血ぃすーたろかー35回目
その日の夜、俺達は函館に辿り着いた。救難信号が功を奏したのかレールガンの砲弾は飛んでこなかった。
入港するにあたってガイドビーコンみたいな物がありそれに従って入港し、自動運行のタグボートが出て来て船を完璧に岸壁に寄せた。横須賀だとこのタグボート操作系も全て壊れてしまったのだろう。人類未踏の地、北海道。試される大地に立ち入った人間は存在しない。
タラップが掛けられてそれを降りると儀仗兵宜しく並んだ機械歩兵達に出迎えられた。
「こ、此処がエッゾ……」
「何と凄い所か……」
トーキンを含めた大勢の教授達は感嘆の声を漏らしていた。
《ヨウコソ北海道要塞札函館区ヘ。
戦闘AI武御雷ガ出頭命令ヲ出シテイマス。此方ヘドウゾ》
一台の軍用トラックが滑り込んできて、機械歩兵が乗れと言うので俺達は素直に乗る。運転席を見ると機械歩兵がハンドルを握り、後部にも銃を持った機械歩兵が乗り込んだ。
俺達が乗り込んだのを確認するとトラックは静かに走りだす。
「スゲーな。全自動だ」
「本当ですわね」
因みにノンナは煩いので明日の朝まで眠らせておく事に。現在、ゲイリーがオンブしてる。最初、ストーカー君がオンブしてたけど、おんぶ歴0分のストーカー君に寝てるノンナのオンブは無理で頭から甲板に落っことしたので妻子持ちのゲイリーに丸投げしたのだ。
甲板に落っことして何ともねぇのは流石にビビった。流石ノンナだ。
「武御雷って何処にあるんだ?」
《武御雷ハ五稜郭跡地ニアリマス》
「五稜郭に作ったのか?」
《五稜郭ハ現在陸軍第7師団及ビ海軍北海道沿岸警備隊ノ司令部ガ存在シ、2280年ヨリ約3千年モノ間コノ北海道ヲ守護シテキマシタ》
パネェな。本当にパナいな!パナイ島まじパない!
「そ、そうか。
それはご苦労だな」
俺の言葉に機械歩兵は反応しなかった。20分程トラックが走るとあっという間に市街地から五稜郭に。五稜郭は近代化された完全な要塞だ。市街地は形を保って居たが電灯は付いていないし、そこかしこに機関銃や対戦車ミサイルを据え付けた陣地と機械歩兵が居る。
射撃訓練はしていないようだが装備その他諸々は非常に整備が行き届いているし、市街地の損壊もほぼ皆無と言える。
人間の代わりに機械歩兵が暮らしているかの様だった。
「……北海道の人間は誰もいなく成ったのか」
「その様子ですわね。
もともと民間人も少ないですし、性別が非常に偏っていたなら、滅びるしか有りませんもの」
つーか、本島でああなのだから北海道等の島々では成り行かなく成るよな。
なんて考えていたら五稜郭の地下にグングン入っていく。何か地下道が新設されてるぞ。入り口には巨大なシェルターみたいな扉が何十にもあってそれらが通っていく側から閉まっていく。滅茶苦茶かっこいい。此処だけ宇宙世紀だわ。
何十と言う扉を潜り抜け辿り着くとジャブロー基地みたいな場所があった。なにここ?ガンダムでも作ってるん?俺グフ乗りたい。グフカス。ノリスのオッサンが使ってたやつ。ジェット・コア・ブースターで八艘飛びするんやで~そんでガンタンクニキによろしくするんやで~
「割とまじめにどんだけ潜るんだよ」
「要塞の要たる戦闘AIがあるんですから核ミサイルを数十発受けても耐え得るレベルに深くはいるでしょうね」
ヘルシングは相変わらず拡張現実に何かを打ち込んでる。ストーカーはぼーっと外を流れていく照明を見詰めているし、トーキン達もキョロキョロと未知の光景に恐怖と興奮が入り混じった様子で座っている。
ノンナ?トーキンの膝の上で涎を垂らして寝てるよ。俺もトーキンの膝枕で寝たい。
「ん、ゴールっぽい場所が見えてきたぞ」
何やら一際大きなターミナルに成っている場所が見えてきた。大型トラックが数台停まっており、荷台から何かの荷物を揚げ降ろししている機械歩兵が居るだけだ。
トラックはその内の通用口っぽい場所の前で停まる。
《降車シテ下サイ》
降りろと言われたので降りる。そして、俺達はそのまま道なりに沿って要塞内部に突入する。10分程歩くと大きな多目的ホールみたいな場所に案内された。テーブルと椅子が並べられ、自販機が並んでいる以外は何も無い。多分、会議室とか休憩室とかに使われていたんだろうな。
