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第三話 漂う緑の丘

 その晩、森を焼いた国の人間たちは、ひとり残らず夢を見た。炎に巻かれ、逃げ惑う動物になった夢を。枝の先から火がつき、全身を焼かれ燃え尽きてゆく木になった夢を。


 うなされ、叫び声を上げて飛び起き、背中を伝う冷たい汗に震えながら知ることになる。


 自分たちが何をしたのか。


 自分たちが、今まで何をしてきたのか。


 自分たちが、何に、なぜ呪われたのかを……。


 森を焼いた愚かな王は、夢の中だけでなく炎に包まれて、(みずか)らの罪を悔いながら果てた。


 自らの利益しか見えなかった商人たちは、悪夢から抜け出せずに、三日三晩うなされ続けた。


 人々は、自分たちが醜いと蔑んだ森小鬼の心根を知り、自分たちの醜さを恥じた。


 だが、全ては遅すぎた。


 その国は緩やかに乾き、ひび割れ、百年の呪いに沈んでゆく。



 ▽△▽


「ねぇ長老さま、百年は長過ぎるんじゃない?」


『そんなことはないわい。短すぎるくらいじゃ』


「でも、夢を覚えているニンゲンが、みんな死んでしまったら、また同じことが起きるかも知れない」


『うむ。それは一理あるのう。ではお主たちが決めるが良い。()()からニンゲンを見定めるのじゃ』


「それは大役だなぁ」



 木の長老さまは、その巨木の根が抱く丘を、丸ごと空に浮かばせてくれた。焼け残った森の動物や昆虫、植物たちも一緒だ。


 長老さまは力を使い果して、もうすぐ枯れてしまうけれど『植物の意識は明確には別れておらん』って言っていた。ぼくにはちょっと難しい話だけれど、いつかまた長老さまに会えるのかなって思っている。


 ぼくと兄ちゃんは割と忙しい。森の住人たちはみんな傷ついて、疲れているから。毎日走り回って世話をしている。でも毒を撒き散らしたり、森の色々なものを根こそぎ持って行ってしまうニンゲンがいないから、心が押し潰されそうになることはなくなった。


 力を使い過ぎると、ぼくらは森小鬼の姿に戻ってしまう。夜、月の光を浴びてのんびりすると『シリーリア』の姿になる。ぼくはどちらの姿も好きだから、特に気にならないんだけどね。


 百年が過ぎて呪いが解けたら、ニンゲンはどうするんだろう。ぼくにはニンゲンが優しい生き物になるなんて、とても思えない。


 ニンゲンがひとりもいなくなってから、ぼくと兄ちゃんで少しずつ森を育てて行く方が、きっと上手く行くと思うんだけどなぁ。





 ▽△▽


 呪いの及ばぬ空に浮かぶその丘は、閉ざされた美しい緑の楽園です。不思議な光に包まれ、漂うように移動します。


 この楽園に足を踏み入れる人間がひとり、やがて現れることになる。それは心も身体も強く、健やかに優しいひとりの可憐な少女です。人間嫌いのシリーリアの少年は恋に落ち、共に乾いた世界に緑をもたらす旅に出ることになるでしょう。


 でもそれは、まだまだ先のお話。少女が産声をあげるまで、まだあと八十余年。



 今はまだ――大地には乾いた風が吹き、緑の丘はただ空に漂うばかり。



創作において、苦手とするものが沢山あります。アホなプライドだったり、食わず嫌いだったり、向き合う苦しさから逃げていたり、譲れないものだっり、更々興味が湧かなかったり……。


『理不尽な悲劇』と『ざまぁ』『悪者が出てくる』『テンプレモンスター』。今回は割と自分では選ばない題材を描いた、作者にしては挑戦に満ちた作品になりました。


そして書いてみたら、結局はいつもの通りだなとwww自分の中に一欠片もないものは、描けないものですね。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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