すてきな、すてきなプレゼント
エレンさんはいつものように、れんきんじゅつしの服をきて、にこにこ、やさしく笑っています。
その手にひとつ、もふもふとした、なにかをもって。
「それで“けっこんしたくきん”をくれたから、かわいいおむこさんにとこれを作ったんだけどね……」
ふわっとそれをひろげると、あらびっくり。
“ないしょちゃん”こと、アンジュがもってきたのと、うりふたつのチョッキです。
胴体ぶぶんはもふもふしてて、背中からは白いつばさが生えています。
「こいつはどうも、リーシャ君にあげなきゃならないようだ。
だめだよ、こねこがえんりょなんかしちゃいけない。
ましてそんな、かわいそうなすがたでね」
エレンさんは、やさしくリーシャをなでていいました。
そうして、ぱちんとミューにウインクします。
「……そういうわけで、おむこさん。
きみのぶんのチョッキは、もうちょっとあとでもかまわないかな?」
ミューはきょろきょろ、あたりを見回します。
そして、それがじぶんのことだと気づくと、ぺろぺろ、ぺろぺろ。
すごいいきおいで毛づくろいをはじめます。
ようやく口がきけるようになるとミューは、こんらんしたようすでこう言いました。
「ね、ねえぼく、ししょーとケッコンすることになったの?
それはすっごくうれしいけど、ししょーはおとこのこ……」
「ばかっ」
“ないしょちゃん”あらため、アンジュのねこぱんちが、にぶちんミューにとびました
(もっともそれは、ちいさなにくきゅうのせいでぽにっとやわらかくて、ちっともいたくありませんでしたが)。
なんてことでしょう。リーシャはぼうぜんと問いかけます。
「あの、ミュー?
ぼく、さいしょにアンジュさんのこときかれたとき、いったよね。
アンジュさんのこと、“かのじょ”って……きいてなかった?」
「うう、だってししょー、ボクっていってたんだもん……おとこのこだっておもったんだもん……」
「ひどーい!
こんな美少女こねこを、おとこのこだなんて!
もうおともだちにしてあげない! おむこさんにもしてあげないからー!」
ぽにぽにぽにと、かわいいねこぱんちがとびます。
「うわあん、ごめんなさいししょー!
おむこさんにしてください! おともだちにもしてくださいー!」
かわいいこねこのカップルは、ころころ、みゃあみゃあ、ころころり。
まるでけがなんかわすれてしまったように、ころげています。
リーシャとティティは、かおをみあわせてくすり。
エレンさんはあははとようきに笑います。
やがてその場はおみまいのみんなの、あたたかな笑いにつつまれたのでした。
* * *
それから、クレールの町をいくつかの季節がとおりすぎました。
“ないしょちゃん”こと、アンジュはすっかりあるけるようになり、もう、ふしぎなチョッキはいりません。
にゃんこせんよう、おそらをとべるふしぎなチョッキは、リーシャと、かれのおよめさんになったティティが着ています。
いまではこのふたりが、『にゃんにゃんブートキャンプ』のおにぐんそうです。
もとの“ししょー”は、なんでやめちゃったのかって?
かのじょのおなかには今、あたらしいいのちがやどっているからです。
『にゃんにゃんブートキャンプ』をつくった灰じまにゃんこと、かのじょのおむこさんは、おたがいいたわるようによりそいあって、今日もふんすい広場をみにいきます。
もちろんふたりのうしろには、エレンさんとマリーちゃんがいます。
すっかりじょうずになったマリーちゃんのクッキーを手に、今日もねこたちを見守ります。
「いっちに! いっちに! ほら、ちょうちょに気をとられない!」
「はいあといっしゅう! 周回おくれはおいてくぞ!」
「いっちに! いっちに!」
「にゃんにゃんにゃん!」
「いっちに! さんし!」
「にゃんにゃんにゃーん!」
こんなわけで、クレールのねこたちは、今日もみんなに見守られつつ、朝のふんすい広場を走るのでした。
~おしまい~