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007‐3

「……ぶらぼー。教科書に載せたいくらい完璧な守護者(ガーディアン)。デザインも雰囲気出てる」


「そうだな。動く西洋鎧の守護者って、挿絵とかでよく見かける割りには実物を見ることないよな。日本だからか?」


「違う。製造コストが関係してる。一般流通している鎧を使えば、くまなく術式加工必要。守護者造る前提で、特殊な精錬した金属で造れば、それだけで高い。それを考えると、材料費が高いし、術式加工も難易度の高い技術だから、簡単に造るものでもない」


「なるほどな。まあ、土から造るゴーレムに比べれば、コスト高いよな」


 梓の説明に頷きながら、俺は目の前の守護者――約三メートルほどのプレートアーマー――を見据える。


 フルフェイスなので鎧の中に何が入っているのかわからない。


 右手に西洋剣、左手にラウンドシールドを装備した姿は博物館に飾っても違和感がなさそうだった。


 鈍色に輝く鎧のズッシリとした重厚な雰囲気が肌越しにビリビリとした威圧感を与えてくる。


 目を凝らして鎧を見ると血管のような淡い無数の線が確認できる。


 あれが術式加工の痕だろうな。


「って、なんで鬼灯と神代は冷静でいられるのよ! ちょっとは慌てなさいよ!」


「藤代さんの言う通りですわ。二人とも落ち着きすぎですわよ」


「慌ててる、めっちゃ慌ててる。ね、翔太」


「ああ、十分慌ててる。なんせなんの準備もしてないからな」


「嘘よ! 絶対嘘よ! 余裕しゃくしゃくじゃないのよ!」


 藤代の抗議の声に彩音は「うんうん」と力強く頷いて同意する。


 若干、二人とも涙目になっている。


――■■■■!


 守護者が人の可聴領域を超えた咆哮をあげる。


 ガチャガチャと金属音を響かせながら、守護者が西洋剣を水平に払う。


「跳んで!」


 梓の鋭い声。


 反射的に藤代と彩音はバックステップで一撃をかわす。


 俺は軽く跳び上がり、西洋剣の軌道をかわす。


 横目で確認すると梓も同じように跳んでかわしていた。


「翔太」


「おうよ!」


 地面を足で蹴る。


 意識を置き去りにするような横Gが体を襲う。


 刹那の時間で守護者との距離をゼロにする。


 俺と守護者の重量差は歴然。


 だけど西洋剣を振るった勢いが残ってる今なら守護者のバランスを崩せるはず。


鉄山靠(てつざんこう)ッ!」


 右足を踏み込み、重心を落としながら体を回転させ、守護者の脇腹へ突き上げるようにタックルをかます。


 ちなみに八極拳の技らしいが、俺は八極拳の修行をしたことはない。


 格闘ゲームで覚えたモーションを元にした真似たエセ鉄山靠なので、対人や素早い化け物に使えるような練度はない。


 それでも守護者のようなバカデカくて動きが遅いやつになら十分通用するはず。


 肩から伝わる鈍い衝撃と金属音。


 守護者の重心がズレた気配。


 俺は間髪入れずに守護者から距離を取る。


 守護者の反撃を警戒してではない。


「ないす、翔太。流石だね」


 梓の澄んだ声。


 同時に疾風になった梓が俺の脇を駆け抜ける。


「――()ッ!」


 梓の鋭い踏み込みから繰り出される掌底(しょうてい)


