見つからないもの
行方不明の人達の特徴として、男女は関係ないこと。
とはいえ、年齢は十代後半から二十代の人が集中しているようだ。
行方が分からなくなる少し前に、その人達の心境や環境が大きく変わっている。
これが品子達の資料で分かったことだ。
つぐみは改めてリビングの机にある、沙十美の資料を見る。
写真の服はヒイラギ達と初めて会った時のまま、つまりあの日に何かが起こったということ。
他の人達もそうなのだが、鞄の中に財布や身分証明、スマホなどはそのまま入っていた。
つまりは物取り目的ではないということ。
沙十美の所持品のリストを見て、違和感を覚えたつぐみは品子に尋ねた。
「先生、沙十美の所持品なのですが。彼女がいつも身に着けていたアクセサリーがリストにありません。……あ」
そういうことかと、つぐみは理解する。
「そう、だから私は千堂君のスマホで、グループラインにアクセサリーの話を聞いていた。結果は振るわなかったけどね」
「沙十美は、自分の行っているお店を知られるのを嫌がっていました」
鈴木に行きつけの店を尋ねられた時。
さらにはつぐみに蝶のピアスのことを聞かれた時を思い出す。
彼女の拒絶はそこに繋がっていたのだ。
「つまりそのお店が、行方不明の人達の手掛かりなんですね?」
「そうなんだけどね。肝心のその店が、全く見つからないんだよ」
「沙十美はそのお店は、多木ノ町の駅から歩いて五分位と言っていましたが」
「もちろんそのあたりも調査済み。だがどれだけ調べても、該当する店舗がないんだ」
確かにつぐみも、沙十美にプレゼントをするために店を探したのが見つけられなかった。
普通に探していては見つけられない店とは、一体どういうことなのだろう。
考えているつぐみの前に、コップが静かに置かれる。
見上げた先では、シヤがお盆を抱えて立っていた。
「どうぞ」
それだけ言うと、シヤはそのまま台所に戻っていく。
「ありがとう。シヤちゃん」
コップの中身は、スポーツドリンクだ。
これも、ヒイラギが買ってきてくれたものだろう。
礼を言おうと台所に向かうが、ヒイラギの姿はなく、シヤだけがいた。
「シヤちゃん、飲み物をありがとう」
「……兄さんが、お茶よりはこちらのほうがいいからと」
「そうなんだ、気を遣ってもらったんだね。ありがとう。ヒイラギ君は?」
「今、お風呂に入っています」
以前との雰囲気の違いに、つぐみは戸惑う。
「何か?」
「い、いえ特に何もないです。えーとシヤちゃ、……シヤさんとお呼びした方が?」
「特に怒っているわけではありません。これが本来の私の性格です」
「え、そうなの!」
驚きのあまり、つぐみはつい大きな声を出してしまう。
「あなたとの接触の際、普段のこの対応だと警戒されると判断しました。この間の態度は、あなたを騙していたことになります」
「……」
「今の私に対し、不快な思いを感じたかもしれません。ですがあの時のような快活な態度を求められても、私はするつもりはありませんので」
その言葉を聞き、つぐみはぽつりと呟く。
「……ごめんね、シヤちゃん」
「何がでしょう?」
「お仕事だったんだろうけど。偽物の、本当ではない態度を私がさせてしまったんだね」
つぐみは知っている。
偽物の自分を演じなければいけないのは、とても辛い。
本当の自分であることが許されないのは、とても苦しいのだと。
「我慢して接するのはとても辛いです。今のままのシヤちゃんでお願いします」
深々と礼をして、つぐみはリビングへと戻る。
『お前は愚図のままでいるんだ。いいな』
つぐみの頭の中で響く言葉。
痛くないのに、無意識にわき腹を押さえてしまう。
あれから随分と時間が経っているのに。
まだこの癖を、つぐみは治すことが出来ないのだ。




