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再会――ダルウィッシュ

 インバラトゥーリーヤー国の女性は、ニカブと呼ばれる目元だけが出た全身を覆う黒衣を纏っている。その下に、胸元がバーンと開いていて、ヘソ出しのエロいドレスを着ているというのか。驚きだ。

 まあ、郷に入れば郷に従えという言葉もあるし、みんな着ているのならば拒絶すれば失礼に当たるのかもしれない。


 それにしても、すごく派手な服だ。前世日本でもあまり見かけなかったショッキングピンクの布地に、金の刺繍が刺されている。スカートは薄いシフォン生地で、太ももの辺りまでスリットが入っていた。

 エリーズは内心、この服装を「はしたない」と思っているのだろう。額に手を当て、ため息をついていた。

 このまま全裸でいるほうが、はしたないと思うが。早く着せてくれと命じると、ハーイデフはこの国のドレスを着せてくれた。


 驚いたことに、下着を身につけずにドレスを着せられてしまった。この国には、下着という概念がないのか。胸元の布地は案外しっかりしているので、ぱっと見て下着を身につけていないようには見えないけれど。

 下は、派手に動かなければバレないだろう。たぶん。

 手首には細い金の腕輪がいくつか付けられる。首には鈴が付いた赤いリボンが結ばれた。動くたびに、腕輪がシャラン、鈴がリンリンと鳴る。私が少し動いただけで、地味にうるさい。


 オディルに預けていた、邪視避けの首飾りを持ってくるように命じる。不気味なものだが、せっかくもらった品だ。身につけておいたほうがいいだろう。


『それは……!』


 ハーイデフが初めて言葉を発する。インバラトゥーリーヤー語なので、何を言っているのかわからない。声色から、年若い女性であることがわかった。目元だけしか見えていないと、年齢不詳感がある。


 ハーイデフはダルウィッシュがくれた首飾りに反応した。


「これが、どうしたのか?」


 尋ねたが、無視されてしまった。まあ、いいか。


 身支度が調ったからか、ハーイデフは会釈して部屋から出て行った。すぐさまエリーズが駆け寄ってきて、心配そうに覗き込まれる。


「殿下、その、そちらのドレスは……王族に相応ふさわしくない恰好のように思えるのですが」

「まあ、ちょっと派手だな」


 でも、有名なアラビアンアニメに出てくる姫君は、このような腹出し恰好をしていたような気もしていたので、きっとこれが正装なのだろう。文化の違いなので、受け入れるほかない。

 納得しかけていたがふと、気付く。あれは、インドとアラブの風習や文化が混ざった創作だった気がした。だか、気にしたら負けだと思っておく。この世界も、地球と似て非なる場所だから。


「しかし、このドレスは動きやすい。武器も隠しやすいし」

「ええ」


 外に出るときは黒衣を纏うし、夫であるダルウィッシュ以外に見られることはない。だから安心するようにと、エリーズを慰めておいた。


 夜――夕食を共にするために、ダルウィッシュがやってくるらしい。

 部屋に使える召し使い達は、ピリピリとした雰囲気だった。特に、ハーイデフはイライラを隠していない。ダルウィッシュがくるせいで、忙しくなったからだろうか。よくわからない。


 円形の部屋に敷物が広げられ、料理が次々と運ばれてくる。

 すべてドーム状の蓋が被さっていて、どんなメニューが用意されているかはわからない。おいしそうな匂いがすることだけは確かだ。遊牧民の料理がおいしかったので、期待が高まる。


 ついに、ダルウィッシュがやってきたようだ。扉の外から、声がかかる。


「アイシャ、余だ。早く開けてくれ」

「おう。開けゴマ! ……じゃなくてイフタフ・ヤー!」


 そう発すると、召し使いが扉を開いた。


「アイシャ!」


 ダルウィッシュは走ってやってきて、床に膝を突き平伏の恰好を取った。


「アイシャ……余の生命!」

「ん?」


 なんだか訳がわからないことを言った気がするが、早口だったのできちんと聞き取れた自信がない。

 ダルウィッシュは平伏したまま、喋り始める。


「よくぞ、遠い地から、インバラトゥーリーヤー国まで参ってくれたのだ。余は、とても嬉しいのだ」


 ダルウィッシュは相変わらず、ハムスターの太郎語を操っている。ちょっと笑いそうになったが、ぐっとこらえた。


「おい、ダルウィッシュ。顔を上げろよ」

「う、うむ。そうだな」


 ダルウィッシュは私を見上げた瞬間、ぎょっと目を見開いた。そして、鼻血を噴く。


「ちょっと、おい!」

「ア、アア、アイシャ! その恰好はなんなのだ!?」


 その辺にナプキンがなかったので、スカートでダルウィッシュの鼻血を噴いてやる。


「うわああああ! アアアア、アアアア、アイシャ! ああああ、足が、生足が!」


 こいつは、鼻血を噴きながら何を言っているのか。

 瞬く間に、ドレスのスカートは真っ赤に染まっていく。


 ナイフでスカートを裂き、ダルウィッシュの鼻に詰めた。膝に布を被せ、膝枕をしてあげる。


「アイシャ、すまないのだ。こんな両方の鼻に布を詰めた顔をさらしてしまい、非常に恥ずかしいのだ」

「気にするな」


 しばらく、安静にしてもらう。


「アイシャ、その、非常に言いにくいのだが」

「なんだ?」

「その服は、我が国の、踊り子の衣装なのだ」

「なるほどな!」


 だから、ダルウィッシュは私をひと目みて、ぎょっとしたわけだ。

 エリーズが言っていた、王族に相応しくない、という言葉は当を得ていたというわけか。

 そしておそらく、ハーイデフは嫌がらせで、このドレスを着せたのだろう。

 

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