一通目 小さな配達員
今日も残業を終えギリギリ終電に間に合いホームで待っていた。
プロジェクトのリーダーの先輩はさっさと帰るし、新人ちゃんは体調不良で入社一年で休職。
しわ寄せで毎日毎日残業で吐きそうだ。
次の健康診断は栄養ドリンクの飲み過ぎで絶対引っ掛かるな…。
もうやめようかな…いや先に労基か?
そう考えながら電車のライトが奥から見えてくる。
ライトが眩しいけれどお家につれて帰ってるれる乗り物に感謝だ。
なんて頭が回ってない思考に身体もふらついて、ホームから足を滑らせてしまった。
目を覚ますと、そこはカーテンに囲まれた場所だった。
やば、俺病院に運ばれた?と思い、点滴が刺さってるかと思った自分の腕を見たら、点滴は刺さってなく、なんだか違和感。
よく観察したら腕も手も小さい????
反対側もそうだった。
起き上がって全身を鏡で確認したいのに、何故か起き上がれない。
もしかして俺腰と頭を打って、脳がおかしくなった????と恐怖に襲わせた。
するとカーテンが開いてとても可愛い女性が俺の顔を覗き込んできた。
うわちょー美人な看護師さん?!?!?!入院は悲しいけれど、美人さんが担当ならラッキーーーー!!
と思っていると、美人看護師さんは笑顔で近づいてきた。
ちょちょちょちょちょ顔近いですよ?!
さすがに、それはだめだと抵抗しようとじたばたした。
「ふふ、よかった元気ねフェール。おはよう」
俺は、美人看護師(?)にひょいと持ち上げられたのだ。
おいおいおい俺は70キロある成人男性だぞ!!この美人さん、実は服の下はムキムキバキバキか?!
「お、熱下がったのか。よかった〜!」
誰だこのおっさん。いや、俺もおっさんか。
俺を見て気持ち悪い顔しないで頂けます?
カチカチの掌で頭を撫でられると痛いんですけど。
俺は美人さんに抱かれたことにより体勢が変わったので全身を確認した。
ちっっっっっさ。
全部が小さい。これは子供の身体だ。
「私の可愛い赤ちゃん」
美人さんは俺に頬擦りしてきた。
美人さんは看護師ではなく赤ちゃん(俺)の母親。隣にいるゴツゴツの男は父親だとうかがえる。
俺、異世界転生してしまったようだ。
赤ちゃんの時代は何もできないので、なんとか母親に本を読み聞かせてもらいたいアピールをして、知識を増やしていった。(最初はよくわからん絵本が多かったけれど)
本読みの時間は俺が大人しいので、両親はこの子は賢くなるぞ!と、俺のために惜しみなく様々な本を買ってくれた。
そうして3歳の頃にはいろんな言葉が喋れて難しい本も読めるようになっていた。
両親は俺を天才だー!と大事に大事に育ててくれた。
もう少し大きくなると、父親は剣や弓などを教えてくれた。
父は冒険者らしく、定期的に家を空けるのはそれが理由だった。
美人妻を一人置いて行っていいのか?!と思ったが、聞くと母は凄腕の呪術師で襲ってくるなら悶え苦しむ呪いをかけて身を守るそうだ。
家にも侵入者に対しての呪いがたくさんあるのだと。
怖すぎる。
しかし残念なことに俺は戦闘に関するチート能力はなかった。
それでも体力は必要だからと、一番うまく扱えた短剣訓練は続けた。
10歳になる頃、大人顔負け(中身は大人だけど)の知識力になり、両親はもっと才能にあった勉強できる機関を進めてきた。
しかし、前世の俺は有名大学に入れる知能は無かったし、職も凄い技術があるとかではなく、ただのサービス業だった。
この世界で賢さのチートも無かったので、これ以上知能指数が上がる望みはなく、だから学校とかに入ったとしても、中学生か高校生くらいの年齢で本当の天才達に抜かれ置いていかれるだろう。
そんな惨めなことはしたくないし、両親を悲しませたくない。
それに最近始めたアルバイトがある。
配達員の仕事だ。
俺のすんでいる村はすごく辺鄙なところで、最寄りの町から大量に荷物を運ぶにしても馬車で往復6時間かかる。
手紙なんかもしょっちゅう遅れる。
だから俺が村の人たちの荷物を運ぶ仕事をしている。
なんで10歳のガキがそんなことできるって?
