次は私が勝つ
春、学院の再会室には二人分の泥が持ち込まれた。
リナの靴には内塔の金砂。セシルの杖先には遠庭の黒土。床で二色が触れ、どちらの道にもない模様を作っている。
リナの前腕帯は新しくなっていた。太い筆軸を差す輪が二つあり、握力がずれても紙を破らないよう答案板の下へ柔らかな獣皮が敷かれている。
セシルの右脚支持具には細い傷が増え、杖は三本目だった。
「遠庭って、杖を食べるの?」
「泥が深い。一本目は先端を失った。二本目は守護獣に持っていかれた」
「返してもらわなかったの」
「代わりに角を置いていった」
「得してる」
「杖の方が使いやすい」
リナは内塔の話をする。
固定前に三つの答案を並べる席を作ったこと。最初は誰も書きかけを見せたがらなかったこと。前腕の光を隠さず書いたら、隣の生徒が失敗案を出したこと。
セシルは遠庭の話をする。
家の記録を写し直し、家名を消して共用棚へ置いたこと。浮骨鍵の読み方を二人へ教えたこと。教えた二人が、自分より速く継ぎ目を見つけたこと。
「悔しかった?」とリナ。
「少し」
「嬉しかった?」
「それも」
「両方なんだ」
「ニコの真似」
窓の外を、一本の光刃が遠く走った。外縁の一本道ではなく、変わる星道の測量線だった。
机には、四人連名の春便りが開かれている。ニコは光路守を続けながら遊路読みの比較期間を勝ち取った、と最初の一行だけ大きな字で書いた。その下へマヤが、触れる前に聞きすぎて治療師に急かされた、と追記している。
「イオ、門番への質問が十二個」とリナ。
「一つ増えている。ハルは?」
「投げる距離より、相手の歩幅を先に測るようになったって」
末尾には、四人ぶんの違う筆圧で、次は六人で、とあった。
離れていた時間は長い。
話すと、まだ足りない。
セシルが机へ一枚の答案を置いた。双環裁定城の九十点答案。時間の欄に新しい線が二本ある。
「直した?」
「安全確認を一つにまとめた。返事は減らしていない」
「次は九十一?」
「九十二」
「私も直したよ」
「どこを」
「安全線を越えない」
「では、同点」
「なんで自分だけ上がる前提なの」
セシルは九十点答案を鞄へ戻した。
「次は私が勝つ」
「次も私」
「試すまで決めない」
「じゃあ、次の答案」
リナが完答した別の答案をセシルへ渡す。
セシルが空いた手を差し出す。
リナがその手を取る。




