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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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或る男の話

「俺は、俺は今きっと。……運命の分かれ道ってやつに立っている」


 唐津は(はや)る気持ちを抑えられぬまま、彼女の望む行動をと足を進める。


 運命的な出会い。

 その後、二人で手を取り合ってここまで来た。

 

「いや、この言い方は間違っていない。そうさ! さしずめ俺は、ナイトなのだから」


 彼女のピンチを救い、そこから始まるストーリーを今から作りだしていく。

 目の前のなんの変哲もない家の扉。

 これこそが、その新しいページを開く扉なのだ。

 二人の未来を信じ、唐津は扉を開いていく。


 次の瞬間。

 いや、瞬間だったのかすらわからない。

 唐津の目の端に何か、青い光が見えたような気がした。

 次いで、風がびゅうと後ろから通り抜けていく。

 立て続けに起こった出来事に、唐津は本能的に扉を閉めてしまう。


「何だ、今の怪奇現象は? ここは、お化け屋敷か何かか?」


 昨日から続く、おかしな出来事に唐津は混乱する。


「疲れてるのかな、俺。帰って寝た方がいいのかな?」


 月並みだが唐津は自分の頬をつねってみる。

 痛い、つまりこれは夢ではないのだ。


「あの! 大丈夫ですか?」


 ふりかえれば、彼女がこちらに向かって走ってきている。

 彼女が踏み出すたびにさらさらと揺れる髪に、唐津は思わず見とれてしまった。

 だが、ぼさっとしていては男としてみっともない。

 気を取り直し、彼女の元へと駆け寄る。


「どうでした? 弟は居ましたか?」

「いや、中までは見てな……」


 唐津は言いかけた言葉を止める。

 この流れは良くない。

 これではまるで一連の怪奇現象に怯えて、逃げ出したように捉えれられかねない。

 そうは思ったが、やはり恐怖が足を地面に縫い付けている。


 ならば二人で警察に行こう。

 そうすれば警官の取り調べで、この人の名前や住所が知れるではないか。

 自らの考えに満足すると唐津は提案をする。


「どうでしょう? このまま警さ……」


 唐津の言葉は止まる。

 彼女が突然に、自分の頬に触れてきたからだ。


()れています……。どうされたのですか?」


 するりと撫でられ、唐津は触れられた喜びに満たされていく。


「中に、何があったのですか?」


 あぁ、彼女が中がどうなっているかを知りたがっている。

 開けなければ、扉を今すぐに開けに行かなければ!

 これがもはや己の意思なのかわからない。

 だが唐津は、彼女の言葉を遂行することしか考えられなくなっていた。


 くるりと踵を返し、そのまま唐津は扉へまっすぐに向かっていく。


「そうさ。これは二人の始まりを記す扉なんだ」


 そう自分に語りながら、再び唐津は扉を開く。


 今度は、前から風が吹いた。

 そうとしか言いようがない。

 起こった出来事に全く理解が出来ないまま、唐津は店の中を覗きこむ。

 しんとした部屋の中に、アクセサリーが置いてあるだけで人がいる様子はない。

 ただ床に、点々と黒い水が広がっている。


「な、何だよこの水! 気持ち悪い!」


 一連の不可思議な光景に混乱し、唐津は思い切り扉を閉じた。

 そのままうつむき、女の元へと駆け出していく。


 下を向いたことにより唐津には、自分を帰り道を案内するかのように地面についた黒い水が目に入ってしまう。


「ちょっと待て。何でこの水、この店から道路に続いてるんだよ! 来る時までこんなのなかったぞ!」


 口から勝手にこぼれ出る思いに戸惑いながら足を早める。 

 得体のしれない恐怖に絡みつかれているような感情を否定し、ただ女の元へと急ぐ。

 やがてたどり着いた彼女の前に立ち、唐津はかすれた声で話しかけた。


「見てきたんですがあの、水が……。いや、誰もいないようでしたよ」


 そう告げる唐津を、女は優しく見つめてくる。


「そう、何もなかった。そうなのですね?」


 唐津の顔へと滑らかな動きで向かってくるのは、女の白く美しい手。


 これは! これはやはり、人生の転機!

 その思いに自然と緩んでいく自分の頬にそっと女の指は触れ、上へとなぞりながら唐津の額で指が止まる。


「お疲れさまでした。何もないということで、全て忘れてお帰り下さい」


 言葉が聞こえると同時に吹く風。

 その風になびくように唐津の体は、自然に駅の方へ向かっていく。

 それを見送る女からはため息と共に言葉がこぼれる。


「ふぅ、ご協力を感謝いたしますっと。……さて、戻るとするか」


 女はポケットからピンク色のヘアゴムを取り出すと髪を結う。

 よろよろと歩く男の後ろ姿をみやり、女は。

 人出品子はビルへと戻っていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。


頑張ったのに、2ページ目が開けなかった報われない彼にひっそりと拍手を。


次話タイトルは「助けたいのに」です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マキエ様ってマキエ様じゃなかったのか。ということは次代マキエにはつぐみがなる、のかな。冬野つぐみという在り方は現状ですでに『撒き餌』たらしめるほどに騒動の渦中にいるので素質はばっちり。 …
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