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第百五十二話 兄ィズ、学園整備班に配属!? 静寂は訪れない

アルヴェリア王立士官学園――その広大な敷地は、朝日を受けて金色に輝き、今日も穏やかな空気が漂っている……はずだった。しかし、学園の片隅にある整備棟の前では、すでに異様な熱気が立ち込めていた。


「ふむ、この整備班なる場所も、我らの手にかかればあっという間に完璧になるであろう」

ノアは軽く鼻を鳴らし、腕を組んで整備棟の屋根を見上げる。背筋を伸ばし、全てを見下ろすようなその姿には、学園の規律も、目の前の作業も、まるで自分の遊び道具のように映っている。


「ほう、レオンよ。この整備班の任務、我々の才覚を示すには格好の舞台ではないか」

レオンも片手を腰に当て、鼻歌混じりに笑う。彼の瞳には、退屈など微塵も存在しない。単調な掃除や道具の整理など、彼ら兄弟にかかれば、むしろ「知略を試す実験」となるのだ。


整備班として配属されたとはいえ、実際の業務は床掃除、備品整理、機材点検――言わば雑用の極みである。しかしノアとレオンにとっては、それもまた「力を誇示する舞台」であり、目の前の道具や机一つも、彼らの尊大な手腕の証明に変わる。


「まずはこの箒から始めるか」

ノアが箒を手に取り、少し鼻を鳴らす。「この単純作業、我らの指導の下でなければ、いつまでたっても完璧にはならぬであろうな」


レオンも同じく道具を手に取り、軽く肩を揺らす。「ふむ。いやはや、整備班という場所も、我々の存在で輝きを増すとは、学園もなかなか侮れぬ」


――その言葉に、周囲で見守るメイド隊の五名は、すでに覚悟を決めていた。



五名はそれぞれ緊張と警戒を胸に、兄ィズの暴走を事前に抑制すべく、今日も任務につく。表情は冷静だが、心中では常に最悪のシナリオを想定していた。


「お二人とも……今日もきっと、何か余計なことをなさるのでしょうね」

リリアが小さな声でつぶやく。手にしたモップは、まだ触れていない床をなぞるだけで、警戒の象徴に変わる。


「甘い、甘いわね」

アネットは書類を閉じる。手元の筆跡は正確無比で、兄ィズの行動を逐一記録するプロフェッショナル。その目は、兄弟の小さな動き一つも逃さない。

「我らが記録した限り、この整備班で何かしらの“変化”を起こす可能性は百パーセントに近い」


「……やっぱり来るのね」

カティアは整然と髪をまとめながら、兄ィズの動向を監視する。まるで指揮官の如く、場を支配する冷徹さがその瞳に宿る。


――その時、ノアが豪快に箒を振る。床に散らばった埃や落ち葉を一気に集め、積み上げた。


「ふむ、これぞ我が手による整備の妙技。お前たち、目に焼き付けよ」

その言葉に、レオンも負けじと机の配置をわずかに変えてみせる。「ほう、雑然としたこの空間も、我々の才覚で美しく整理される――これぞ秩序の証だ」


周囲の生徒たちは、二人の高慢で誇らしげな姿にただ唖然とするばかり。声を上げて笑う者もいれば、背後でそっと距離を取る者もいる。兄ィズは、学園の秩序よりも、まず自らの存在感を全力で誇示することに喜びを見出していた。


「レオン、この配置もさらに改善できるな」

ノアは机の角度や棚の位置を手早く調整し、わずかなズレすら容赦なく訂正する。


「当然だ。全ては完璧に仕上げるためにある」

レオンも腕を組み、胸を張る。まるで世界のすべてが彼らの指先の下にあるかのような尊大さだ。


――そんな兄ィズの動きに、メイド隊も緊張の糸を解く暇はない。


アシュリーが素早く袖口から暗器を取り出す仕草を見せ、必要なら即座に制御する構え。

カティアは冷静に指示を出し、アネットはその場の情報を瞬時に整理。

リリアは視線で兄ィズを追い、事態が予想外に転んだ際のカバーを準備する。

そしてミーナは、筆と帳簿を手に、兄ィズの一挙手一投足を詳細に記録していた。


「我らの監視下においても、この騒ぎは避けられぬか……」

リリアが息を吐く。その声は微かだが、兄ィズの尊大な振る舞いに心底から戦慄していることを表していた。


ノアは再び、尊大な口調で宣言する。


「ふむ、この整備班での作業も、我らの能力を示すに不足なし。学園の秩序など、この手の内にあるも同然である」


レオンも微笑みを浮かべ、軽く片手を挙げる。


「学園生よ、見よ。これが真の秩序というものだ。凡人が手を出す必要など微塵もない」


周囲の生徒は呆れ、同時に目を見張る。尊大さの中に漂う自信は、時に恐怖に近い。だが、学園の日常は、こうした兄ィズの暴走に耐えうる柔軟さも持っていた。


作業は進む。床は磨かれ、机は整えられ、備品は整理される――しかし、すべてが兄ィズの「遊戯」としての演出である。箒の動き一つにも誇示があり、棚を並べる動作一つにも自己顕示が絡む。


「さて、次は倉庫だな」

ノアが堂々と歩を進める。


「我々が手を加えれば、この倉庫も瞬く間に完全な秩序を手に入れるであろう」

レオンも続く。その後ろ姿は、まるで学園の運命を背負って歩むかのようだ。


しかしメイド隊は、それを「尊大な演劇」と冷静に見守る。必要なら即座に制御できる準備は万端である。


――こうして、兄ィズによる整備班での“尊大な作業”は、学園に新たな混乱の種を静かにまくのだった。


整然と整えられた環境の陰で、メイド隊の五名は今日も警戒を解かず、兄ィズの「秩序の遊戯」を逐一観察している。誰も怪我はしていないが、学園の平穏はまだまだ訪れそうにない。


ノアとレオン――尊大なる兄ィ

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