密会:鏡と影の取引
城塞都市ヴィントブルグの魔王軍襲撃の後のお話です。
ヴィントブルクの騒乱が一時的に収まった夜。
魔王軍が撤退した後の静まり返った森の奥で、魔王軍補佐官アージェントは一人、宙に浮く巨大な鏡を覗き込んでいた。
鏡の向こう側に映っているのは、アドニス帝国の若き皇帝にしてユリウスの兄——ガイウス。
「……ユリウスの首はまだか、アージェント。
魔王軍を動かしてやると豪語したわりには、随分と手ぬるいではないか。」
冷酷な皇帝の問いに、アージェントは優雅に一礼する。
「陛下。峠のゴブリン襲撃、そして緑嶺の地下墓所で暗殺を試みたのですが、勇者ユリウスはなかなか強く隙がありません。
それに、我が主(拓人)の興味は現在、『美少女魔王軍団』の人間界デビューに注がれておりまして……。
王子の暗殺などという無粋な仕事は、少々『解釈違い』なのだそうです。」
「ふん、あの変人魔王め……。」
皇帝は神経質そうに顎鬚を撫でる。
「……さて、そこに隠れている『影』。出てきたらどうです?」
アージェントが視線を背後の闇に向けると、音もなくジェイドが姿を現した。
その瞳には、主君ユリウスの前で見せる献身的な光はなく、ただ凍てつくような冷徹さが宿っている。
「ジェイドよ。何をしている……。
ユリウスを殺せばお前の故郷を再建してやるという約束を忘れたわけではあるまい?」
「陛下、申し訳ございません……。
もう少しお待ちください……。」
「お前以外にもスパイは放ってある。くれぐれも変な気を起こすな。
良い報告を待っている……。」
皇帝との通信が終わり、また辺りが静寂に包まれる。
アージェントは愉悦に満ちた表情でジェイドに話しかける。
「『皇帝直属のスパイ殿』。……いや、『王子の忠実な騎士』だったかな?
貴方がこちら側についている理由は何ですか?
皇帝、そして魔王軍からユリウス王子の命を守るため?
それとも失った故郷を再建するためですか?
ふふっ、貴方の揺れ動くその心、大変に興味があります。」
ジェイドは無言で剣の柄に手をかけた。
「黙れ……。魔物ごときにこの心が理解できるはずがない。
取引だ、アージェント。魔王軍の次の襲撃ポイントを教えろ。
そこでユリウスを抹殺する……。」
「くくっ……。皇帝を欺き、主君にすら嘘を吐き、独りで泥を啜るか。
ジェイド、貴方のその『相反する心』は、我が主が好む百合の花よりも、ずっと美しく私の鏡に映りますよ。」
アージェントは指を鳴らし、一枚の羊皮紙をジェイドに投げた。
「いいでしょう。その飢えに免じて、協力して差し上げます。
……あなたはどちらの選択をするのでしょうね?」
モエは隠密で姿を隠し、森の入り口で二人のやり取りを聞いていた。
(……嘘でしょ。ちょっと待って……。
魔王軍と皇帝が繋がってるのはなんとなく察してたけど、まさかジェイドが『皇帝のスパイ(二重スパイ)』だったなんて……!!
私の最推し『主従カップル』はどうなってしまうの??
アージェントは変幻自在で、今は魔王の意向でこの物語には珍しい地味なモブ顔です。
魔王拓人の高校時代唯一の友人の姿に似せています。
物語もそろそろ佳境に差し掛かってきたかな??




