クエスト名称:勝負下着
「ナスカーサへ行くわよ!」
真衣の一言で、気球に乗って灼熱砂漠のナスカーサへ飛んだ。
テレビ画面に向かってのロール・プレイング・ゲームであれば、ほんの数十秒で済む移動なのだろうけれど、ゲーム世界そのものでは、そうもいかない。
「あっついな!! あっついな!!」
「2回も暑いって言わなくていいわよ、うざったい。ただでさえ暑苦しいのに! 暑いって言えば、余計に暑いのよ!」
「勇者さまが一番、暑いって言ってるのら!」
ツッコミを入れるちょちょは、もふもふした毛のせいで、舌をベロンと出してハァハァしている。
「ちょちょを見ると気が滅入るくらい暑苦しいな。見た目がアレだもんな」
僕は、動物園で夏バテするホッキョクグマを眺める視線をちょちょに向けて、
「もふもふの毛を刈ってあげよう。すこしは涼しくなるぞ?」
「ほんとのら!? 刈ってほしいのら!」
ということで、僕は風魔法のエアロを唱え、カミソリのような空気の刃で、その毛を刈ってやる。
「ははは、つるっつるになった!」
高級品とされる毛を〔小さな布の袋〕に詰め込んで爆笑する僕に、
「ユッキー! おかしいのら! ますます暑く感じるのら!?」
「そりゃねえ……ちょちょ。直射日光を、もろに素肌で受けてるからよ。ユッキーに騙されたわね」
「のらのら!? ユッキー、おいらを騙したのら?」
「よかれと思ってやったんだ。ほれ、僕が脱いだ〔スタミナのクローク〕に包まれば、日除けになって、すこしはマシになるぞ?」
「ホントのら? クロークを貸してくれるなんて、ユッキー、やさしいのら!」
しゅるる、とクロークに包まるちょちょ。
ふひひひ、高級品のりんちょの毛をゲットだぜ。
そんなこんなで……。
「ユッキー、ちょちょ、ナスカーサが見えて来たわよ」
「いよいよ到着か」
これはコールドビークで耳にした情報のだが……。
ナスカーサの砂漠は、いまから約8500万年前に生まれ、現在、世界最大にして最も古い砂漠とされている。
日中と夜間の温度差もさることながら、黄金色をした砂の景色も、刻一刻と変化するこの砂漠の名をミナロブ砂漠という。
このミナロブ砂漠において、水が滾々と湧いて緑あふれるオアシスが、ナスカーサである。
「おお……! はじめて僕は砂漠というのを見たけど、こんなに美しいとは思ってもみなかった」
地平線に沈んでゆく硝子玉のような赤い太陽と、夕映えするナスカーサは、美しいの一言だ。
しかしそれでいて、夕闇が濃くなるにつれての光景はどこか、お祭りのあとのように心淋しくもある。
ふっと、太陽が沈んだ。
大自然の生み出した光景に黄昏れていたら、
「暗くなっちゃったわ。早く着陸しましょうか」
切りの良いところで真衣が言った。
「そうだな」
「ユッキー、勇者さま。お腹ぺこぺこなのら!」
気球が高度を下げたとき。
ピュ〜〜〜ゥ と音がしたとたん、バババーン!
爆発音がした。
「ユッキー! あれ!!」
真衣が指さした。
黄・赤・青・緑・紫・白など、夜の空に色鮮やかに咲いたのは、
「花火だ! うわわ、どんどん打ち上がる!」
「下に、たくさんの人がいるのら!」
慌ただしく着陸して、例のごとく、背の低い華奢な爺さんにしゃべりかけると、
「旅のお方かね。ここは砂漠の街、ナスカーサじゃ。今宵も、祭りがはじまるぞい!」
言って、この爺さん、
「あっそーれ! あっそーれ! わしもまだまだ若いモンにゃ負けわせんわい!!」
千鳥足で踊ってみせて、どっかに行ってしまった。
今宵もというからに、ナスカーサは、連日連夜カーニバルが開催されるようだ。
「すげぇー、こりゃ浮かれるしかねーな!」
「バカ言ってないで、装備を整えに行くわよ」
「ええ!? まさか、そんな!!」
こんなにも、わくわくドキドキのカーニバルが催されているってのに、素通りする気か? 冗談だろ。こういうのに参加するのも、冒険の醍醐味だろうが!