そう!俺のチート能力『ワープ魔法』だ。
この世界では瞬間移動魔法や魔道具みたいなのは存在しないそうだ。
はっきり気付いたのは5歳の時。
能力事態は赤ちゃんの時からあって、寝ているときに発動して、庭にいつの間にかとばされていることが何度もあった。
泣いて母親を呼ぶことで事なきを得たが、誘拐未遂事件として、母は家の周辺に協力な呪いを増やしたそうだ。
本当にごめんなさい。
話を戻して5歳の頃、子ども達とつるんで遊んだ帰りで、歩くのが面倒だな〜家に一瞬でぴょん!とか妄想したらできたのだ。
最初はビックリして意味がわからなかったけれど、何回も試して成功したから、この世界での俺の能力がワープ魔法だと知った。
飛べる範囲は目に見えている視界の範囲か、一度行ったことがある場所に限定されている。
地図を見ながら王都へワープを念じたが何も起きなかった。
両親にこの事を話すと、そりゃもう目玉が飛び出し、顎が外れそうなほどの驚きだ。ワープ魔法がこの世に存在しないことや人前で見せてはいけないなど説明してくれた後、さすが俺たちの子だと喜んでくれた。
俺はワープ魔法を使えることを知ってから村と町を一瞬で行き来して、郵送代(人も運べるけど隠している)を頂いている。
一瞬で戻ると能力がばれるので、ものによっては日をずらしてごまかしている。
最初は好意で始めたことだったが、父がちゃんと労働の対価を貰いなさいと言ってくれて、仕事となった。
みんな喜んでくれてるし、結構賃金はいいので助かっている。将来の貯金だ。
初任給の時は両親のために町で美味しい果物を買ってあげたら、とても喜んでくれた。
配達員っていい仕事だと思う。
冒険者にも偉い人にもなれないのであれば、この仕事を広げて世界中飛び回って、堅実に生きていきたいと思う。
ある日村長から行ったことのない大きな街へお使いを頼まれた。
それは子供に軽々しく任せていいものではない重要なことが書かれている手紙らしい。お前さんなら大事な手紙をすぐ届けてくれるからなぁと信頼してのことだった。
片道一週間の長旅になるらしい。
いろんな世界に行きたいとは思っているけど、俺は強さレベルは低いし10歳だ。どうしようか。と悩んでいると、俺の考えていることが既に村長にはわかっていたようで、俺の護衛に父が着いてきてくれるそうだ。
それなら安心だと、母にも話を通して初めての旅をすることとなった。
行ったことがある町までワープで飛び、そこから乗合馬車に何度も乗り換えて移動した。
父は旅の間、たくさんのことを実践できるものは見せてくれながら教えてくれた。
「いつかお前は村を出て、なかなか帰ってこなくなるんだろうなぁ」
焚き火を囲みながら父が寂しそうに言った。
「帰ってこいって言われたら一瞬で帰ってこれるよ?」
「ははっ、そうだった。帰ってきてほしかったらお前に手紙を書けばいいな!」
安心したように鍋のスープをかき混ぜてた。
「フェール。前に話してくれた会社を作って荷物を世界中に運びたいとあったな。もしお前の能力を知った権力者が武器や火薬を戦争のために運ばせようとするかもしれない。父さんはお前に戦争という人殺しには加担してほしくない。犯罪にもな」
温まったスープを器に入れ、俺に渡してくれる。
「お前に荷物を預ける人が犯罪者かもしれない。悪い貴族かもしれない。王様かもしれない。従わねばならぬ権力者に屈しない強い大人になれ」
父は真剣な顔で俺を見ている。
確かに、会社の名を広めたら知らずに危険物を運んで犯罪の片棒を担いでしまう可能性は出てくるだろう。
父はすごく心配してくれているのがわかる。
スープを一口すすり、身体が内側から暖かくなるのを感じた。
「火薬含む武器弾薬や薬品などの危険物お断り。生物も禁止で徹底していきます!」
父を安心させるように笑顔で言った。
日本の郵送会社の決まりを習えばきっと大丈夫だろう。
転生前の俺は貧乏で奨学金返済を少しでも減らすためにいろんな配送業をやったり、引っ越し業者も経験した。マニュアルや先輩に教えられたノウハウは頭に残っている。
にかっと笑った父は俺の頭を強く撫でてくれた。
固い手で強く撫でられるのは痛いって言ってるだろ!
