判断ミス
「私に後ろめたさを感じている。一体、どういうことなのですか?」
つぐみの言葉に品子はソファーに座ると、うつむき話し出した。
「実は、千堂君にもシヤの力を発動が出来る状態にはなっていた。先程も言ったが、シヤが発動できるのは一人だけ。先日も君ではなく千堂君を対象者と指示しておけば、今とは違う展開になっていたのかもしれない。……これは私の判断ミスだ」
力なく品子は語る。
つぐみではなく、沙十美を選んでいれば。
彼女は行方不明になっていなかったかもしれない。
「……確かにそうだったなら、よかったかもしれませんね」
「あぁ、申し訳ない。詫びてすむ話ではないが」
「えぇ、その通りです」
珍しくはっきりと思いを語る様子に驚いたようで、品子が顔を上げた。
その目にある戸惑いをつぐみは感じる。
これではいつもと逆だ。
いつもの品子は、自信に満ちていて。
一方の自分は、おどおどとしてばかりで。
今の品子は、いつもの自分のようだとつぐみの目には映る。
だからこそ解る気持ちもある。
いつものつぐみに当てはめて、考えてみれば分かるのだ。
後悔の中で変えようのない過去に、もがいているときはどうしていたのかを。
「……そう。いつも一歩前へ出たいと思っていたんだ」
だから進める様にきっかけを。
つぐみは座り込んだ品子の真正面に行くと、静かにしゃがみ込み見上げる。
今度こそ逸らさずにまっすぐに。
「でも先生は今、沙十美を助けようとしています。捜してくれようとしています」
すくんでいる足を、踏み出す勇気を。
「後悔はそれこそ後で好きなだけ、反省会でもやればいいんですよ。だから今は前へ」
そう話す一方で、やはり不安が隠し切れない。
次に行方不明になるのは自分、あるいは品子達かもしれないのだ。
そんなことにならないために、しないために。
「先生、私を助けてください。これ以上、人がいなくなるのは嫌です。悲しい思いをする人が増えるのは、嫌なのです!」
……言えた。
今度こそ最後まできちんと言えた、はずだ。
気が抜けたつぐみはそのままうつむいてしまう。
「……はは。やはりすごいねぇ、君は」
その言葉と共に、つぐみの手をそっと品子は握ってくる。
その手の温もりに、うっとりとしながら見上げた品子の顔はとても穏やかだ。
「力なんかなくてもすごいと思う。君がもし力を持っていたら、さぞかし強力な存在になっていただろうね。とても強い『思い』を持っているから」
「思いですか? いつも流されてばかりの私にですか?」
問うてくるつぐみの手を離し、品子はソファーから立ち上がるとつぐみへと向きなおる。
「少し私達の力について話をしようか。聞いてくれるかい?」




