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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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井出明日人は思う

 長根駅で電車を降りた明日人は、シヤを送り届けるべく木津家へと向かい歩く。

 並んで歩きながらも二人に会話は無い。

 少し気まずさを感じながら、明日人は足をただ前へと動かし続ける。


 彼女を見下ろし明日人は思いを巡らせる。


 冬野つぐみ、だったっけ?

 一般人の彼女に対しての、この人達の入れ込みようはかなりのものだ。

 特に女性陣。

 品子さんとシヤさんは、二人そろっていつもとは全く違う姿を見せていた。

 あの女の子に一体、何があるというのだろう?


 気が付けば長い間、明日人はシヤを見つめ過ぎていたようだ。

 シヤは自分を不思議そうに。

 いや、もはや不審そうに見ているではないか。


「あの、えっとこれはね……」


 そう言いかけた明日人に被せるようにシヤが問いかける。


「井出さん、聞きたいことがあるのですが」

「ふへ? な、なーにー?」


 動揺したためか、明日人はついどもってしまう。


「四条はもうすぐ(はら)いなので、待機中だったはずです。どうして来てくれたのですか? まして、あなたのような上級者が」

「……あはは、やっぱり聞かれるよねー」


 見ていたことをとがめられなかった。

 それにほっとした明日人は、饒舌(じょうぜつ)に答えてしまう。


「祓いは、中止になったみたいなんだ。中止というか延期って言ってたかな? それで本部から、惟之さんから治療班への依頼が来たから僕に行って来いって連絡が来たんだよー」


 これに関しては明日人が聞きたいくらいなのだ。

 当初ではこの案件は、本部からの指示は待機。

 祓いが終わるまでは、蝶の発動者を見張るだけのものだったはずだ。

 そもそも明日人のような上級者は、こんな案件に普段は出ない。

 これは本来は、中級か下級の仕事のはずなのだから。

 だが結果を見れば、品子の治療以外は中級以下ではとても無理なものばかりだった。


 なによりヒイラギの肩代わり。

 驚いたことに、これがきちんと出来ていた。

 冬野つぐみから毒は消えていた。

 あんな厳しい条件の中で、よくぞあそこまで完成させたものだと明日人は感心せざるを得ない。


 そして明日人がもう一つ驚いたこと、それは……。


「井出さんが、兄さんの治療をしてくれた時。兄さんの体から出たあの黒い蝶のようなものは一体、何だったのですか?」


 明日人は答えに(きゅう)する。

 ヒイラギの治療の際、彼の指先から唐突に、『それ』は現れた。

 最初は小さな黒い霧。

 それが段々まるで蝶のように姿をかたどっていったのだ。

 そしてそれはヒイラギの体から出ると、ひらひらと舞うように空に浮かび上がると、突然に消えた。

 シヤと明日人が二人でそろって見ていたので、幻覚を見ていた訳ではないのを互いに確認している。

 それがヒイラギの毒を持って行ったとしか明日人には思えない。


 正直に言えば、彼の侵食の速さは凄かった。

 明日人は、まずヒイラギは助からないだろうと思っていたほどだ。

 だが、その蝶ともう一つの『力』と自分の治療の発動。

 この三つがあって、彼は助かったのではないかと明日人は考えていた。


 『力』、それはおそらく彼の血筋だ。

 マキエの能力を、彼は持ち合わせていたと明日人は推測している。

 上層部の人間が、なぜ彼にその才がないと判断したのか理解に苦しむところではあるが。

 思考のさなか、シヤから家に着いたことを告げられる。

 明日人はにこりといつも通りに。

 仕事用の『人当たりの良い笑顔』を貼り付けると口を開く。


「……さてと、家に着いたね。僕は一度、本部に寄って報告しなくちゃいけないんだ。だから、ここでお別れするねー」

「井出さん、本当にありがとうございました。兄さんを助けてくれて」

「いやいや、お仕事だもん。シヤさんも、疲れただろうからゆっくり休んでね。品子さんによろしくいっといてー」

「はい、では失礼します」


 明日人に礼をして、シヤは家に入る。

 それを見届けた明日人は再び駅へと足を向ける。


「さて、本部への報告だけど。どこまで話せばいいものか?」


 空を見上げ、明日人は呟く。

 

「品子さんとは一度、打ち合わせをしなきゃなぁ。あっちはどうなったんだろう」


 空は何も答えず、ただ彼の言葉を聞き取るのみ。

 小さく息をつき顔を正面へと向けると、明日人はまっすぐに駅へと歩み出した。

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは「冬野つぐみはおもう」です。

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