変人
「あ!あの時の変人!」
「誰が変人じゃゴラ」
開口一番失礼な事を言って来たぞコイツ。
もうちょい礼儀を弁えてくれ。
「こんなところで何を?」
「ちょっと野暮用でね。おっちゃん!いつものお願い!」
「あいよ〜」
そう言って再びオジキは厨房へと入って行った。
いつもの、で通じるという事はこの2人も常連なんだろう。
「リーシャ、彼女は?」
「この前言った土竜の奴だよ。医者に騙されてた」
「あぁ、あの。じゃぁそちらのお兄さんが……?」
男の体の軸に一切の違和感はなく、仮にアルの兄という事なら貴族だろうから特に驚きはない……。
だが、如何せん隙が無さすぎる。まるで騎士のようだ。やはり何かの武術をやっているか……?
……なぜ私は初対面の相手の戦闘分析を行っている?やめだやめだ。
父さんが問いかけると、フードを被った青年がフードを脱ぎ、軽く会釈をする。
よく見れば端正な顔立ちをしている。いわゆるイケメンという奴だろう。
「初めまして、僕はレイン・フォン・ハイゼラードと申します。いつぞやは妹がお世話になったようで」
「まぁ目の前で満身創痍だった奴を見捨てるのはちょっとね……。壊魂症どうなったんだ?」
「君の言うとおりにしたら今までの苦痛が嘘みたいに治ったよ。医者はどこで何をどう知ったかまでは分からなかったけど、敵対する貴族が仕向けて来た刺客だったよ」
「だろうな。でなきゃあんなわざわざ死なすような偽の治療法を教える真似はしないだろうよ」
どうやら私が懸念した通り誰かから送られた刺客だったらしい。
なんとか未然に防げて良かった。
だが一つ気になる事がある。壊魂症は現状不治の病と言われる病気だ。
何せ治った例が無いのだからな。いや、訂正、二例ある。一例は随分前で外に出てる話じゃないが。
「てかやっぱお前ら貴族か。貴族ってのは大変だねぇ。私ならなりたくねぇよ」
「一応お前今も貴族って話するか?」
「辺境のボロ屋敷一家を貴族とは言い難いだろう。アレはどう穿って見ても他よりほんの少しだけお金持ちの一家程度にしかならん」
「それはそう」
実際に我が家はボロ屋敷というか、ちょっと部屋の増えた民家みたいなものだ。
辺境の領主なんてものはそんなものらしい。
だからこそルナやハルも小説の威張りっ気溢れる領主の子供って感じに育ってないんだろうな、と。
まぁ領主の娘息子が全員あんなのだとは思わんが。
仮にそうだとしたら今頃辺境と言われる場所の子息令嬢はみんなおてんばということとなる。
「まぁ悪い事ばかりじゃないけどね。ところで僕と妹の恩人の名前を聞かせてもらっても良いかな」
青年がまず私へと目を向ける。
「リーシャ・フォートレスだ」
「私はルナ・フォートレス。よろしく」
「ん、よろしく」
私が手を差し出せば相手もそれに答えてくれる。
ふむ、思ったよりガッチリした手だな。それに長い間剣を持ったときに出来るタコもある。体の軸と言いやはり剣術でもやっているな。これは。
「何か剣術でもやっているのかな」
「そうだね。家の方針で……というかまぁ嗜み程度だけどやってるよ。よく分かったね」
「まぁ体の軸がそもそも整いすぎて隙が無かったからな。普通の生活を送ってる貴族なら有り得ん」
と言っても私の偏見だから貴族が全員剣術をやっている可能性だってある。
「ふむ……アルに聞いた通りの分析力だ」
アルが水を得た魚のように得意気な表情を浮かべる。コイツは調子に乗るタイプかな。
可愛いから見逃すとしよう。
「でしょ〜?あなた……えと、リーシャさんって呼んだ方がいいかな?」
「別にリーシャで良いよ。さん付けはあまり好きじゃない」
「分かった!リーシャって何でそんなに色々出来るの?」
何で……何で……?出来るから……って答えても答えにはならんわな。かと言って前世があるなんて言えば頭のおかしい奴扱い必至だ。
父さんと母さんにすら最初は頭を撫でられて落ち着こうと言われたぐらいだ。
「もしかして転生したとかそういう奴だったりする?」
「ゲホッゲホッ」
レインのいきなり核心を突いた一言に思わずむせかえる。
流石に冗談だよな?
