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不運な転生令嬢は、恩返ししたいのに家族が溺愛しすぎて周囲がざわつく!?  作者: やまちゃぁん


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第百十九話 砦での戦闘

 黒い瘴気をまとった魔獣が咆哮を上げた瞬間、砦の兵たちは一斉に剣と槍を構えた。

 その異形は狼のような体躯に、蝙蝠じみた翼、蛇の尾を持つおぞましい姿。


「ひ、ひるむな! 守りを固めろ!」

 隊長の声が響くも、兵士たちの足は震え、汗が滴る。


 だが、その前に割って出る影があった。


「アリアには指一本触れさせん!」

「そうだ! 妹に近づくな、この化け物め!」


 剣を抜いて飛び出すノアとレオン。――そう、いつもの兄ィズである。


「お、おいおい待て! 突っ込みすぎだ!」

「俺たちは妹を守るためなら無敵だぁ!」


 豪語するノアが剣を振るうが、魔獣の爪が軽々と受け止めた。

 その反動でノアは尻もちをつき、レオンは横から斬りかかって盛大に弾き飛ばされる。


「ぎゃふん!」

「ぐわぁぁ!」


「……兄さまたち、全然無敵じゃないです」

 アリアが呆れたようにぽつりとつぶやいた。



 魔獣の爪が砦の石壁をえぐり取る。

 兵士たちは慌てて弓を放ち、火矢が闇を裂くも、瘴気の膜に弾かれてしまう。


「くっ、矢が効かん!」

「こいつ、普通の魔獣じゃないぞ!」


「ならば!」と、兄ィズがまた立ち上がる。


「俺たちの合体奥義を出すしかあるまい!」

「おお! あの伝説の!」


 二人は互いに目を見合わせ、頷き合うと――。


「兄ィズ・ダブルスラァァッシュ!!」


 気合だけは超一流。二人が同時に剣を振り下ろす。

 だが、タイミングがずれてレオンの剣がノアの後頭部をかすめ、ノアは前につんのめった。


「いてぇぇ!」

「バカノア! タイミング合わせろ!」

「兄さまが遅いんだ!」


 砦の兵士が一斉にズッコケた。


「な、なんだこの兄弟は……」

「いや、でも……あの気迫はすごいぞ……?」

「どこがだ!」



 そのとき、アリアの胸が熱く脈打った。

 視界が白に染まり、耳の奥に声が響く。


(目覚めよ……我が器……)


