序章:隠れていた魔法
よく晴れた日の昼間だというのにその部屋は薄暗かった。明り取りの小さな窓はあるがそこにも格子が二重につけられていて日光が直接は入らず僅かな反射光しか入らないようになっている。それというのもここが教会の書庫であり、収められた貴重な文献を守るためだ。ようやく普及してきた植物から作られた紙はまだ高級品で、ここにあるのもほとんどは羊皮紙に書かれて丸めて保管されている巻物だがインクも不安定で保管環境が悪いとだんだん薄れてしまう。
書庫の一角には蔵書を読むための机も備えられており、いまそこにはまだ幼いとも見える一人の少年が座っていた。書棚からたくさんの巻物を机に持ち出して熱心に読みふけっている。そして何本目かの巻物を広げたとき、一緒に巻かれていた紙片がはらりと落ちた。少年はそれを拾い上げてしげしげと見つめる。
「これは……古代魔法語の発音を今の文字で表したものかな?」
その紙片には古代魔法語に対応するように今の文字が並んで書かれていた。古代魔法語の方を元の巻物と見比べてみるとやはりこの魔法書に書かれた一節を元のままの発音で読めるようにしたものと推測できた。
「えっと、『オーラ・ワー・イー……』」
少年はなにげなくその紙片に書かれた文字を声に出して読み上げていく。そして最後の文字を読み上げた瞬間、頭の中に光が走ったような衝撃を受ける。
「っ……!」
衝撃でしばし頭を抱えて机に伏してしまった少年はやがて息を整えながら顔を上げる。
「はぁ、はぁ……。今のは……どうやら書かれていた呪文を強制的に覚えさせられちゃったみたいだな」
なぜだかわからないが少年にはそう感じられた。改めて魔法書を確認してみると、これは呪文の目録であって読み上げればその呪文を身につけられるという初心者教育用のものであったようだ。しかし古代魔法語の正しい発音は今では曖昧にしか伝わっていない。先程の紙片は研究者が解読途中の覚え書きをうっかりまとめて巻いてしまったものだろう。
「僕が覚えた呪文はなんだったんだろう」
少年はリストから今の呪文を探してみる。見つけたそれは今使われている言葉に訳すとこういう名前の呪文だった。
「……半回復呪文……って、聞いたこともないぞ。一体何なんだ?」