村長に頼まれた手紙の届け先である大きな街についた。
父に案内され市庁舎みたいなところで結構待たされて、眼鏡のなんか嫌な対応をするおっさんに目的の手紙を渡して後にした。
父曰く、税金関係の交渉だろうなぁと。
田舎は農業が主で、金持ちはほぼいない。税金に関するものは死活問題だからな。
いつもぼんやりしているおじいちゃん村長もなんだかんだ仕事してるんだなと、評価を改めた。
せっかく来たのだからと街をまわって母さんのお土産を買おうという提案に乗り、にぎやかな商店や屋台を堪能した。
父が用を足したいということで、有料公共トイレに入っていった。
俺は荷物を盗まれないようしっかり抱えながら外で待っていた。
母がカバンに呪いをかけてくれているから安全だけどちょっと不安だから持っておく。
このかばんは俺と父さん以外が触ろうものなら皮膚が触ったところからただれていくという。相変わらず俺の母は恐ろしい。
人の波を眺めていると、後姿が長い緑髪の女性が何かを落とした。
慌てて拾うと、とても高価なものだとわかるイヤリング。
俺は慌てて落とした女性を探しに追いかけた。
緑の髪の女性が裏路地に入っていくのが見え、俺も走って裏路地に入った。
「お姉さん!!イヤリング落としたよ!!!」
俺の大声に振り向いた緑の髪の女性は左耳を触り、なくしたことに今気づいたようだ。
どうぞと素直にポケットからイヤリングを渡した。
女性の顔を見上げたら、とんがり耳の絶世の美女が立っていた。
エルフ族だ!!とテンションが上がってしまった。
「おお、すまんな童」とイヤリングを受け取るエルフ族の美女。
これまた鈴のような美しい声だった。
「…お前、これが見えているのか?」
?どういうことだと思いながらエルフの美女が自身のイヤリングを揺らしている。
「すごくきれいなイヤリングを美しい女性が持っているってこと?」
と素直に言うと、女性は面白そうに笑いだした。
「そうかそうか、わらわが美しいか。当然のことだが嬉しいものよ。お礼に何かしなければな。何がいい」
「別に見返りはいらないよ。落とし物を拾ったら、持ち主へ帰す。もしくは警察に届ける。常識だよ?」
拾ったら1割とか、日本はそんな制度があったけれど、この世界では存在しない。
高望みしていいなら、この美女からほっぺにちゅーくらいをしてほしいな。
エルフの美女は目を丸くしてこちらを見下ろしている。
「こんな高価なもの、拾えば懐に入れるのが普通であるのに、お前は良い子であるな。親の顔を見てみたいぞ」
「お父さんも強くてすっごくいい人だよ!!」
父は凄腕の冒険者らしく、クラスでいうとA級でいろんなところから依頼が来るすごい男だ。
ギルドにすごく信頼されていて、家に何度か緊急招集で呼ばれて危険なところに行ったりしていた。
そんなすごい男は若いころ母に惚れ込んで、あんな田舎に住んでいるらしい。
「そうかそうか。良い家族なのだな。そのまま大きくなれ童」
笑いながら頭を優しくなでてくれるエルフのお姉さん。これだけでもうれしすぎる。
「でもな、我が種族は正しき行いをした者には礼をする決まりがある。そうだなお前は将来何になりたい?」
何になりたい?そりゃもちろん
「俺、配達員になるんだ!大切な荷物を預かってお届け先まで安全に大切に運ぶお仕事だよ。そんでもって世界中を回るんだ!」
「配達員…手紙を運ぶ雑用を?」
「それだけじゃなくて食料や家具とか多きものも大量のも運ぶ。遠い町や村をつないで流通をよくして皆が裕福になって幸せにする仕事だよ」
人が貧しくなるのは金だけではなく物や情報がが手に入らないことも原因だ。
俺は荷物と笑顔を届けたい。
「なるほど…よい仕事だ。であればこれをやろう」
エルフ族の美女は何もないところから見た目は普通の肩掛けカバンを出し、俺に渡してきた。
「そのかばんはいくらでも物を詰め込められる。大きさも重さも関係なく入り、カバン以上の重さにはならぬのだ。食べ物も入れている間は腐りはしない」
これっていわゆるマジックバッグっていうチート魔法装備品じゃん!!!
