一抹の不安とは、人知れぬ間に消えて行くものだ
事件が解決したものの、また新たな問題が……
「で?それで終わり?」
「……まぁ、そうだな」
「ふーん……。甘くない?私だったら、金をたんまりもらうか、もうちょっと痛い目見てもらうけどな……」
「勇雄君は滴みたいに下衆くねえよ」
「んな!?やかましいわよ!」
「すまんすまん。冗談冗談。悟ずジョークだ」
「二度としないで」
滴が強烈な一撃を俺にくらわすと、部室内には運動場で大きな声で掛け声をしあう野球部の声なんかが響き渡った。
このなんでもない一瞬も、滴といればなんやかんやで落ち着くのだ。
「……お前は大丈夫か?」
「え?なにが?」
「いや、親とか、どうしようもないようなこととかねえのかって」
「……」
滴は驚いたようにきょとんとした目をこちらに向ける。
「別にないけど」
「……そっか、ならよかった」
「……」
気まずくなって、なんで俺はこんなことを聞いてしまったのかと、軽い後悔の念を抱いてしまった。
何か話題はないだろうか……。俺はあたりを見渡し、何とか話の材料を探る。
すると、視界に部員募集の張り紙が入り、キタコレ!と話題を振る。
「そういえば、部員はどうなった?」
「ああ。それなら一応揃った」
「え、すご……」
「ふふん!私を舐めないでよね!」
滴は、無い胸をポンっと叩き……。あ、いやポンじゃねえわ、ボンっと叩いた。そのタイミングでガラガラガラと音を立てながら扉が開いた。
そこに現れたのは、いつぞやの金髪ヤンキー美少女の小林さんだった。
「あ……」
「あ……。えぇっと、この前の……。えぇっと……」
「悟だ。海色悟。新入部員か?」
「あ、うん。『ここに来たら絶対彼氏ができるお!』って部員募集の張り紙に書かれてたから来た」
なんてこと書いてやがんだ!そして、なんてものに引っかかってるんだこの人は!
「……もしかしてなんだけどさ、あんたのことじゃないよね?」
「知らん。滴に……、俺の隣にいる赤髪に聞いてくれ」
そう答えると、小林さんは滴の方を睨みつけ、対して滴の方は、窓の外を見やり、穏やかな顔をしている。
「おい。あんた。とんでもないウソをついてくれたわね?」
「いや、別に嘘じゃないけど……。ほら、よく見て!この人如何にも恋愛に飢えてない?」
「いや、そもそもこの人は全然恋愛対象として見れないから」
なんかとばっちりが来たんですが……。そんなに俺って恋愛対象として見れないかな……。
「……というか、正直な話あれに引っかかるなんて思ってなかった……」
「うっ!」
おっと、どうやら効果抜群だったみたいだ。小林さんは胸を抑え、苦しそうにしている。
「や、やめてやれよ……」
「というか、そんなに彼氏が欲しいなら、サッカー部のマネージャーにでもなればいいじゃない!」
ごもっとも。ぐぅのねも出ないぐらい正論だ……。
「入ったよ……。恋愛どころか、話しかけられることもない……」
「…………」
「……ま、まぁなんだ。俺はお前の恋愛をサポートしてやるから、そんなに落ち込むな」
「サポートって?」
「いや、だから……」
やっべえ!全く何も考えてなかった!どうしようどうしよう!
「……えぇっと、男子と話せるように特訓したりとか、気になる奴の好きなタイプ聞くとか……。男子でしかできない質問とかあるじゃん?」
「……なるほど」
「でも、悟ってみんなから犯罪者一歩手前とか言われてなかったっけ?」
そう言うと、女性の防衛反応なのか、小林さんは自分の体を両腕で抱きしめ、俺ににらみを利かせた。
余計なこと言うんじゃねえ!
「……でも、出来る限りのことはする。お前が本気で彼氏作りたいって言うのは、重々伝わったし……。出来ることは少ない子もしれんが……」
「……まぁいいや。あたしホラーとかそういう系好きだし」
「……そ、そうか。よろしく……」
「あ、うん」
またも静寂が訪れてしまった。今度は滴と二人きりじゃないから、気まずさも倍増してしまっている。
と、そんな気まずさマックスの部室のドアが、またも開く。
「失礼します!」
その声は勇雄君だった。
「あれ、勇雄君もう退院したの?」
「あ、いや、どうしても感謝したくて、抜け出してきました!」
「……別に感謝されるようなことなんてしてねえよ」
「いえいえ!今回は本当に助かりました!先輩がみんなから師匠って呼ばれてる理由がよくわかりました!」
「よせって(笑)」
俺は照れ笑いをしながら、勇雄君の感謝を全身で浴びた。
「……それで、これ」
そう言いながら俺の方に差し出してきたのは、水族館のチケット二枚だった。
おいおい。これはリア充とか専用だろ……。俺には彼女なんかいないんだっつーの……。
「良かったら、彼女とかと行ってください」
「……彼女いないんだけど」
「え!?美代さんと付き合ってないんですか!?」
「付き合ってねえよ!ろくにデートも行ったことないぞ!なんでそう思ったんだよ!」
確かに美代は可愛いし、彼女になってくれるならぜひなってほしいと思ってしまうぐらいだ。まぁ、今は夢の中に彼女がいるからな……。本気で好きになれるかどうかわからんし……。
「ま、まぁ師匠ならすぐに彼女出来ますって!」
「…………」
「彼女じゃなくても、気になってる相手とかでもいいと思いますよ!」
……そう言われると安易に誘えねえじゃねえか……。滴と適当に行こうと思ってたのに……。
だが、そんなことにはさも気づかず、半ば押し付けるようにチケットを渡してきた。
「それでは!今回は本当にありがとうございました!」
そう言って深々とお辞儀をして去っていった。
俺は彼の元気そうな様子を見て、何故か肩の力が抜けたのだった。そして、視線を落とすと、はらりとしなるチケットが二枚……。なんか、悲しくなってきた!
「……小林さん。いる?」
「……私に誘えると思ってんの?」
「滴」
「今の流れで誘うってことは、それなりに意味が出てくるけど、いいの?」
チクショウ!こんなのどうしたらいいんだよ!
「……小林さん」
「いやだから……」
「そうじゃなくて、俺と一緒に行かないか?ってこと」
「はぁ!?」
そりゃ驚くわな……。俺だって自分の決断に驚いてるよ……。
俺は、適当な言い訳が欲しくて滴の方に目をやったが、滴はこちらを冷めた目で睨むだけ……。
「見境なしなんて、本当に飢えてたんだね……」
滴が冷たい一言。いつも明るいテンションなので、その声はやけに耳に痛かった。
「……いやほら、新人歓迎会的な?親睦会的な?」
「……まぁいいけど」
「小林さんは?」
「……まぁ、そういう事ならいいけど。てか、さっきなんか名前が出たみしろ?とかいう人と行けばいいじゃん」
「それこそ意味が出るだろ!俺はいいけど、向こうに迷惑が掛かんだよ!」
いきなり声を荒げたことに驚いてしまったらしい。二人とも固まってしまった。
「す、すまん。……美代にはよくそういうことで迷惑かけてたから、ちょっと過敏になってんだ」
「……別にいいけど。それじゃ、行くか」




