木津シヤの力
行方不明の人達は皆、その直前に大きな変化があった。
そしてその変化が起こるには、何かしらの本人の強い思いがあったはず。
沙十美はあの時、とても強い思いを持っていた。
今の自分ではなく、憧れの人の傍にいられるように変わりたいと。
恐らくそれは『渇望』。
特定の感情を強く持った人間しか見えない、場所や扉があったとしたら。
つぐみの意見に、品子は「ふむ」と呟く。
「限られた条件の人物のみが気付く扉かぁ。見つけにくいはずだよねぇ」
「あくまで推測ですが」
つぐみの言葉に、品子はうなずきながら答える。
「いやいや、やはり目線が変わるって大事だね。その方向性は間違ってないと思う」
「先生の方では、何かお店を見つける方法はありそうですか?」
「隠されているという前提が出来たからね。こっちの解析組の方に伝えて、探し方を変えていくって所かなぁ」
「解析組、ですか?」
「うん、そう。この資料とか作った人達ね。リーダーが使えない人だから、メンバーが大変そうでねぇ」
容赦のない言い方に思わずヒイラギの方を見るが、彼の表情は変わらない。
その人物に対し、普段からこのような態度を品子はとっているのだろう。
なんだか、場の空気がよくない。
そう考えたつぐみは、何か新しい話題をと頭を働かせていく。
特定の条件下のみでしか認識出来ない店。
なんてすごい力だろう。
ならば逆の力も存在するのだろうか。
疑問に思っていたことを、つぐみは口にする。
「ところで先生、どうやって私の昨日の家での様子を知ることが出来たのですか? 先程の力の反対で、見えないものを見えるようにする力とかですか?」
「あ~、あれはシヤの力だよ。彼女は遠くにいても、対象者の声が聴きとれるんだ。ちなみに発動しなくても、数十メートル以内の人の会話ならシヤは聞き取れるんだ。すごいでしょう」
まるで自分のことのように、品子は嬉しそうだ。
「す、数十メートルですか。すごい」
「発動した場合は、……そうだねぇ。ここの戸世市内位ならば、いけるんじゃないかなぁ?」
思わず手元のスマホで、戸世市の大きさを検索してしまう。
「ひゃ、百㎢あるって書いてありますが」
「うん、それくらいなら平気。でもシヤの力って、なかなか発動条件が厳しくてね。対象者に一度、直接に触れてないといけないとか。一度に一人しか聞き取ることが出来ないとか。ほら。シヤと会った時、静電気みたいな痛み感じなかった?」
「あ、確かに!」
シヤからの手当の時に、感じた痛みを思い出す。
「言っとくけどさ。当初の俺達の目的は、次の行方不明者になると思われていた千堂沙十美だったんだ。それなのになぜかあんたが登場してきて、こちらは相当に混乱したんだぜ」
ヒイラギが立膝の体勢で、椅子に腰かけながら話しかけてきた。
話を聞きながら、つぐみは無意識に彼の足へと視線が吸い寄せられてしまう。
行儀が悪いよ、ヒイラギ君。
そう思いながらも、すっと下ろしている足の長さに見とれてしまう。
いいなぁ、足細くて長いなぁ。
……羨ましい。
そう思うつぐみのやましい視線に気づいたのだろう。
ヒイラギは目を逸らすと、台所へと行ってしまった。
「シヤの知らない人が対象になると、その相手は痛みを感じるみたいだね。さらに言えば君の姿が見えるとかではなくて、純粋に声だけしか聴こえないんだ。その人が考えていることがわかるわけでもないし」
「わ、分かられても困ります。知られたら私、恥ずかしくて死んでしまいます」
昨日の行動を思い出しかけて、顔が熱くなる。
頬をこすりつつ品子を眺めれば、彼女の顔色がよくないことに気づいた。
「先生、お疲れではないですか? 何だか元気が無いように感じます」
「……あぁ、心配してくれてありがとう。私なら大丈夫だ」
たよりなげな表情で笑うと、言葉を続ける。
「疲れているわけではなんだ。ただ私は君に、……後ろめたさを感じている」
品子はそう呟き、つぐみから目を逸らした。




