジャルバ団長。

 そして三人が座ると、ジャルバ団長はキルトランスの方を向いて姿勢を正した。

 「キルトランスと言ったな。先ほどは少々(かん)(さわ)る言い方をして済まなかったな。」

 そう言って軽く頭を下げた。

 「いや、特に気にしてはいない。」

 事もなげに受け流すキルトランス。

 突然の二人の和解に首をかしげるアリアだが、口は挟まなかった。

 「なんでかは知らんが、アリアも口をすっぱくして、アンタの味方をしてくれているようだが…。」

 そこで少し言葉を切って含みを持たせるジャルバ団長。

 「…実はオレも今朝の段階で、アンタは言うほど敵じゃないんじゃないか?と思ってるんだ。」

 「ほう。それは…ありがたいな。」

 キルトランスがスッと目を細める。この意外な言葉の真意を測ろうとしているのだ。

 だがこの豪快な男に裏などあろうはずもない。

 「別に理由なんかない。ただ話してて、なんか裏があるようには感じなかった。それに殺気の類も感じなかったしな。」

 そう言ってニヤッと笑う。

 「そうであろうな。私は最初から人間に敵意など持っていないのでな。」

 慎重に言葉を選んで答えるキルトランス。その言葉を聞きながら、ジャルバ団長の表情が少し動いた。

 豪快そうに見えてこの男、なかなかどうして人心の機微を感じ取るのが得意なのである。キルトランスの言葉から裏や嘘がないのかを探っているのだ。

 「しかしまあ、なんでまたこんな辺鄙(へんぴ)な村にドラゴンが来たんだ?」


 そこでキルトランスはこの村に来た経緯をかい詰まんで話し、タタカナル到着後はアリアの口添えもありながら説明をした。


 それを全て聞き終わると、ジャルバ団長は愉快そうに笑った。

 「なるほどなぁ。要は村の連中が勝手に大騒ぎしてただけか。」

 本当は事態の裏で、自警団も恐怖に(おのの)いていたのだが、そこには触れなかった。

 「どおりで被害が無いわけだ。まあ、無いわけじゃないが、逃げる時に慌てて品物が壊れただの、買った物が無くなったって程度の軽微なもんだ。キルトランスが気にする事じゃないな。」

 目元が和らいだジャルバ団長は言葉を続ける。

 「まあ、でも分かってくれ。アルビじゃドラゴンと言えば伝説級のモンスターだ。そんな奴が村に来たとなりゃ、大騒ぎもするし怖がりもするってもんだ。」

 「ああ。だから私も無理に理解してもらおうとは思っていない。」

 ため息交じりのキルトランス。

 だがジャルバ団長は感心したように言葉を続ける。

 「子供の頃の昔話で、言葉の通じるドラゴンの話を聞いたことがあったが、まさかそんな昔話の存在を目の前にする日が来るとは思わなかったぜ。」

 その言葉にアリアがうんうんと首を振る。

 昔話とは言え、恐らく数百年前。

 どうせ長老が若かったころの話としか感じないキルトランスからすれば、その程度で伝説扱いされるのは少々むず痒い気持ちではあったが、人間の歴史の中ではそのくらい古い話なのだろうと納得する事にした。


 「その昔話では、どんなドラゴンだったのだ?」

 キルトランスから尋ねてみた。

 もしかしたら知っているドラゴンの可能性もあるからだ。だが外見を聞く限り、残念ながらドラゴンニュート族の者ではなさそうであった。

 「なんでも山の奥に一匹のドラゴンが住みついて、たまに人間を助けてくれたが、約束を破った街を怒って滅ぼしたりもしたそうだ。」

 「なんというか…普通だな。」

 これと言って感想もなくキルトランスは呟いた。だが、ジャルバ団長はその言葉を意外そうな表情で聞いた。

 「…言われてみりゃそうだな。なんか街を滅ぼした方ばっかりに話が膨らんでるが、そりゃ約束破ればドラゴンだろうが人間が怒って当然だわな。」

 ジャルバ団長は一人で肯きながら何かを考えている。

 「ただ、人間一人がどんなに大暴れしたところで、町を壊滅させる事はできないが、ドラゴンにはその実力があったってだけだもんなぁ。」

 何やら一人で合点がいったようで、満足そうにうなずくジャルバ団長。

 そこにレッタとホートライドが昼食を持って入室してきた。


 ここで話し合いは一度中断して、一同は昼食を取る事にした。

 アリアはみんなの話を聞きながら、うなずいたり笑ったりしながらも、レッタの介添えを受けながらゆっくりと食事をしている。

 ホートライドはレッタに「食材選びのセンスが悪い」だの「料理の手伝いもまともにできない」だのと愚痴を言われる(たび)に、反論してはジャルバ団長に笑われていた。

 そんな談笑の光景を見ると、キルトランスを含めた場の空気は、完全に打ち解けているようであった。

 また、ホートライドとジャルバ団長は、食べ慣れないキルトランスの食事の様子を興味深そうに見ていたために、キルトランスはただでさえ慣れぬ食事に、さらに居心地の悪さまで加わって辟易(へきえき)してしまった。

 それでもやはり人間の料理は珍しく味も新鮮であったために、なんだかんだと食事を楽しめたキルトランスではあった。


 少し遅めの昼食は、春の柔らかな光に包まれた応接室で和やかに進んでいった。


 そして食事が済むと、ジャルバ団長が改めてキルトランスを見据えて、少し真面目な口調で尋ねた。

 「で、キルトランスはどのくらい強いんだい?」

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