「あんた、コールドビークでの事を忘れたの?」
真衣は、しごく真面目に意見する。
「気球での移動は、モンスターと戦闘にならないから、レベル上げできないの! 新しい町に到着したら、一にも二にも、まず装備! 装備を整えておかなかったせいで、コールドビークでは、周辺のモンスターと力量が釣り合わなかったでしょ」
「うっ……確かに……」
僕もまだ記憶に新しい。あの、せこい戦法が、脳裏をよぎる。
「ユッキー。つよいつよい敵が出て来るのら! 整えるのら!」
ちょちょにも言われてしまっては、僕もどうしようもない。
「うーん……わかったよ……」
「じゃ、武器・防具・道具屋に行くわよ」
真衣が先頭で、僕は金魚のフンみたいに後尾を歩く。
夜空には幾つもの花火が打ち上げられて、そこかしこで娯楽に興じる愉快な人々を、色鮮やかに照らしている。
ここが砂漠の大地であり、乾燥地域にあるオアシスだからであろう……。
ラクダのようなモンスターでカターゴという家畜化された生き物が、自転車感覚の移動手段として売られていたり、
怪しげな露天商が奇妙なアクセサリーを5Gで買わないか? と勝手に値段交渉してきたり、
カジノで遊びたいからコインをくれ、と物乞いする人がいたり、
モンスター競技場で闘わせるモンスターを捕まえてほしいと、謎のトレーナーにサブクエストを持ちかけられたり。
こんなにも心踊るイベントをスルーして、
「ああ……みんな楽しそうだなあ……いいなあ……」
つぶやいて僕は、ぼちぼち歩く。
ナスカーサで一番デカい武器兼鍛冶屋へ。
ここで、イズリフとの戦闘で勝ち取った、呪われた武器とアイテムを売却し、装備の資金とした。
武器屋では、新たな武器は購入せず、鍛冶で鍛えてもらった。
素材から生産した武器以外に、既製品の武器や防具も、強化可能なのだ。
なので僕は〔賢者のセプター〕を〔賢者のセプター改(スタミナ消費率5%増・攻撃力10%増)〕に強化した。
消費率が5%増になって痛し痒しの強化だけど、攻撃力10%増は熱い。
真衣は、〔ファルガサーベル〕を〔煌焔ファルガサーベル(追加ダメージ)〕に強化。
これは、ナスカーサに到着直後、僕が偶然採取した〔焔の石〕を使用した。
追加ダメージとは、その名の通り、一太刀ふるう度に一定の炎ダメージを敵に与える効果だ。……恐ろしい武器が完成してしまった。
次に向かったのは防具店。
僕は〔魔性の法衣(女性限定)〕を売却して〔賢者の羽衣(女性限定)スタミナ消費率20%減〕に変更した。
りんちょの毛を使用して素材から作成した。もちろん、ちょちょの毛も使った。
法衣と比べ、防御率はそれほど変わらないけれど、なんと言っても、スタミナ消費率が20%減は非常に頼もしい!