「え……?」


 彼女の周囲に淡い光が溢れ出す。

 砦の兵も兄ィズも目を見張った。


「な、なんだ!? アリアが光ってるぞ!」ノア。

「まさか……妹は女神の化身だったのか!?」レオン。

「違うと思います!」と、セリーヌが全力で否定する。


 光は形を成し、アリアの背に半透明の翼の幻影を広げた。

 その瞬間、魔獣の動きが止まり、苦悶の咆哮を上げる。


「ぐおおおぉぉ!!」


 アリアの瞳は淡く輝き、震える声で呟いた。

「……やめて……帰って……」


 その声とともに、光は矢の雨のように魔獣を包み込む。

 瘴気が裂け、異形はかき消されるように霧散していった。



 静寂。


 砦の兵士たちは呆然と立ち尽くし、兄ィズは口をぱくぱくさせた。


「い、今のは……アリアがやったのか!?」ノア。

「すごい……すごすぎるぞ妹よ! 兄たちが敵わぬ化け物を一瞬で!」レオン。


 アリアは膝をつき、肩で息をしながらかすかに答える。

「わ、わたし……わからないんです……でも……体が勝手に……」


 兵士たちは次第にざわめき、やがて歓声が沸き起こった。


「救世主だ!」

「お嬢様のおかげで助かった!」

「レイフォード家万歳!」


「ふふん! 聞いたかノア! 俺たちの妹は救世主だぞ!」

「そうだ! つまり救世主の兄である俺たちも偉大だ!」


 どや顔で胸を張る兄ィズ。だがすかさずセリーヌが冷水を浴びせる。


「いやいや、アンタらはただコケただけでしょ」


「ぐはっ!?」

「ひどい!」


 こうして砦の戦いは幕を下ろした。

 だが――アリアの胸に芽生えた“力”の正体は、まだ誰にもわからなかったのである。


―――


 戦闘が終わり、砦には静寂が戻った。

 外の黒い瘴気は消え去り、夜空には星が瞬いている。

 空気は冷たいが、どこか清浄さも感じられた。


 砦の兵士たちは依然としてざわついていたが、アリアと兄ィズ、そしてセリーヌは小さな控室で一息ついていた。


「ふぅ……やっと落ち着いたな」ノアが椅子にどかりと座り込む。

「アリア、怪我はないか?」レオンが心配そうに声をかける。


「だ、大丈夫です……でも……本当に、力が……勝手に……」

 アリアは膝を抱えて、小さく震えている。

 その瞳には、昨夜の魔獣に対して放った光の残像が映っているようだった。


「……妹よ」ノアがそっと膝に手を置く。

「落ち着け、俺たちがいる」


 しかしその言葉にも、アリアは不安げに首を振った。

「でも……あの力、わたし……どうして出せたのか……わからないんです……」


 レオンがため息をつき、肩をすくめる。

「……やれやれ、また始まったか」

「兄上、もう少し優しく言ってやってくださいよ」ノア。

「いや、優しくしたらアリアが余計に不安になるだろう!」


 兄ィズのドタバタはいつものことだ。

 セリーヌは静かに眉をひそめながら、そんな二人を眺めた。


「……落ち着きなさい、二人とも」

 セリーヌの声には、不思議な落ち着きがあった。

「アリアの力は確かに異常だけれど、暴走したわけではない。今は少し休ませ、落ち着かせるのが先」


「……でも、どうすれば……」

 ノアの声に、アリアは小さく顔を上げた。


「……セリーヌさん、この力、封じられるんでしょうか?」

 声はかすかだが、どこか決意を含んでいる。


「封じる、というより……制御するのよ」

 セリーヌが手をひらりとひらめかせる。

「あなた自身が意識を持てば、自然と力も暴走しなくなる。だから、まずは心を落ち着けること――そして信頼できる人と一緒にいること」


 アリアは兄ィズを見た。

 ノアは両手でアリアの小さな手を包み、レオンは少し離れて見守る。

 その光景に、アリアの胸はじんわり温かくなる。


「……兄さまたち……」

「いつも守ってくれて……ありがとうございます」


 兄ィズは顔を見合わせ、どちらも照れくさそうに頭をかく。

「べ、別に……いつものことだろ!」ノア。

「妹のために戦うのが兄ィズの使命だ!」レオン。


 セリーヌは思わず吹き出しそうになりながらも、口元を手で押さえた。

「……相変わらず、無駄に熱いわね」



 夜は更け、砦の外から風の音だけが響く。

 アリアは膝を抱えたまま、しかし少しだけ安心した表情を見せる。

 胸の奥の力が静かに波打つが、兄ィズとセリーヌの存在がその揺れをやわらげているようだった。


「……わたし、この力、ちゃんと使えるようになりたい」

 アリアの声は小さくても、強い決意に満ちていた。


「よし、それなら俺たちがつきっきりで教えてやる!」ノアが胸を張る。

「そうだ! 兄ィズがついていれば怖くない!」レオンも元気に叫ぶ。


 セリーヌはため息をつきながらも、心の中で微笑んだ。

(……本当に、あの二人と一緒なら、アリアも安心して力を覚えられるわね……)


 砦の夜は、戦いの疲れと緊張の余韻を残しつつも、静かに更けていった。

 星空の下、兄ィズと妹、そして師匠――三人の絆は、ゆっくりと強まっていくのだった。

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