クエスト名称:教会で通信02
どうにかこうにかポポ村に到着。
夜の帳に包まれた村は、しんと静まり返っていて、店先に出した宿屋の看板が、ランプの灯りで照っている。妙に落ち着く灯りだった。
「へとへとだよ……今日は宿屋に泊まろうぜ……」
疲労度が限界に達し、ぶっ倒れそうだ。
「待って」
「へ?」
足を引きずるように歩いていた僕は、真衣のことばに振り返り、
「まだなにかあるのか? 用事があるなら、僕は先に宿に泊まってるよ」
「あら、そう。じゃあ私ひとりで教会に行って、李里と通信してくるわ」
バイバイと手をふって、さわやかに教会へ向かう真衣。
「ちょっと待ったあ!」
教会に行くとなれば、はなしはちがってくるぞ。
「僕も行こうじゃないか! ちっぽけな村だけど、夜道は危ないもんな! 僕が一緒について行ってあげよう!!」
「なによ、そんなにがっついて」
そうは言うも真衣は、心なしか嬉しそうな顔になった。
そんな真衣と一緒に僕は教会へ向かう。
スズランキャラバンでの買い物で、手持ちのゴールドを減らしはしたけれど、その後もレベル上げをしてモンスターを倒し、ゴールドを入手しているので、
「こんな夜更けに、よくぞまいられた。人は皆、神の子。わが教会にどのような御用かな?」
神父の台詞がすこし変わっていたが、そんな事には構わずに真衣は、
「捕らわれた姫と通信をお願いします」
「500Gになるが、どうするかな?」
「はい」
中くらいの布の袋を逆さまに。
ゴールドがジャラジャラ出て来て、これを勘定した神父が、
「おお、神よ! この者たちの冀求を、ひとときの間、叶えてくだされえええぇ!! キエェェェ!!」
やっぱり両腕を高くかかげて、奇声を発し、青筋を立てて神に祈りを捧げはじめた。
すると目の前にある石の祭壇に……。
30センチほどの大きさの、フィギュアサイズの李里ちゃんが現れた。
就寝前なのか、クリーム色のネグリジェを来た李里ちゃんは、腰まで伸びた髪をうしろで束ねてポニーテールにしている。
着用しているネグリジェは半袖ワンピース型の寝間着。丈は膝上でフリルが施されていて、肩のところがふっくらとまるみを帯びている。
着心地良さそうにして李里ちゃんは、うつ伏せに寝転がった格好で、足をぱたぱたさせて祭壇上に現れたのだ。
「ブハッ! 可愛さ200パーセント!! エクセレント!!」
興奮して鼻血が垂れた。ありがとう神父さま。
「李里姫ぇ!! ベッドサイドの警備は僕にお任せあれぇ!!」
「余計に心配よ!」
石の祭壇に食らいついた僕を、真衣がメリメリ引き剥がし、
「連れて来るんじゃなかったわ。引っ込んでなさいよ」
僕のお尻を蹴飛ばして、祭壇から遠ざける。
仕方がないので僕は、ムンムンに眼を見開いて、就寝前の李里ちゃんを脳内に焼き付ける作業に取りかかる。
「真衣ぃ。ねむねむだよぉ……」
とろんとした眼差しを向けて甘えた声で言う李里ちゃんだ。
「うん、そうみたいね。こっちはレベル上げだったの。でも今日でやっと、李里を助けに行く準備が整ったわ。そっちはどう? 手がかりやヒントを発見できた?」
「頑張ったよ、一生懸命に詮索したんだからっ」
むくっと起き上がった李里ちゃん、まくらを抱いて女の子座りの格好になり、
「大収穫祭だよ! 攻略方法を見つけちゃった」
「本当に? やったじゃない李里! どんなことがわかったの?」
声と胸をはずませる真衣に、李里ちゃんは、
「警備兵にいろいろ尋ねて調べたら、魔王城の秘密の図書館を発見! 隠し階段があったの! 第一の書室の扉がひらいていて、この書室で、魔王城にたどり着くために必要なものについて記述してある洋紙を入手したよ!」
高揚感を露わにして、その洋紙を取り出した。
「おお、すごい! さすが李里ちゃんだ! これで魔王城に乗り込めるぞ!! 待っててくれ李里姫ぇ!!」
神父に通信を依頼してゴールドを支払った真衣以外の声は、李里ちゃんに届かないのだけれど、それを理解していても、僕は叫ばずにいられなかった。
だけど……。
ジロリ、と真衣に睨まれて僕は黙らざるを得ない。
「それで、その洋紙にはなんて記述されているの?」
「うーんとね、……この世界に散らばってしまった〔力のしるし〕、〔知恵のしるし〕、〔勇気のしるし〕の3つを集めて、天に翳せば、魔王城が存在する島を聖なる光が示し、島のバリアを破壊する……だって!」
ええ……。
その、3つのしるしを集めないと、魔王城へは行けないのかよ。
「めんどくせぇ……」
思わず本音が出てしまう。
「3つのしるしのどれかひとつでも、その場所がわかったりしないの?」
真衣の問いに、李里ちゃんは別の洋紙を取り出すと、
「ひとつだけなら知ってる! 第一の書室で一緒に発見した、こっちの洋紙に記述してあるよ。えーと、」
手に持った洋紙を切り替えて、