それと〔スタミナのクローク(スタミナ量10%増)〕を売却して〔賢者のケープ(スタミナ消費率10%減・スタミナ量10%増)〕に。
僕は賢者シリーズで身を固めた。
ここまで来るとステータスアップの効果付きは外せない。
真衣は、〔冬椿の鎧(雪・氷耐性30%増)〕を売却して〔ダークハンター装束(ステータス異常耐性・回避率向上)〕に。
こちらは特殊効果付きであり、シーフ属性が付加してある鎧だ。
気配を抑えることができ、戦闘時は俗に言う『敵はまだ、こちらに気づいていない』状態で、先手がとれるのだ。……極稀にだけど。
盾は〔クロムシールド改〕を〔クロムシールド改㈼〕に強化した。
僕の素材コレクションから出た〔タングステンの粘土〕3つを練りまぜて不純物を取り除いてできあがった〔高純度のタングステン〕を、5つも使用して作成。僕の蒐集欲も褒められるレベルだ。
3番目に向かったのは道具屋。
イタチのシッポが、〔イタチのシッポ・バージョン6〕になった。
ここで判明したのだが、これにてバージョンアップは終了となる。これ以上はダメらしい。
で、バージョン4から6になって、増えたシッポは2本。
ステータスアップは、攻撃力1.2倍と体力1.2倍だ。どちらか一方を2本にして、効果を1.5倍にしたかったけれど、ちょっと目移りしてしまった。
バージョン6になったことで、お尻が非常にうるさいことになっている……。
そしてやっぱり、パンツ丸見え。
ステータスばっかりで、コーディネートがなっていない。
真衣は〔彗星ピアス〕をそのままに、穿いていた〔緊急回避のドロワーズ〕を売却して〔勝負下着(攻撃力3ターン以内3倍、その後1.3倍)〕を着用した。
僕は、その勝負下着を着用した真衣を見ていないけれど、その下着なら、確かに見た。
なんか、淡い赤色をしたスケスケの生地を用いて作られたブラジャーとパンティーの組み合わせだった。見ただけで興奮した。すごく肉感な下着だった。
「いまさらなんだけどさ真衣、ちょっといいか?」
「なによ?」
「〔イタチのシッポ〕の効果は『○○倍』で、〔賢者の羽衣〕は『○○%』だ」
「倍表示とパーセント表示ね。うん、それが?」
「これって、ことばの罠だぜ? 1.5倍増だとすれば、50%増じゃん。10%増は1.1倍増じゃん」
「当たり前じゃない。1.1倍増だったら『装備すると自分の力の1割を増幅させます』ということで、1割をパーセントに変えて、10%ってことでしょ」
真衣は、僕にアホの子みたいな扱いの眼を向ける。
「そんなこと、小学生でも知ってるわ」
「おいらはサッパリわからないのら!」
露店で買ってもらったリンゴを齧っているちょちょ。
僕はちょちょを抱き上げて言う。
「いやさ、買い物するときも『2割引き!』って言われるのと『20%オフ!』って言われるのでは、心理的に『20%オフ!』のほうが、得したように感じる!」
「……そう? ユッキーだけじゃないの? 私はべつに、だけど?」
「いいや、ちがうね。この〔イタチのシッポ〕って、結構チートアイテムなんだぜ? 1.2倍や1.5倍って、少ないように感じるけど、パーセントだと、20%アップ・50%アップって意味だ」
「うん。それで?」
やっぱり真衣は、アホの子目線を僕にくれる。
「だから真衣も、僕とおなじように、チートアイテムの〔イタチのシッポ〕をつけたらいい!」
「ふーん、そういうこと。私にパンツを晒せって? 勝負下着を晒せって?」
ジト目で僕を見やって真衣は、
「残念だけど、鎧装備に〔イタチのシッポ〕は着用できないの」
「そ、そんな……! じゃあ、僕だけがパンツ丸出しなのかよ!」
「諦めるしかないわね。みんなに、パンツを見せて上げたら?」
「ぼ、僕は女の子だぞ!? こんなハレンチな……!」
「この世界では、女の子ね。体だけ」
真衣は澄まし顔で、さらりと言ってのけた。
僕と一緒に、パンツ丸出しパーティーを結成する気はないらしい。
「んじゃ、仕方ない。僕が妥協する。僕も勝負下着をつけて、2人で一緒に、勝負下着パーティーを組もう!」
「絶対に、死んでもイヤ!! あんた1人で変態やってなさい!」
バチーン!
真衣の平手打ちが炸裂して、僕は精神的にも大ダメージを受けた。




