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盗賊団十人? まとめてごちそうさまでした

リメインの街へ足を踏み入れた海斗たち。

しかし盗賊団『黒い牙』はすでに二人の侵入を察知していた。

現れた追手は十人以上。

普通なら絶体絶命の状況――。

だが海斗にとっては、ただの「食事の時間」に過ぎなかった。 :::

「あぁん? なんだあのガキ。黒い魔力を出してやがるぞ……」

松明の赤い光に照らされた裏路地。十人以上の盗賊たちが、俺の身体から立ち上るどす黒い魔力の粒子を見て、一瞬だけ怪訝そうに足を止めた。

だが、彼らは街を恐怖で支配してきたという自負がある悪党の集まりだ。すぐに下卑た笑い声を取り戻し、一斉に武器を構えて距離を詰めてくる。

「ハッ! 脅かしちゃくれねえよ! ハッタリだけの魔法使い気取りか!」

「バルド頭領をビビらせたってからどんなバケモノかと思えば、ただの珍妙な服を着たガキじゃねえか!」

人間の、容赦のない攻撃性と侮蔑。

他人の感情に敏腕すぎる俺のカンが、彼らの頭の中にある「こいつを痛ぶって手柄にしてやる」という汚い計算をリアルタイムで受信する。

だけど、そんな浅ましい強がりも、俺にとってはただの『前菜』でしかなかった。

「カイト様……ッ! 危ないです!」

背後でシエラが悲鳴を上げる。彼女が恐怖すればするほど、俺の体内の魔力はさらにパチパキと熱を帯びて、爆発的な出力を生み出していく。

本当に、この子は歩く最高級のパワー補給ステーションだ。

「なぁ、お前ら。せっかく集まってくれたんだ。……一人残らず、俺を満足させてくれよ?」

俺はポケットから手を引き抜き、獰猛な笑みを浮かべて一歩を踏み出した。

「うるせえ! 死ねやガキぃッ!!」

先陣を切った大柄な盗賊が、鉄製の巨大な戦斧を力任せに振り下ろしてくる。

骨を砕き、肉を断つための凶悪な一撃。

しかし、今の俺の目には、その軌道がまるでカタツムリのような遅さで見えていた。

フッ、と息を吐きながら、俺は半身を軽くかわす。

戦斧の刃が、俺のブレザーの数ミリ横を虚しく通り過ぎ、地面の石畳を派手に叩き割った。

「なっ……!? かわせるわけが――」

「はい、お粗末」

驚愕に目を見開く男の懐へ、俺は一瞬で踏み込んだ。

そうして、強化された右拳を、男の分厚い腹筋めがけて一切の容赦なく叩き込む。

ドゴォォォォンッ!!!

「が、はっ……あ、ぶ……ッ!?」

凄まじい衝撃音が路地裏に木霊した。

大柄な男の身体が、まるで大砲から射出された砲弾のように真後ろへと吹き飛んでいく。背後にいた二人の盗賊を巻き込みながら、頑丈なレンガの壁をドシャシャシャッと派手に粉砕して、ようやくその動きを止めた。

もちろん、巻き込まれた奴らも含めて、全員が一撃で白目を剥いて気絶している。

「ひ、一撃で、あのデカブツを……っ!?」

「おい、冗談だろ……!? 魔法も武器も使ってねえぞ……っ!」

残された十人弱の盗賊たちの顔から、一瞬にして余裕が消え失せた。

するとどうだ。彼らの心の中に、一気にドロドロとした『理解不能の恐怖』が伝染していくではないか。

彼らの全身の毛穴から、細く、しかし確実な青白い『恐怖の霧』が、ゆらゆらと立ち上り始めた。

「これこれ! これだよ! やっと美味そうな匂いになってきたじゃん!」

俺はクスクスと笑いながら、空間に漂い始めた恐怖の霧を、大きく息を吸い込んで体内に取り入れた。

――スゥウウウウウウウッ!!!

