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第百十八話 砦での異変

 石造りの砦が、荒野の中に白くそびえ立っていた。

 城壁は高く、門には魔法陣が刻まれており、魔獣の侵入を防ぐ結界が張られている。


 その上から、見張りの兵士たちが慌ただしく叫んだ。

「な、なんだあの巨体は!?」

「鳥……? いや、あんな怪物は見たことがないぞ!」

「警戒せよ! 攻撃準備――」


 ――ドスンッ!

 巨大なロック鳥が砦の前に着地すると、門兵たちは腰を抜かさんばかりに槍を構えた。


「ま、待て! 名を名乗れ! 何者だ!」

 隊長らしき男が声を張る。


 すかさずノアが胸を張り――。

「聞いて驚け! 我ら、誇り高きレイフォード家の長男!」

「そして次男だ!」レオンも負けじと声を張り上げる。


「「兄ィズである!!」」


 砦の兵士たちはぽかんと口を開けた。

「……兄ィズ?」

「……家名を名乗ってるのか……? 何の合言葉だ?」

「怪しい……」


「怪しくない! 立派な名乗りだ!」ノア。

「そうだ! 妹を護る兄ィズだ!」レオン。


 あまりに勢いがあるので、兵士たちは逆に気圧されてしまう。

「え、ええと……では、その“妹君”というのは?」


 そこでようやく、セリーヌが深いため息をついた。

「はいはい、この子よ。この子こそ、アリア・レイフォード。王都へ急ぎ帰還させねばならないの」


 ぐったりしたアリアを兄たちが大事そうに抱えているのを見て、兵士たちの顔色が変わった。

「……確かにお顔立ちはレイフォード家の御令嬢に……!」

「ならば一刻も早く中へ!」


 慌てて門が開かれ、ロック鳥が広場へと導かれた。



 だが着地の衝撃に、ノアとレオンが同時に叫ぶ。

「うおおっ!? 胃が逆流するぅ!」

「おいノア! アリアの頭が俺の膝に! 重い! いや、これはご褒美だ!」

「何を自慢してる! 俺だって肩を貸してる!」

「なら俺のほうが役立ってる!」

「いやいやいや、俺の膝枕のほうが――」


「うるさぁい!」

 セリーヌが一喝すると、兄ィズは同時に正座した。

「す、すみません師匠!」

「もう二度と口を開きません!」


 アリアはそんな騒ぎの横で、目を細めて小さく笑っていた。

(……本当に、変わらないなぁ……)



 砦の兵士たちが迎え入れ、アリアは客室へ運ばれることになった。

 ノアとレオンは当然のように護衛役を申し出る。


「妹を一人で休ませるなんて無理だ!」

「当然だ! 我々兄ィズが交代で見張る!」


「……お前らが見張ったら余計に疲れるでしょ」

 セリーヌの冷たい視線に、兄ィズは肩をすくめる。

「だ、だって心配で……」

「アリアの寝顔を見ないと眠れないんだ……」


「……いやそれ、もう病気よね」


 セリーヌが呆れていると――。


 ――ゴゴゴゴゴ……。

 砦全体が低く唸るように揺れ始めた。


「な、なんだ!?」ノアが飛び上がる。

「地震か!? いや、砦の石がきしんでるぞ!」レオンが壁を叩く。


 兵士たちが慌てて駆け込んでくる。

「報告! 結界に異常発生! 外壁の魔法陣が勝手に暴走しています!」


「魔法陣が暴走……?」セリーヌの表情が険しくなる。

(やっぱり……ただの魔獣の襲撃じゃない。誰かが仕組んでる!)


 その時――。

 客室で休んでいたはずのアリアが、苦しそうに胸を押さえながら出てきた。

「……ぁ……ごめんなさい……わたし……なんだか、呼ばれて……」


「アリア! 無理するな!」ノアが駆け寄る。

「ここは俺たちがどうにかする!」レオンも胸を張る。


 だが次の瞬間、砦の外壁に刻まれた魔法陣がまばゆく光り――、

 黒い瘴気が結界の内側に逆流してきた。


「なっ!? 結界が逆に中へ……!?」

「なんでそんなことに!?」


 兵士たちが混乱する中、黒い瘴気は渦を巻き、砦の中央に魔獣の影を形作り始める。


「出たな……!」セリーヌが杖を構える。

「よし! 俺たちの出番だ!」ノアが叫ぶ。

「アリアのために!」レオンも吠える。


「いやちょっと待って! あんたたち、さっき空で火球をぶっぱなしたでしょ! ここ砦の中だから! 吹き飛ぶわよ!」

「「……!!」」

 兄ィズは同時に固まった。


「じゃ、じゃあどうすれば……」

「俺たちの魔法は派手なやつしか……」


「バカ! 少しは制御を覚えなさいよ!」セリーヌが怒鳴る。


 だが兄ィズはうろたえながらも拳を握りしめた。

「アリアのためなら……多少砦が崩れても仕方ない!」

「そうだ! 俺たちが妹を守るためなら、建物なんて犠牲にしてやる!」


「やめろォォォ!!」兵士たちが一斉に悲鳴を上げる。


 アリアはそんな兄たちを見て、必死に笑おうとした。

「……兄さまたち、本当に……めちゃくちゃです……」


 その瞬間――。

 黒い瘴気の中から現れた魔獣が、アリアを見つめて吠えた。


「――――ッ!!」


 砦を揺るがす咆哮。

 そして、アリアの胸の奥で何かが強く共鳴し始めた。


(……わたし……? わたしの中に……何か……!)


 その謎を解く間もなく、砦は戦場へと変わっていくのだった。


―――――

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