木津シヤの発動
「品子、冬野つぐみの様子は?」
車に乗り込んできた惟之に問われた品子は、シヤへと視線を向けた。
シヤが品子を見て一度うなずくと、目を閉じて集中を始めていく。
「リードの発動を強めます。場所はやはりわからないです。ごめんなさい。声は皆に聞こえるようにします」
すぅと息を吸い込むと、シヤの首に青い光が現れる。
木津シヤ。
媒体は『犬』
彼女の発動能力『リード』はその対象者と彼女を結ぶもの。
ただし彼女は繋がれる側。
なのでこうして首に青い光が現れる。
まるで首輪のように。
対して相手側の手のひらにも同様の光が現れる。
そう、こちらもまるで飼い主の引綱のように。
そしてそれを通じて相手の場所及びその対象者の声を聞き、知ることが出来るのだ。
何とも皮肉な能力だと品子は思う。
発動者達は、確かに常人とは違う能力を持ち合わせている。
これらの力はほとんどの者は、生まれつき備わっているものだ。
ただその媒体の発動は本人が選べるものでもなく、その人間の環境なども影響して生まれると言われている。
マキエからの最期の願いであった『人を助ける』という言葉。
その約束を守るためにシヤはこの白日で心無い言葉を受け続けても、それに耐えながらここで生き続けている、……縛られている。
そういった意味で組織に『繋がれた』彼女の能力が、このように発現してしまったのだろうか。
同じようにヒイラギも。
「しょ、しょうかせんのまえ、に、うえきばち」
シヤの口から聞こえる声に品子は我に返る。
間違いなくこれはつぐみの声だ。
「さかを、のぼって、います」
言葉の合間にヒューヒューと言う呼吸音がする。
相当に苦しいのだろう。
それでも彼女は、目に入ってくるであろう情報を品子達に伝えてきているのだ。
「でん、でんちゅ、うのばんごうは……」
「惟之、本部の方に電柱位置情報データあったよね? 冬野君が今、言った番号で場所がもう少し特定が出来るはず。確認をお願い」
「あぁ。今、頼んだ」
数分後、惟之のスマホに来たデータと地図を合わせる。
「よし! ここからそう遠くない。ヒイラギ!」
「わかってるよ。行ってくる!」
飛び出していくヒイラギに全てを託し品子は呟く。
「頼む、どうか間に合ってくれ……!」