「もぉお兄ちゃんってば、小説の読み過ぎだよ〜」
「えぇ〜そうかな、僕は転生とかそういうものがあっても良いと思うけどねぇ」
「あ、あぁ、そうだな。んでまぁ私の何で出来るかっていうのは……まぁアレだな。とにかく鍛錬鍛錬鍛錬。以上」
「この上なく簡潔な答え来た」
「少なくとも一般人を今の私ぐらいにしようと思ったら……5〜6年ぐらいか? でもアルなら色々出来ているしそれよりはもっと短いよ」
そもそも一般人には魔力の扱い方を知らない人だっているので、それは半年〜1年。
あとの5年で身体をほぐしたりボコボコにして硬くしたり、あと魔力の操作の効率化とか色々。
ルナが数年で私レベルまで出来たのはそもそも父さんと母さんの血が良かったからかな?
そもそもある程度出来る素質が無いと出来ないはずだし。
だがアルぐらいとなると、大体2、3年で済むだろう。
すでに今までの経験と鍛錬で最低限やらないといけない事はあらかた出来ている。
「え〜そんなにかかるの〜?」
「おん、私が高みにいるとは思わんが、強さに見合った鍛錬をしないと自分のものには出来んよ」
「ほら言ったろ?そんなうまい話はないんだって」
「そうそう。で、何でだ?何か強くなる理由でもあるのか?」
「再来年の王立学院の受験をするのに今じゃギリギリの成績だからさ〜」
「ほぉ、じゃぁ私の2個下なのか」
ハルと同い年か。
彼女は年相応とは思えない精神をしているが見た目は確かに14歳か。
1人で土竜相手に剣一本で挑む14歳。
アホかと言おうと思ったが同じ年の頃私は素手で土竜を殴り殺してた。
批判できねぇ。
批判できる立場にいねぇ……。
「僕はその二つ上だから今年入学する予定なんだ」
「お、奇遇だな、私もだ。じゃぁ成績によっては同じクラスとかかもな」
「だとしたら良いね」
ニヤリとレインが笑う。
「うぃ〜お待ちどぉ〜」
ちょうどレインたちが頼んだご飯が来た。
コイツらが頼んだのは私たちのとは違い白濁色のスープに麺が入ったものだ。
実に美味しそうな匂いがする。
しかも2人揃ってズゾゾと啜って食べやがって……美味しそうだ……!
「……ん?食べるかい?」
そうやってレインが提案してくれた。そんなにジロジロ見てたか?私。
とはいえつい引き込まれそうな見た目をしているのだ、仕方ない。
「ではお言葉に甘えて……」
レインの隣の席に移動して少しすすらせてもらう。
おぉ、なんと旨いことか。
「あらあら」
「フフフ」
「フォフォフォ」
気持ち悪い笑みを浮かべる父さんと母さんとオジキはなんなんだ。
「うまいなコレ。なんていうんだ?」
「豚骨ラーメンって言うらしいよ。いつ誰が作ったのかは知らないけど、最近出来たモノっぽいね」
「ふむふむ……今度ここに来たときに頼もう。食わせてくれてありがとな」
「良いよ」
にしてもこいつの顔近くで見れば見るほど整った顔してるな……周りの女を骨抜きにして来た顔をしている。
私は特に気にならないが。
「もう大丈夫か?」
「そうだな。そろそろ腹も膨れて来たし。母さんたちは?」
「私ももうお腹いっぱい〜」
「俺も〜」
「私ももう食べられないわよ」
どうやら皆お腹いっぱいのようだ。
喋りながら食べているとすぐだったな。
「分かった。じゃぁまた来るよオジキ」
「おう、元気でな」
「あ、ところでレインとアルって電話は持ってるか?」
そう言えば、と思って電話を持っていたら連絡先を交換しようかな。
「持ってるよ。繋ぐ?」
「おう、出来るなら」
電話番号を交換して連絡先に登録した。
私の電話に初めて同年代の知り合いの電話番号が追加された。
「じゃぁ私たちもまた今度、学院の時にでも」
「うん、行ってらっしゃい」
手を振って見送ってくれた。
何気に初めての同年代友達では……?
「気色悪い顔してるわよ、お姉ちゃん。そんなに同年代の友達みたいなのが出来たのが嬉しかったの?」
「あたぼうよ。今まで一回たりとも出来なかったんだからな」
悲しいかな、私は辺境かつ領主の娘、というステータスのせいでなかなか同年代の友達というものが出来なかったのだ。
同年代がそもそもいないというのもあるが。
まぁ友達を作るより魔法弄ってた方が楽しかった……ってのもあるが16にもなると流石に飽きてくる。
「ま、アイツらとはまた学院で会えるし、楽しみだな」
それじゃぁ学院の手続きにでも行きますか。
「にしてもレインにアル……かぁ……確か……アイツの…………?まさかなぁ」
父さんの呟きは誰も気にする事はなく消えて行った。