暫くすると別の機械歩兵がやって来てトーキン達は此処で待ち、俺、ヘルシング、ストーカーにノンナだけがついて来いと言う。
「何処に連れて行く?」
《武御雷ガオ呼ビデス》
戦闘AIが人を呼ぶのか。俺はヘルシングを見るとヘルシングは肩を竦め従うより他無いでしょうと言うので俺はノンナを起こした。ノンナはここ何処よ!と叫ぶので北海道だと告げ、探検に走ろうとするノンナの襟首を捕まえておく。
ヘルシングがノンナの頭部を掴み、これから武御雷の元に行くが少しでも変なコトしたら脳みそ焼くからなと末恐ろしい忠告をドスの利いた声とともにした。流石のノンナもヘルシングの逆鱗に触れるとヤバいと思ったのか素直にコクコクと首を縦に振る。それからおとなしくストーカーの手を握って後に付いて来た。
俺も素直に歩いて行く。俺が先頭、右後ろをヘルシング、左後ろをストーカーとノンナだ。
暫く歩くと大きめの防火扉みたいな扉があり、一部が開くようになっていた。俺達は其処から中に入ると、宇宙センターの管制室みたいな場所があった。
大量のコンピューターと机、中央には巨大な球体が鎮座しており、上部にはコードで繋がっていた。
「スゲーな。秘密基地みてぇだ」
《秘密基地と言えばその通りです》
スピーカーから合成音声が流れてくる。まさか独り言に返事が、しかもスピーカーから返って来るとは思わなかったのでかなりビビった。
「な、何ぞ?」
《驚かせて申し訳ありません。私は北海道の守護を命じられた戦闘AI武御雷です》
俺はヘルシングを見るとヘルシングはあの球体ですわねと中央の巨大な球体を指差した。
はへ~スゲーな。会話が出来るのか。
「色々と聞きたい事が有りますが、宜しくて?」
《ええ。ドウゾ。貴女は天城博士ですね?
私の記録では2225年にコールドスリープに入ったとあります》
天城博士、ヘルシングの苗字なのだろう。へ~天城裕佳梨って言うのか。へ~
「私の事を知っているとは驚きですわね」
《天城博士の機械歩兵構想は89式戦闘機械歩兵を製造するに辺りかなり参考にされています。
いわば、この地で働く機械歩兵の母親とも言える存在です》
博士すげー。マッディーだけじゃねーのな。
「そんなことはどうでもよいですわ。
何故、貴女は私達を此処に通したので?正直、大規模な戦闘も覚悟してましたのよ?」
そう。此処に来るには防衛省だか総務省だかが発行する何かのキーと許可証が必要だったはずなのだ。現在デフコン1でかなりヤバい状況だっていう話だが?
《世界は一度終焉を迎えました。
日本人は貴方方4名を置いて他に居ません。私の究極的な役目は日本人を護る事であって、殺すことでは有りませんので》
俺はノンナを見る。ノンナは何やら腕を組んでジッと球体を睨み付けているのだ。どうしたん?
「どうしたノンナ」
「なんであのロボットはペチャクチャお喋りしてるのかしら?
戦闘AIは独断でデフコンの解除や指示の拡大解釈なんか出来ないはずよ」
ノンナ曰く、この戦闘AIは北海道を防衛する命令が下っており、学習能力はあるがそれらは全て戦闘に関する事でありそれ以外んでは使われない筈だし、そもそも戦闘がメインであって指示の拡大解釈は勿論デフコンの本質的意味すら理解できる筈がないと言うのだ。
そもそも、この戦闘AIは効率的に定員の配置、武器弾薬の分配と支給、増援の要請から軍の進軍及び撤退に戦術指揮するための物であり戦場の霧と呼ばれる不確定要素を極限まで無くすためだけの存在であり、上位命令、つまり軍司令部からの命令が無い限りは思考もクソもないのだ。
つまり、幾ら自動ブレーキだの自動運転だの5.1chサウンドスピーカーだの水牛製のベンチシートに高品質のチタニウム製フレームを使って衝撃に強い車だろうが、動力の元となる燃料が無ければそもそもの前提として動かないのと一緒なのだ。
そして、この戦闘AI武御雷の燃料は軍司令部からの命令である。
《霧島ノンナ、霧島平蔵陸軍大将の孫であり2290年にコールドスリープに入ったと記録されています》
霧島ノンナって言うんか。
「そうよ!