 人と鎧がぶつかって発生したとは考えられない大気をこすり合わせるような甲高い音が響く。


 守護者が大きくバランスを崩し、足を踏み出して体勢を保つ。


 梓は「チッ」と舌打ちしながら守護者と距離を取る。


 守護者の脇腹あたりを確認すると大きく陥没したところがあった。


 梓の一撃でヘコんだのだろう。


「翔太、予想外。思った以上に硬い」


「だろうな。梓の掌底で終わりだと俺は思ったんだけどな。梓の掌底に耐えれるヤツってなかなかいないよな? 御館さんくらいじゃないか?」


「あのくそジジなら人差し指でいなしてる。さっきのは三割から五割くらいの出力しかなかった」


「三割から五割くらいって、だいぶ手を抜いたんだな」


「違う。ここの結界、チカラを分散させる。意図的に分散させると言うにはひどく乱雑」


 表情に大きな変化はないが、梓が軽く混乱しているのが俺にはわかった。


 はじめからチカラを分散させると結界とわかっていれば心構えもできる。


 しかし、全くそんな気配を感じさせていなかったことを踏まえると、チカラを分散させるのは副次的な機能なのだろう。


 結界に包まれた内側に静謐な空間を構築しつつ、すぐ外側の負の気配は感じさせない。


 十分な準備をしていない今の状況では厄介極まる結界だ。


「鬼灯! 神代! 離れて!」


 鋭い声。


 反射的に俺は地を蹴り、横に跳ぶ。


「自動人形ごときに遅れはとりませんわよっ!」


 間髪入れずに風切り裂きながら無数の飛礫が守護者に襲いかかる。


 燐光の軌跡を描く飛礫。


 甲高い金属音を響かせながら飛礫が次々と爆散していく。


 守護者の姿が爆煙で覆われていく。


「おぉ、藤代と白木の合体技。即席の割にはいい感じ」


「藤代が石ころにチカラをこめて、白木が撃ちこんでいるのか。随分と派手だな」


「鬼灯、いうことはそれだけ? あの数にチカラを込めるの大変なのよ。ダイヤモンドには劣るけど、並大抵の金属より硬いわよ」


「さらに音速に近い速度でジャイロ回転を加えて差し上げましたわ。簡単に防げるような代物ではありませんわよ」


 自信満々の藤代と彩音。


 まあ、ドヤ顔になる気持ちはわからなくはない。


 普通は銃身や砲身から射出された弾は減速する。


 しかし、先ほどの飛礫は彩音のチカラで目標に衝突する直前まで加速するため、威力が増している。


 並の防弾設備なら蹴散らすくらいの威力はあると思う。


 あくまでも普通の条件だったら、だけどな。


「……焼け石に水、くらいかな」


「もう少しダメージあると思うぞ」


「ちょ! なに失礼なこといってんのよ!」


「そうですわよ。今ので自動人形は行動不能ですわ」


――■■■■!


 響き渡る咆哮。


 同時に藤代と彩音の表情が一転する。


 さっきまでの強気は影を潜め、涙目になりながら俺を見る。


「さっき梓がチカラを分散するって言っただろ。たぶん直撃するあたりで飛礫の硬度も速度も落ちまくってるぞ」


「だね。でも傷はついてるよ」


 煙から姿を現した守護者。


 鏡面のようだった鎧は無数の傷が入り、輝きを失っていた。


 だが、行動不能という予想した結果には程遠い。


 守護者の動き自体にはストレスが感じられない。


「嘘でしょ……」

「嘘ですわ……」


 藤代と彩音が泣き出しそうな声で呟く。


 守護者は向きを変えながら、盾を構える。


 ダメージのチェックを行っているのか、すぐに襲ってくるような気配はない。


「ちょっと分が悪いな。チカラを分散させる――あ、そうか」


 俺は思わずポン、と柏手を打つ。


「翔太、妙案浮かんだ?」


「いや、結界のカラクリが見えた気がした。この結界は、単純に外側に押し出してるだけなんだよ。内側は清められているんじゃなくて、属性としては無に近いんだよ」


「どいうこと?」


「そのままだよ。チカラが分散してるんじゃなくて、内側にあるから外側に押し出されているだけなんだよ。その結果、外側が混沌とした『負』の状態だから、内側が『聖』に感じただけなんだよ」


「……体感的に内側が清められているように感じることは理解した。でも、それなら守護者が動ける理由がわからない」


「簡単な理由だ。守護者には鎧を結界にしてチカラが分散しないように細工しているんだよ」


 なるほど、という様子の梓。


 しかし、カラクリがわかったところで、状況が好転しているわけじゃないんだよな。


 梓には悪いが、俺が守護者を仕留めるしかないな。


 俺が本気を出すと梓は泣くかな。


 嫌だな、と思いながら、俺は守護者に向かって足を踏み出した。

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