クエスト名称:慣れたと思う頃が一番危険
スズランキャラバンが去ったあと、僕は修得したばかりのブリザードやサンダーを使い、真衣が虫笛で呼び寄せたモンスターを倒しまくった。
攻撃力アップの『ストライク』は、攻撃魔法には適用されない。
これは物理攻撃に作用するもので、勇者真衣に向かって、
「ストライク!」
唱えれば、真衣の足下にストライクの魔方陣が浮かび上がり、
「やああ!」
ズバババ!
モンスターを一太刀で倒すほど、攻撃力のステータスを一時的に上げる。
僕も、ファイアの上位魔法であるファルガも駆使して、レベル上げに勤しみ、
《女勇者・真衣。レベル18》
《女賢者・ユッキー。レベル9》
「おお、2人同時にレベルアップだ!」
「激闘だったからね。くたくたに疲れちゃった。でもこのレベルだったら、べつの地に移動しても、それほど苦戦せずにモンスターに勝てるんじゃない?」
ふむ。確かにそうかもしれない。
ポポ村から離れた原っぱ。
ここではすでにモンスターたちが怖がって、虫笛を鳴らさなければ出現しないようになってきたのだ。
「ここはひとつ、橋をわたって隣の地へ行ってみようぜ!」
レベル上げの最中、この原っぱからほど近い所に、橋がかけられているのが見えた。
大河にかけられた橋は、いまいるこの大地と新たな大地とを結んでいる。
李里ちゃんを救出するこの冒険の旅では避けては通れない橋なのだった。
関所も料金所もないので、難なく橋をわたる。
「ここが新大陸!」
ポポ村の原っぱと、それほど変化ない空気を吸い込んで僕は、自身を奮い立たせた。
これでやっと、スタート地点に立てたのだ。
夕闇が濃くなってきた。
「今日はこれくらいにして、ポポ村に帰りましょ?」
「うん。そうしよう。僕もくたびれたよ」
言って、踵を返したときだった。
突如として、
ドシン! ドシン!!
もの凄い地響きが宵闇に轟く。
「なっ、なんだ!?」
素っ頓狂な声を上げて僕は振り返り、
《樹木獣・ウッドボーイ。非常に攻撃的で守備力が高い。ウッドボーイのいるところにはウッドガールもいる》
「うわわ! 木が歩き出した!!」
まるで、胡座をかいた関取が立ち上がるようにして、土から根を引っこ抜いて歩いて来るウッドボーイ。
低木ながら、枝や葉をつけているので、近づいて来ると予想以上に図体が大きく、威圧感をおぼえる。
「ユッキー! あっちも見て!」
叫んだ真衣が指をさす。
そちらへ目をやると、
《樹木獣・ウッドガール。〔カンフルの実〕をつけるが、ウッドボーイに守られている》
柿のような実をつけたウッドガールが、片足ならぬ片根を地面から引っこ抜いて立ち上がり、襲って来た!
「オスメスつがいでいるのか! くっそー、なんて羨ましいモンスターだ!!」
「モンスターに嫉妬してどうすんのよバカっ!」
鉄の剣を抜刀している真衣だが、逃げる気でいるようだ。
そんな弱腰の真衣とちがって僕は、
「へへっ。どうせ『木』なんだから燃やしてやるぜ!! 見てろぉ!」
勇者より勇敢なので闘う。
ファイアの上位魔法、ファルガを唱えようとしたとたん。
ビュゥン!
ムチのように撓ったウッドボーイの枝が、するどく空を切り裂いて、
「——カハッ」
僕の横っ腹を打ち叩いた。喉の奥から、かすれた声がもれる。
ウッドボーイの攻撃に、僕の体はボロ雑巾のように宙を舞って、無様に数回、地面を転がった。
4、5メートルは吹っ飛ばされた。
「ユッキー!!」
真衣が慌てて駆け寄って来る。
「ううぅ……、ケルファ……」
自分で自分に回復魔法をかける。
「凶暴すぎる……!! つよいよ、ウッドボーイ。彼女持ちでつよいとか、まさにリア樹」
僕が半泣きで訴えると、
「ちゃんとメッセージ読みなさい! 非常に攻撃的ってあるでしょうが!」
叱りつける真衣、僕の片腕を肩にまわし、肩組みする。
「まったくもう。疲労が溜まって、ステータス全般のアベレージがダウンしてんの。スタミナの回復速度も遅くなってるし、ここは逃げるわ」
真衣の優れた判断力で、この場を退避する。
幸いにも、ウッドボーイ・ウッドガールは鈍足で容易に逃走できた。
「クエクエもそうだった。橋をわたったら、モンスターレベルが急激に高くなるんだ……」
よわいモンスターだと、僕は油断していた。
そして、自分がつよい存在だと思い上がっていた……。
傲り高ぶった自分が情けない。
「真衣は、逃げるか闘うか見極めていたのか?」
「当たり前でしょ、戦闘の基本よ」
僕と真衣は肩組みをして、えっさほっさとポポ村へ逃げ帰る。
「せめてモンスターの初動くらいは読みなさい。魔法を唱えるのは勝手だけど、強力な魔法ほど、スタミナを多く消費量するんだし、無駄撃ちもしちゃダメだから! もう、これくらいの事、お母さんから習わなかったの?」
「習わねーよ! なんだよ!? 真衣の母ちゃんはサラ・コナーか!」