「、あ――ふぅ……っ! たまんねえな、やっぱり集団の恐怖はコクが違うわ!」

脳髄を直接炭酸で洗われているかのような、暴力的な快感が全身を突き抜ける。

第6話で門番から吸った魔力が、彼らの絶望を燃料にしてさらに何倍にも膨れ上がっていくのが分かった。

体から溢れ出るどす黒い魔力のオーラが、プレッシャーだけで路地の空気をギチギチと軋ませる。もはやどちらが悪党で、どちらが怪物の本拠地なのか分からない有様だ。

「ひ、ヒィィッ……!? こいつ、化け物だ! 悪魔だぁぁぁッ!!」

「くるな! こっちにくるなァッ!!」

さっきまで威勢の良かった盗賊たちが、今やただの怯える家畜のように、涙と鼻水を流して後退り始める。

だが、逃がすわけがないだろう。ここは俺にとっての深夜のバイキング会場なのだから。

「さぁ、次のお皿だ。遠慮すんなよ」

俺は地面を強く蹴った。

次の瞬間には、怯える盗賊の一人の目の前に音もなく移動している。

「が、あ……っ!?」

男が恐怖の悲鳴を上げる暇すら与えず、その胸ぐらを掴んで地面へと叩きつける。

間髪入れずに、左右から襲いかかろうとしていた二人の腕を掴み、力任せに同士討ちさせるように激突させた。

ドカッ! バキッ! ズドォォン!!!

路地裏は、一方的な蹂躙の舞台へと変貌していた。

殴るたび、蹴るたびに、悪党どものプライドと強がりが徹底的にへし折られ、比例して彼らの身体から最高品質の『恐怖の霧』がブクブクと湧き出してくる。

俺はその霧を、貪欲に、一滴も残さないように吸い込み続けた。

美味い。美味すぎる。街の住人を怯えさせて肥え太ってきた悪党の恐怖は、野生の魔獣の何倍も刺激的で、俺の乾いた心を最高に満たしてくれた。

数分後。

薄暗い路地裏には、原型を留めないほどボコボコにされて気絶した盗賊たちの山が築かれていた。

彼らはもう、俺への恐怖を出し尽くした『出がらし』の肉塊でしかない。

「ふぅ……。ごちそうさまでした。ちょっと喰いすぎたな」

俺はブレザーの襟元を少し緩め、満足感に浸りながら深く息を吐き出した。

息一つ乱れていない。それどころか、全身が信じられないほどの万能感と圧倒的な魔力で満ち満ちている。

これが、俺の固有能力【恐怖捕食フィア・イーター】の真価だ。敵が多ければ多いほど、俺は無限に、ノーリスクで強くなれる。

「……ぁ……あう……」

背後から、カタカタと歯の根が合わないような音が聞こえてきた。

振り返ると、シエラが壁に背中を預けたまま、完全に腰を抜かして座り込んでいた。

彼女の美しいエメラルドグリーンの瞳は、涙で完全に濡れており、その身体からは、今日一番の、澄み切った最高品質の青白い霧がブワァァァッ! と立ち上っている。

街を支配していた恐怖の軍団を、たった一人で、しかも楽しそうに壊滅させた俺という存在。

彼女にとって、俺はもう『救世主』なんて生易しいものではなく、世界の理を壊しかねない『絶対的な畏怖の対象』へと昇華していたのだ。

「カイト、様……。あなた、は……一体……何、を……」

へたり込むシエラを見下ろしながら、俺の喉が、ゴクリと不謹慎な音を立てて鳴る。

(あぁ、やっぱり。この子の恐怖の味は、どんな悪党のものよりも、格別だ……)

俺の胸の奥で、満腹になったはずの飢餓感が、彼女の極上の霧を前にして、再び獰猛に首をもたげ始めていた。

だが、ここで彼女を完全に壊すわけにはいかない。まだこの街には、バルドという『メインディッシュ』が残っているのだから。

「さぁ、シエラ。お邪魔虫は片付いたよ」

俺は狂気的な笑みを優しげな仮面で覆い隠し、彼女の前にしゃがみ込んで右手を差し伸べた。

「お前の隠れ家、すぐそこなんだろ? 案内してくれよ。……俺たちの『これから』の話をしようじゃないか」

この世界、魔法界での本格的な無双。そして、いずれ訪れる日常との決別。

俺の、最悪で最高の異世界生活は、まだ始まったばかりだった。

読んでいただきありがとうございます!


今回は海斗の集団戦でした。


相手が増えれば増えるほど恐怖も増えるため、実は海斗にとって多人数戦はかなり相性の良い戦場だったりします。

そして盗賊たちを圧倒したことで、シエラの中で海斗への認識も少しずつ変化していきます。


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