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エピローグ

「──で、依頼は失敗、というわけか」


 公共通信機の向こうで、無機質な男の声が聞こえる。

 あれから三週間。

 ニアとアストラルは都市型シェルターへと帰還を果たした。

 依頼の最終報告のために公衆端末の前に座っている。


「感染者との戦闘中に護送用の機材ごと中身を破損してしまいまして」


 申し訳なさそうに頭を掻く。

 シェルターに向かったが付近に大型の感染者がいて、討伐できないまでも追い払った。

 しかしその代償に輸送品だったカメラの機材は全損、という筋書きだ。

 依頼主に対して嘘をつくこと自体、色々問題はある。

 しかしニアとアストラルが黙っていれば、誰にも知られることはない。


「ッたく、これだからバイオロイドは信用ならん」

「んだと、テメッ!もう一回言って──もがッ」


 容赦(ようしゃ)なく吐き捨てる男に、相変わらず低い沸点をあっさりと超えて食ってかかるアストラル。

 ニアは肩の上で暴れる短気鳥のくちばしを押さえて、愛想笑いを浮かべるしかない。


「はははは。力になれずに申し訳ありません。娘さんにも深く謝罪をしておいてください」


 ニアの言葉に男の眉がぴくりと動く。

 無機質な瞳がわずかに揺らめいた。


「ああ、娘は今、泣きはらしていてな。ちょうどお前達が感染者と遭遇したと報告をよこした翌日に母から連絡があった。そろそろ寿命が尽きるらしい」

「………………そうですか」

「ああ。心肺系が限界なんだそうだ。まあ都市から出た人間の末路だな。最後は一人で誰にも弔(とむら)われない。娘は学校も休んで母と通信を繋ぎっぱなしにして話をしている」


 息子の声は淡々としていた。

 自身の娘のことは心配なのだろうが、母に対する反応はむしろ冷たい。


「まあ母は後腐れなどなかっただろう。あのひとはそういう人間だった。──それに今回は娘も最後に別れを言う機会を作ることができた。今から俺も挨拶をしにいく。……感謝をしなければ、いけないのだろうな」


 男はわずかに遠くを見るように、目を細める。

 わずかな間があった後で、男は静かにニアの方に視線を向ける。


「──おまえらにも手間賃程度はくれてやる。後で確認しろ」

「……え? だって依頼は失敗──」

「ふん、もう会うこともないだろう。ではな」


 ニアが驚いて反論しようとしたときには、既にモニターはブラックアウトしていた。

 息子が一方的に通信を切ったのだ。


「ちょっ……! 切れちゃった」


 真っ黒になった画面の前で、しばらく呆然とする。


「ったく! なんて奴だよ!」


 ぼそりと、肩にのったキセキレイが息巻いた。

 その頭をニアはそっと撫でる。


「多分だけど息子さん、娘さんの話し相手が自分のお母さんでないことに、気づいていたのかもね」


 確証があるわけではない。

 でもニアは半ば確信していた。

 決定打は最後の会話。

 ──後腐れなどなかった「だろう」。

 過去形で語ったということは、きっと既に死んでいることを知っていたのだ。

 そして今、娘が話している存在が、母とは別人であることも。


「今考えれば結構怪しいよね。まるで依頼の達成をさせたくないかのような物言いとかさ。少しでも困難に直面したら、依頼など捨てて逃げろって言っているみたいだった」


 役立たず、信用しないと言われて反感を持たない者はいない。

 それがシェルター周辺にあんな化け物みたいな感染者がいたら当然、依頼など放棄してしまう。

 息子はそれを期待していたのかもしれない。

 そして、そのもくろみは概(おおむ)ね成功していたように思う。

 シェルターの周りに、他のバイオロイドの残骸は残っていなかったから。


「恐らく数回の依頼失敗で、相手が強い感染者だと気がついたんじゃないかな。他のバイオロイドも感染者が弱ければ討伐義務があるから積極的に狩るだろうしね」

「目的は状況確認ってとこか」

「連絡が途切れればまだ感染者がいるってことになる。それからどうしたいと思っていたかは、分からないけど」


 娘である少女は父のことを優しい人だと言っていた。

 きっと、娘に祖母のことを打ち明けるかどうかで悩んだだろう。

 ずっと感染者と会話を続けることが、正しいとは思わなかったはずだ。

 だが娘を傷つけずに状況を改善する方法も見つからなかった。


「まあわたしたちが、その流れを断ち切ってしまったんだけどね」


 わずかな罪悪感がちくりと胸を刺して、自嘲の笑みが漏れる。

 ニアが現れなければ、もしかしたら娘と感染者との関係はこれからも長く続いたのかもしれない。


「でも一つだけ言えることがある」


 アストラルが静かに呟いて画面を展開する。


「え?」


 口座の残高が表示されている画面。

 そこに表示されている金額は、ニアの知っている額より一桁大きくなっていた。

 たった今大きい入金があったことが表示されている。


「これは……」

「どうやらあの性悪の父親は迷惑には思ってなかったみたいだな。ったく素直じゃねーぜ」


 アストラルが器用に肩を竦(すく)める。

 そしてにやりと笑った。


「今日はパーティだな。好きなものを、好きなだけ、だ!」

「アス〜!! 大好きだよ〜!! 最高の相棒〜!!」

「うわっこら鼻水つけんな。羽が湿るだろーが!」


 おしまい


『ポーターガール!!!』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

雨屋悟郎です。


ニアとアストラルの配達、いかがでしたでしょうか。

二人の物語を楽しんでいただけたならうれしいです。


好きな場面や印象に残った言葉など、ひと言でも感想をいただけると励みになります。


この物語は、ここで完結です。

これからも別の物語をお届けしていきますので、次の作品も読んでみたいと思っていただけましたら、ぜひ「お気に入りユーザ」への登録をお願いします。


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また次の物語でお会いできれば幸いです。

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