行く末々には、煮え切らないものが残るものだ。
ようやっと事件が解決するお!ようやくラブコメ行けるお!
「いらっしゃい!なんだかいつも仲良くしていただいたみたいで……」
「えぇ……」
俺は横峯家へとやってきた。というのも、ただ挨拶をしに来たわけではない。
「今回はお連れのお嬢さんはいらっしゃらないのですか?」
「まぁ、あっちはあっちで部員集めに尽力しているとのことだったので」
リビングの方へと案内され、恐る恐る入っていく。そして、ソファに座った。
「それで、今回はどういった御用ですか?」
俺が座ったのを確認すると、勇雄君の父親が切り出した。その表情はとても穏やかで、不満など何も感じていないようなものだった。
「今回は、勇雄君に強要していた動画投稿についてです」
「…………」
途端、親父さんの顔は険しくなった。
「強要だなんて人聞きの悪い」
「そうよ、あの子がしたいって言ったから、協力してあげてたのよ!」
「だったら、具体的に何をしてあげてたのか言ってもらってもいいですか?」
問うてみると、父親はティーカップに手を伸ばし、コーヒーをすすり、母親は机の上に置いていた両手を、机の下に忍ばせごにょごにょと落ち着きないようにした。
「……それは、企画とか編集だ」
「では、最新の動画から十個前の動画ではどんな企画をしましたか?」
「えぇっと……。じ、十個前に撮った動画なんて、覚えてないよ!」
「正解は、ひとりかくれんぼでやってはいけないことをしてみたっていう動画だ。結構危険な企画ですね」
父親は慌てて口のあたりに手をやり、「そうだった、そうだった……」といってつづけた。
「あなたが企画したんですか?」
「そ、そうだ!」
「じゃあ、それは虐待になるんじゃないですかね?」
「は?」
「いやまぁ、俺にも虐待の定義とかは分かんないし、法が適用されるとかは分かんないですから、そこんとこは分かんないですけど……。例え都市伝説とはいえ、危険だとされるものを企画し、自信の子供にさせるのは、虐待と言って遜色ないような気がしますけど……」
そう言うと、不敵な笑みを浮かべた。母親の方は黙ったまま、縋りつくような目で父親の方を見ていた。
「それはちゃんと息子と相談をしたうえでやっていることです。全く問題はありません」
「へぇ……。殴って納得させたんですか?それとも監禁?まぁやり方は問いません」
「はぁ!?君は何を言っているんだ!?失礼だぞ!」
「次に、編集なんですけど、まず編集ソフトは何を使っているんですか?」
悟は、淡々と続けた。流れ作業を片付けるように。
「へ、編集ソフト……。えぇっと……。あ、アドビですよ……」
「じゃあ、今から勇雄君の部屋に行ってやってみてください」
「い、いや……」
「出来ないんならいいです。次」
悟は機械の如く質問を重ねていく。両親の方はというと、焦りと怒りと恐怖がひしめいたような表情で、無益な応答を繰り返し、そのたびに術中にはまっていく。
俺はそんなのが少しだけ楽しく感じてしまった。まぁ、胸糞悪かったからというのもあるが、俺は最低だなと、心の中で心底笑ってしまった。
「―――てなわけで、いい加減認めろよ」
ぎろりと睨みつける視線。その確信めいた様子と、先ほどまでの問答のせいで、すっかり恐れをなした父親は、観念したように言った。
「あぁ、確かに俺たちは勇雄に動画投稿をするように強要していた。だが、これも息子のためだ!息子がより良い生活を送れるように!」
「そんな思い、届いてねえよ。例え本当に思っていたしても、届かねえ程度のことしかできてねえ。お前ら見舞いに行ってやったのか?俺は少なくともお前らと病院であったことはねえ」
気が付くと、語気が強くなってしまっていた。吐き捨てる言葉は徐々に荒くなっていく。
「お前ら親だろ?なら、倒れる前になんで気付いてやれなかった!?」
そう言うと、母親が怒鳴り始めた。
「あなたに何が分かるの!?子育てって言うのは、大変なの!お金がかかるの!折角育ててあげたんだから、たまには私たちのためにお金ぐらい稼いでよ!」
「知るわけねえだろ!そもそもな、子供産んだのはてめえらのエゴなんだよ!育てんのが当たり前なんだよ!育ててやった?ふざけんな!そう思った時に子育てなんて失敗してるも同然なんだよ!知らねえよ!そういう大変さを感じさせないのも、親としてやらなくちゃいけなことじゃねえのかよ!そりゃあ難しいだろうよ、俺だったら絶対に出来ないって思う。でもな、そういうのは子供を産む前にしっかり考えるべきなんだよ。自信がねえなら産むな!」
『親』がみんな子育てができる訳じゃない。それは仕方のないことだ。親である前に人だから。だが、人ならば考えるべきなんだ、子育ての大変さや、苦悩を。
母親は子供の様に泣き始めた。それを見て、悟も言いすぎてしまったと、そっと息を吐く。
「……とにかく、本題はこれからだ」
「……まだ続けるのか」
「あぁ」
まだ本題には入っていない。すでに山場に来たようにヒートアップしていたが、正直言質を取りたかったってだけで、本題は……。
「勇雄君から、これからどうしてほしいかを聞いてきたんで、伝えておきます。もしこれを守らなかったら、しかるべきところに真実を伝える」
「……それはなんだ?」
「見まいに来い、だそうだ」
「え?」
退院したらって言ったんだけどな……。返ってきた答えは、それだけだった。さっきまでの問答はほとんど俺の私念だ。
「そ、それだけ?」
「ああ。だが、俺からの忠告だ。今度またこんなことがあったら、俺はお前らを地獄より辛い目に遭わせる」
「……ああ、そうか。そうか……」
父親は意味ありげに笑みを浮かべ、天井を見上げた。