「〔力のしるし〕についての情報を言うね。ポポ村から東に位置する、水の都・ロームルにマーキングがしてあって、」
「水の都・ロームル」
真衣が反芻する。
「そこに〔力のしるし〕があるのね?」
「うん。そうみたい。あっ、待って! まだ続きがある!」
ムムム、と眉をよせた李里ちゃんは、
「……この情報を得た魔王が〔力のしるし〕を収奪するために、ロームルへ魔王軍を送り込んだ……ってあるよ!」
「マジで!? 魔王軍が!」
絶望的な報告に僕は思わず真衣を見やると、真衣が、
「3つのしるしを手元に置くことで魔王は、私たちを城に攻め込ませないつもりなんだわ」
しごく冷静に現状を分析する。
頼りになる勇者さまだ。
しかしながら、やはりこのゲーム、一筋縄ではクリアできないらしい。
なかなかに完成度の高いゲームだ。
いや、褒めている場合ではない。
「魔王軍に横取りされる前に、ロームルへ行って〔力のしるし〕を手に入れないと!! 奪われてしまったら、魔王城に行けなくなってしまうぞ!」
行けなくなったら、魔王を倒すことも李里ちゃんの救出も不可能だ。詰んでしまう。
「ぬぬぬ!」
神父が限界だ。こめかみに浮いた血管が切れそうだった。
「この通信、3時間くらい延長できないのか? とっても重要で肝心なところなのにさ!」
「ふえぇ、終わっちゃうの? 真衣ぃ、魔王軍より先に〔力のしるし〕、お願いだよ?」
「わかってるわ、必ず」
言い終えて……。
李里ちゃんの姿が霧散するかのように、ふわんと消えた。
その祭壇をしげしげと見て僕は、
「李里ちゃんのネグリジェ姿のフィギュアが発売されたら買っちゃうな。欲しい」
「うわ、キモ」
真衣は、まるで車に潰されたゴキブリの死骸を見るような目で、
「ユッキーの『とっても重要で肝心なこと』は、いまこの瞬間なの? バカじゃないの?」
罵るように、というか罵って、僕を蔑む。
咳払いをして僕は、
「つい、口に出てしまったんだ。真衣だってあるだろ? 心や腹の中にあるのが出てしまうことがさ」
「ユッキーのは異常よ。あんたは保育所の頃から異常だったわ」
思い出すのも不快、という表情で真衣が、
「保育所に通ってた頃、太陽組の女の子全員にキスしてまわってたわよね」
「そうだっけ? おぼえてないなあ……」
いや、かすかに……記憶の片隅に。
言われてみれば、すこしずつ、保育所時代の記憶が蘇って来た。
「だんだんと、おぼろげながら……。でも、真衣にキスしたおぼえはないなあ」
「当たり前でしょうが。全力で抵抗したわよ。あんた、当時と比べて変態性が増してるわ」
「なっ! 変態とは失礼だ!」
僕の抵抗に、真衣は間髪を入れず、
「李里の寝間着姿のフィギュアがなんちゃらかんちゃらは? これって変態だわ。そのうち、女の子にお金を握らせてイヤラシイことをする。そんな大人になるにちがいない」
「犯罪じゃねーか! 僕を性犯罪者にしたいのかよ!!」
侮辱も甚だしい。
幼い頃の言動やフィギュア発言で、なんでこうもボロクソに言われなくちゃいけないんだ。
「いまは李里ちゃんを助けるはなしだろ!? 僕を悪者にしてどうすんだ!」
「そうだったわね。〔力のしるし〕のはなしよ」
こんな事で時間をムダにしている場合じゃない、と言って、真衣は、
「明日の早朝、ポポ村を出発しましょう。ここから東へ歩いて、水の都・ロームルに向かうわ」
「早朝かよ……」
真衣のことばに、僕はどっと疲れがでた。
おそらく、いま自分の顔を鏡で見れば、疲労困憊の美少女の顔が映るだろう。
今日一日で、一気にレベルを上げたのでへとへとだ。明日は昼近くまで寝ていたい。
「なに言ってんのよ。魔王軍に先を越されたら終わりなの。わかってんの!?」
わかってるけどさ……。
「さっ。はやく宿に行くわよ。寝て起きれば疲労度は全回復するから」
「そこはゲーム理論なんだな……」
「じゃあ、ほら」
と真衣は、教会の扉を人差し指で示した。
その仕草、エスコートをしろ、というものに感じられた。
「夜道は危ないの。ちゃんと付き添ってよ?」
「……真衣は勇者じゃん。ボディガード不要じゃん。僕よりレベル上じゃん」
「はあ? ユッキー、男の子でしょ? 女の子を守りなさいよ」
「この世界では女の子だ」
「いいから、ほら。ぐずぐず言ってないで、しなさいよ」
「……うぅ。わかったよ……」
たったいま、僕のことを変態だのイヤラシイ大人になるだの言ったくせに、なんだよ。
李里ちゃんのフィギュアが欲しいと言ったときなんか、もの凄い剣幕で睨んだのに、宿に向かう道すがら、その足取りを軽やかにして、いまの真衣はニコニコ笑顔。ふんふん、と鼻歌をうたっている。
変態の僕に守られて、なにが嬉しいのだろう?
なにも嬉しくないだろうにさ。
ま、いずれにしても……。
僕たちは明日、水の都・ロームルへ出発だ。




