第百十六話 兄ィズ VS キメラ
◆遺跡の地下――
アリアは必死に防御の魔法を維持していた。
目の前のキメラは獣のような姿を取りながらも、炎を吐き、鋭い爪で防壁を削り続ける。
「くっ……回復が早すぎる……! どうすれば……!」
汗で額が濡れ、声が震える。
背後では研究員たちが逃げ惑い、誰も戦う術を持たない。
その瞬間、地下室の天井が「ドォンッ!」と鳴り、砂がぱらぱらと落ちてきた。
「――あれは!」アリアの瞳が大きく見開かれる。
◆遺跡地上――
「ここだ! 下から聞こえるぞ!」ノアが叫ぶ。
「任せろ! 俺が突破口を作る!」レオンは拳を握りしめ、天井を殴りつけた。
「ちょっと! ここは学術的に貴重な遺跡なのよ!?」セリーヌが慌てて叫ぶが――
「妹が優先だ!!!」
二人の声が重なり、拳と魔力が炸裂。
バァァンッッ!!
床が吹き飛び、煙と石片の向こうから飛び込んでくる二人の影。
「アリアぁぁぁぁぁ!!!」
「今助けに来たぞぉぉぉぉ!!!」
「ええぇぇぇぇ!? ほんとに来たの!?」アリアは目を疑った。
◆合流――
煙を振り払いながらノアとレオンが駆け寄る。
「アリア、無事か!?」ノア。
「妹よ、傷はないな!?」レオン。
「う、うん……でも、この子が……!」アリアは震える指でキメラを示す。
「なんだこのバケモン!?」レオンが絶句。
「うわー、これは兄ィズでも胃もたれ必至だな……」ノアが冗談を言う。
そこへセリーヌも遅れて降り立つ。
「ちょっと、こんな危険なところに突っ込むなんて無茶苦茶よぉ!」
「えっ!だれ?」驚きながらも兄達の登場に、アリアの目に涙が浮かぶ。
◆兄ィズ VS キメラ――
「アリアは下がってろ! 俺たちがやる!」ノアが叫ぶ。
「そうだ、後は任せろ!」レオンも拳を握りしめ、アリアの前に立ちはだかる。
アリアはよろめきながら「で、でも……!」と声をあげるが、膝が笑って立つのもやっとだった。
「無理するな!」ノアが振り返り、妹に怒鳴る。
「お前はもう十分頑張った! あとは俺達の役目だ!」レオンも力強く言い切る。
その瞬間、キメラが咆哮し、二人めがけて突進してきた。
「来やがったな!!」ノアが光の刃を作り出し、正面から斬りつける。
「こっちだ、このバケモン!」レオンは拳に炎をまとわせ、横から叩き込む。
だが、キメラの再生力は凄まじく、傷は瞬く間に塞がってしまう。
「くっ、やっぱ効かねぇか!」ノアが舌打ちする。
「やれやれ、こりゃ長期戦だな……」レオンが汗をぬぐう。
そんな二人の背中を、必死にアリアは見つめていた。
「お兄ちゃん……」かすれる声が漏れる。
そこへ――鮮やかな緑の髪を揺らし、セリーヌがふわりと現れた。
「まったく、あんた達ったら無茶ばっかりねぇ」
ノアとレオンは同時に振り返り、息を合わせて叫んだ。
「「セリーヌ師匠、お願いします!!」」
「……結局、丸投げかい!」セリーヌはため息をつきつつも、両手を広げ、強烈な魔力を解き放つのだった――。
セリーヌの放った魔力は、目に見えるほど濃密な奔流となって空気を震わせた。床に描かれた古代の魔法陣が反応し、淡い光を帯びながら浮かび上がる。
「な、なんだこの魔力……!」研究員の一人が尻もちをつく。
キメラも本能で危険を察知したのか、咆哮をあげてセリーヌに向かって突進してきた。巨大な爪が振り下ろされる。
しかし――。
「甘いわよ」
セリーヌが片手を払うと、透明な結界が瞬時に展開され、爪はガラスを叩いたかのような音を立てて弾かれた。
「きゃぁぁ……うはぁ、すごい……」アリアは震える声で呟く。立ち上がる力もなく、ただ兄たちの背中越しに見つめるしかない。
「アリアは大丈夫だ! セリーヌ師匠がいる!!」ノアが叫ぶ。
「ああ、俺たちはもう全力で補助するだけだ!」レオンも拳に魔力を込める。
二人は互いに頷き合うと、左右に展開し、光と炎の魔法弾を連射した。直接の決定打にはならないが、キメラの注意を散らし、セリーヌの術式の完成を援護する。
「よしよし、いい感じに囮やってるじゃない」セリーヌが口の端を上げる。
その背後で、緑と白の光が渦を巻き、空気がさらに震え始める。
「古代の守護術式、《封縛の環》!」
セリーヌの詠唱と共に、キメラの周囲にいくつもの光の輪が現れ、次々と絡みつく。まるで鎖のように肉体を縛り、動きを封じ込めていく。
「グガァァァァッ!!」
キメラは暴れ、再生能力で光の輪を引きちぎろうとするが、そのたびに新たな環が生まれ、再び絡みつく。
「いまだ! お前たちの魔力を合わせなさい!」セリーヌが声を張り上げる。
ノアとレオンは迷わず両手を重ね、叫んだ。
「「全力でいくぞ!!」」
二人の魔力が一つに重なり、眩い閃光となってキメラへ叩き込まれる。
爆発的な光と轟音――。
遺跡全体が揺れ、砂塵が巻き上がった。
やがて光が収まり、そこにはぐったりと地に伏したキメラと、まだ魔力の余韻を漂わせて立つセリーヌの姿があった。
「ふぅ……全く。危ない橋を渡らせるんだから……」
セリーヌは額の汗を拭い、ちらりとアリアへ視線をやる。
「さあ、今度は自己紹介でもしてもらおうかしら? ――妹ちゃん?」
アリアは呆然としながらも




