勇者と黒騎士
ジェイドの精神迷宮から脱出し、ジェイド本体と対決します。
元の白亜の魔王城に戻った私達。
その前に立ちはだかったのは、黒き鎧を纏い、禍々しい魔力を放ちながら聖剣を守る黒騎士ジェイド……。
そして、その影から長い黒髪を揺らす妖艶な美女—魔王補佐官アージェントが、愉悦の笑みを浮かべて姿を現した。
「お見事です、ユリウス皇子。
まさかジェイドの『精神迷宮』を、貴方の『言葉』だけで突破してしまうとは。
ですが、前もお話しした通り、彼は貴方の兄ガイウス、そして我が魔王軍と通じていた裏切り者……。
ジェイドはあなたの元に戻るつもりはないそうですよ?
さあ、黒騎士。
我が主(タクト様)の命に従い、その聖剣を守り、ユリウス皇子を倒しなさい。」
アージェントの冷酷な声が響く。
ジェイドは無言のまま、漆黒の魔力を纏わせた大剣を構え、ゆっくりとユリウスへ歩を進める。
その瞳には、一切の生気がない。
「ジェイド……!」
ユリウスもまた、覚悟を決めたように光の魔法剣を構え、呪文を詠唱する。
「光よ、我が剣に集え!」
「はああああっ!」
ジェイドが地を蹴り、凄まじい一撃を振り下ろす。
ユリウスはそれを魔法剣で受け止めるが、あまりの重さに足元の床がひび割れる。
「ジェイド!俺達が戦う理由などない!!
さっき、『精神迷宮』でお前に伝えたのが俺の本心だ!!」
「……俺は、あなたを騙していた…。
復讐のために近づき、皇帝ガイウスに情報を流していた。それは事実だ。
……今更、あなたの元へと戻れるわけがない!!」
激しく交錯する光と闇の剣撃。
「ユリウス様、ジェイド!」
私はユリウスに加勢すべく二人に近づこうとするが、それを遮るように銀色の軌跡を描いてアージェントが私の前に立ちはだかる。
「行かせませんよ、モエ様。
あなたはあくまで二人の間の『空気』なのでしょう?……。」
「くっ、あんた、ほんっとに性格悪いわね!!」
私は二人の戦いを見守ることしかできなかったが、何度目かの打ち合いの瞬間、ジェイドに「違和感」を感じた。
激しく踏み込んできたジェイドの斬撃。
それは鋭いように見えて、ユリウスの急所を外している。
それどころか、ジェイドはわざと大振りし、隙を作っているように見えた。
(――ジェイド、わざと皇子に斬られようとしている……!?)
己の罪を、裏切りを、ユリウスの手によって処刑されることで贖おうとしている。
ジェイドの絶望の目を見た瞬間、ユリウスの胸に激しい怒りが込み上げた。
「ふざけるな、ジェイド――ッ!!」
鋭く踏み込んだユリウスの光の刃が、ジェイドの胸元へ肉薄する。
私が絶望し、目を細めたその刹那。
ガキン!!
剣のぶつかる激しい音が城内にこだまする。
ユリウスは、ジェイドの胸を貫く寸前で刃を真横へと滑らせ、彼の黒い鎧の肩当てだけを叩き割って、剣を止めていた。
「な……!? なぜ斬らない!!ユリウス様!!」
驚愕に目を見開くジェイドの胸ぐらを、ユリウスは空いた左手で力任せに掴み、引き寄せた。
「ジェイド!勝手に死んで、一人で悲劇の騎士を気取るな!!
お前は俺のことを愛しているんだろ?!
兄上への内通も、復讐の野心も、おまえの全てを俺は許す。
俺に悪いと思うなら……二度と俺の前で、死のうなんて思うな。
生きて俺に仕えろ!!」
「ユリウス様……あなたは、どこまでも甘い人ですね……。」
ジェイドの目から、張り詰めていた緊張が解け、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
ユリウスはふいっと顔をそらし、少し耳を赤くしながら、掴んでいた胸ぐらを引き寄せ、ボソリと呟いた。
「……これからも俺のためにその剣を振るえ。その命が尽きるまで……。」
「……ああ。この命、今度こそ貴方だけのものです。
愛しています、ユリウス様。」
ジェイドがユリウスの腰を抱き寄せ、その額にそっと誓いのキスを落とす。
ユリウスは少し頬を赤らめ、そのキスを受け止めた。
「やれやれ、お熱いことで。
『裏切りと絶望の心中BL』に仕立て上げようと思ったのですが……。
皇子の光が強すぎて、鏡が割れてしまいましたね。」
アージェントが退屈そうに髪を弄った。
その時、背後の扉が派手に吹き飛び、息を切らしてリウとケインが突入してきた。
「ユリウス皇子、モエ、無事かっ!?」
「先生、あそこにいるのがクソ眼鏡です!」
「おや、番犬たちも来てしまいましたか。
……これは、少々分が悪いですね。」
ジェイド、ユリウス、リウ、ケイン、そして鼻血を流しながらスタンバイしている私。
5人に囲まれたアージェントは、フッと微笑むと、その姿を銀色に変えた。
「では私は最上階で、主(タクト様)とお待ちしておりますね。
嘘偽りのない、本当の『聖域』で会いましょう——」
一陣の風を残し、アージェントの気配は完全に消え去った。
あとに残されたのは、絆を取り戻し、最強の陣形となった5人の勇者パーティ。
ユリウスはジェイドと共に聖剣の元まで行き、聖剣に手をかざした。
すると聖剣の封印の鎖はするすると解け、音もなく消え去った。
ユリウスが聖剣を手に取り、高々と掲げると、窓から入った光を反射し、聖剣は厳かに輝いた。
「行こう。次ですべての決着をつける。」
7月、子供の夏休みが始まり、多忙と暑さで少しバテておりました泣。
時間を見つけて執筆し、更新したいと思います!!