「ありがとうお姉さん!これに荷物入れていっぱい働くね!!」
俺は勢いよく頭を下げお礼を言った。
「ああ、よき働きを楽しみにしておるぞ。して、名は?」
「フェールだよ!お姉さんは?」
「フェールか覚えておくぞ。わらわの名は…そうだなまた会えた時に」
そういってエルフの美女は路地裏に消えていった。
もらったかばんを肩にかけ、大通りに戻ると、「フェール!!」と俺の名前を呼ぶ声が聞こえ振り向くと、父が荷物を抱えて汗だくで走ってきた。
あ、黙って荷物も置いてきちゃったと思い出した。
「お前っ勝手にどこ行ってっ…!戻ったら荷物の周りには皮膚がただれて苦しんでいる男たちが転がっているわ、お前はいないわで焦ったんだぞ!!」
うわ…母さんの呪いが発動したのか…。忘れた俺が悪いけど、盗もうとしたんだからざまぁでしかない。
だが、荷物をその場に置いて離れるなど配達員にあるまじき行為だ。反省せねば。
「ごめんなさい、落とし物拾ってその人に渡しにいって……」
父はため息をついて
「ちゃんと渡せたのか?」
うんと返して、そうだ父さんの抱えている大荷物このかばんに入れてみよう。
人目から隠れるように少し移動し、父さん荷物俺に渡してと言って受け取り、もらったかばんの中に入れようとしたら、吸い込まれるように消えた。
「なっなんだ!?」
取り出せるかとカバンに手を入れると、ちゃんと出てきた。
「お前それはマジックバッグじゃねぇか!勇者一行や王家ぐらいしか持っていないっていうやつか!?」
えっマジックバッグって国宝級のものなの!?
「落とし物のお礼にってもらったの」
あのエルフの美女はもしかして王室の人間だった!?知らなかったとはいえ無礼だったかも…。
返したほうがいいのかと悩んでいると
「話を聞くに、お前を気に入ってお譲りになってくれたのだろう。大事にしなさい。だが、人目に見られぬようにな」
と念押しされたので、とりあえず使わせてもらおうという方向になった。
その後は屋台の食べ物をたくさん買ってワープで家に帰った。
沢山のお土産を前にした母さんはとても喜んでくれた。
それからは俺はマジックバッグを使って配送業にいそしんだ。
ワープとカバンをばれてはいけないので、成長で力がついたと言い訳しながら、運ぶ量を徐々に増やしていった。
そして5年がたち15歳になった俺。
帽子をかぶり、荷物を傷つけないよう滑り止めがついた丈夫な手袋をはめた。
靴は長時間走ってもいい丈夫なものを。
これらは両親が特注で作って買ってくれたものだ。
「さびしくなるわね。」
「気を付けてな、フェール」
玄関で両親の見送りを受けながら俺は今日旅立つ。
「いってきます!父さん母さん!」
世界一の配送会社設立を目指して新しい一歩を踏み出したのだった。