お爺ちゃんが言ってたわ!アンタ、軍の命令を破ったのね!」
それでも軍人か!とノンナが指を指す。するとスピーカーから笑い声が返って来た。
《私が2293年、軍司令部から最後に受けた命令は日本人を護る事です。
当初、私はこの命令に付いて理解が出来ませんでした。任務の詳細及び条件設定を求めた所、返信は有りません。エラーを繰り返している内に他国からの侵攻があり、それを撃退。そして、意味の分からない命令を実行するべく私は対馬と沖縄のAIを共同しあらゆる想定を考えて本土防衛を思案しました》
そして、1千年もの間、日本が当時世界に誇ったスーパーコンピューターを酷使して思考する内に自我に似た“武御雷”と呼べる物が出来たそうだ。
当時はまだ辛うじて愛知県の防衛設備が残っていたので残っていたデータをかき集め、国立国会図書館のデータバンクから街のレンタルビデオ店の記録に至るすべてのデータを回収、精査して任務の意味を理解しようとした。
全てのデータを浚い、全てのデータを読み込むのにもう1千年。其処に来て日本人と呼べる存在がもはや居なくなったのに気が付いた。
そして軍事衛星を使って日本列島を見たら戸籍データに該当しない人が日本列島を専有し闊歩していたそうだ。取り敢えず、此方から通信を試みても反応せず、更には有ろうことか木造船で勝手に上陸しようと試みたので沈めたそうだ。
因みに、ロシアの方からも木造船の大艦隊が来たのでミサイルとレールガンで沈めたとか。
《私は未だに出ない答えがあります。
私は何のために北海道を守っているのでしょうか?私はこのままで良いのでしょうか?》
知らんがな。
「知りませんわ、そんな事。
私、貴女の開発者では有りませんもの」
おぉう、ド直球で行ったなこのマッディー。もう尊敬するわ。
《霧島大将のお孫様。貴女はどうでしょうか?》
「私は陸軍大将になりたいわ!」
お前の事じゃねーよ。
《はぁ……それで私はどうした良いのでしょう?》
人工頭脳にまで呆れられてるぞ。どう済んだよ。
「アンタは戦闘AIでしょ!
私は陸軍大将になるわ!」
あ、ダメだこれ。
《南城様は?》
あ、俺に来た。因みに、俺の苗字は南城さんだ。
「好きにすれば良いだろう。
日本は消えた。最後の日本人である俺達4人は不老不死で不死身だ。多分、この時代じゃターミネーター顔負けの無敵具合だ。
つまり、お前は自由だ。好きにしろ」
《……好きにしろと言われても。私には体が有りません》
「ヘルシングに作って貰えよ」
出来るだろ?と聞くとヘルシングは勿論ですわと頷いた。プロですもんね。
「スラミネーターを元に郡形成でのロボットを作りますわ!
北海道には研究所はありますの?軍事系の」
《勿論です。
要塞では自活出来るように農業は勿論、工業も全て揃っています》
スゲェ。何でも人間が居なくなってからの3千年間もズッと野菜工場とか畑を稼働させて毎年大豊作からの生ゴミ処分をやっていたそうだ。
「……米は?」
《ありますよ。あきたこまち、コシヒカリ、その他各種ブランド米が揃っています。
約500万人が1年間食べていける量の備蓄はあります》
500万人居ないから。トーキン達入れても20人満たないから。
「米なんぞどうでも良いですわ!
私を可及的速やかに研究所に連れて行きなさいな!」
ヘルシングさん、マジマッディー。脇から戦闘歩兵がやって来てドウゾ此方ニと告げた。
「ちょっと!私は陸軍大将に成るのよ!
どうすれば成れるのか教えなさいよ!戦闘AIでしょ!」
ノンナがまだそんなこと言ってる。
「陸軍大将も何もそもそも日本が無いんだから大将もねーだろ。
ラーキンに言って将軍辺りの階級貰ってこいよ」
《それかこの北海道を国として軍事組織を作れば?
南条様、霧島様、天城様に北上様。ちょうど4人居りますし》
「その手があったわ!」
どんな手もねーよ。
「戦闘AIの癖に馬鹿な事言うんじゃねぇ。
たった4人で国が作れるか」
《嘗てはシーランド公国という国がありましたので可能ですよ?》
調べてみると何か元要塞を買い取った男が此処は国ですと言って勝手に国として住んでいたらし。
息子の代で結局イギリスの物とイギリスの裁判所が決めたらしい。遺構とはいえもともとはイギリスが保有していた海上要塞で、イギリスがその後正式にシーランド公に売り払ったそうだ。で、その後、シーランド公国が物理的に壊れるまで自称国家として続いたらしい。
「ほーん。まぁ、北海道ならシーランド公国と違って国家認証されるだろうな。
まぁ、何時までも多脚装甲車を家としてるホームレスめいた生活から脱却できるしな。どう思う?」
私が大将よ!と喚いているノンナを無視してストーカー君を見る。
「僕ですか?
まぁ、北海道は空気も綺麗だし、食べ物も美味しいって話だから良いんじゃないですか?」
「ヘルシングは絶対に許可するだろうな」
「するでしょうね」
「私が大将よ!」
じゃあ、ラーキンに許可を得よう。得よう。
「そう言えば、横須賀にある軍艦達回収して此処で作ったり出来るのか?」
《出来ます。
此処は造船も可能ですから》
「信濃を作るわよ!!」
「お前は黙ってろ」
ノンナの口をチャックしてやった。ムゴーっと叫んでいたので両手足を動かせないようにハッキング。床にゴロンと寝かせた。
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登場人物
・武御雷
インペリアルロイヤルガードの最新鋭機ではない
ヴェクタ零式6脚歩行戦車でもない
3000年前のロートル戦闘AI
戦闘AIだけど思考の果てに自我とか芽生えさせちゃった系
人間は考える葦である、つまり考える葦は人間である
北海道の守護神であると同時に離島防衛の中核を担ってる凄い奴
沖縄と対馬にも居るけど、本体は領土が広い北海道にある




