表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/172

第百十四話 魔法陣と地下施設への転移

 一方、消えたアリアたちはどこにいたのか――


 気づくと周囲は暗く、冷たい石の床に立っていた。壁には古代文字が彫られ、床には先ほどの魔法陣とは異なる、青い光を帯びた模様が広がっている。


「……ここは、どこ……?」


 アリアは周囲を見渡す。研究員たちも慌てて声を上げるが、表情には興奮も混じっていた。


「これは……想像以上だ。見たことのない魔力反応です!」

「こんな空間、今までの研究で確認できたか?」


 アリアは心細くなる。ここからどうやって戻れるのか、誰が助けに来てくれるのか――


「落ち着いてください、皆さん。まずは状況を整理しましょう」


 アリアは声を震わせながらも、冷静に指示を出そうとする。しかし、周囲の異様な雰囲気、壁や床に漂う魔力の波動が、落ち着いた判断を妨げる。


 光る魔法陣や浮かぶ文字は、研究者たちの探究心を刺激する。やがて彼らは、恐怖よりも興奮が勝ち、次々と調べ始める。


「ここに刻まれた文字は……古代都市の防衛魔法かもしれません!」

「この光の波動を解析すれば、未知の魔法理論に繋がる可能性があります!」


 アリアは半ば呆れながらも、魔法陣の中央に立って手をかざす。すると微かに、空気の流れが変わり、足元の模様が軽く震えた。


『……これは、何かが起こる前兆?』


 研究員たちの手も止まり、全員が息を呑む。魔法陣の光が青白く揺れ、やがて光の渦となってアリアたちを包み込む。


 そして――


 空気がねじれるように歪む中、アリアの視界の中心に、ぼんやりとした影が浮かび上がった。

 光の粒子が集まり、徐々に立体の形を帯びていく。床の魔法陣の光も強く反応し、アリアの周囲を取り囲むように輝きながら揺れていた。


「……何なの、これ……?」


 アリアは恐怖と好奇心が入り混じった表情で、足を止める。

 だが、その瞬間、研究員の一人が興奮のあまり手を伸ばして、浮かぶ光の球に触れてしまった。


「――わっ、触ってしまった!」


 指先が光に触れたとたん、空間が震え、どすん、と重い振動が床を伝わる。

 そして、青白い光が渦を巻く中から、異形の姿が現れた。


 ――それは、キメラだった。


 四本の脚と、獣の頭を複数持つ姿は、古代の魔法都市が研究していた生物そのもので、保存魔法によって長らく眠っていたはずのものだった。

 しかし今、目の前に実体化している。


「き、キメラ……!?」


 アリアは思わず後ずさる。研究員たちは一瞬で恐怖と興奮の入り混じった叫び声をあげる。

 キメラはうなり声を上げ、鋭い牙と爪を振りかざして襲いかかろうとしていた。


「ま、まずい……!」


 アリアは咄嗟に手をかざすと、魔力が指先から迸り、光の防壁が展開した。

 鋭い爪や牙は防壁に阻まれ、直接当たることはない。だが、キメラの体は高速で回復しており、光で打ち消したとしてもすぐに元の形状に戻ってしまう。


「ううっ……倒せない……!」


 防御に回るしかないことを理解したアリアは、魔力を全身に巡らせ、光の防壁をより厚く、より広く展開させた。

 キメラの爪や牙がぶつかるたびに衝撃が身体に伝わり、足元の床がひび割れる。砂埃や光の残像が舞い上がり、視界がかすむ中で、アリアは必死にバランスを保つ。


「うっ、くっ……!」


 心臓が早鐘のように打つ。呼吸を整えようと深く息を吸い込むが、次の瞬間、キメラは回復した体で再び体勢を立て直し、全力で突進してきた。

 アリアはとっさに防壁を前に伸ばし、衝撃を受け止める。光が裂けるような音を立て、腕がしびれる。


「くっ……! まだ、まだ負けない……!」


 頭の中で必死に考える。防ぐだけではいつか力尽きる。攻撃も防御も、何か突破口が必要だ。

 しかし、キメラは全身のあちこちから目のような模様が光り、徐々にアリアの防御の隙間を探るかのように動いてくる。


「くっ、こ、こうなったら……とにかく時間を稼ぐしかない!」


 アリアは魔力の集中をさらに高め、防壁の形を変化させ、キメラの攻撃の軌道を読んで光を回避させる。

 その間も、心の中では叫んでいた。


『助けて! おにいちゃぁん!!』


 声に出すことはできない。ここには兄たちはいない。頼れるのは自分の魔力だけだ。

 そして、ふと思い出す。


「そうだ、エルダリオン……!」


 必死の思いを込めて召喚の言葉を口にする。光の魔法陣に向かって全力で呼びかけるが、返ってきたのは静寂。

 再び、頭の中に低く響く声が聞こえた。


『アリアよ、そこは深い魔力の渦に覆われておる。我の顕現を邪魔をする魔力が……力を発揮できぬ……』


 アリアは目を見開き、驚きと焦りで身体が硬直する。肝心なときに頼れる存在――エルダリオン――が力を発揮できないとは思いもよらなかった。防壁の内側で呼吸を整えながら、キメラの鋭い爪が光の壁にぶつかる衝撃を感じる。


「ええぇぇぇ……どうすれば……!」


 心の中で叫ぶ声は、口から出ることもなく、ただ胸の奥で渦巻く。周囲の研究員たちも、状況の異常さに言葉を失い、ただアリアの魔力に反応する光景を見守るしかなかった。


 だが、逃げるわけにはいかない。アリアは再び手をかざし、光の防壁を厚く、広く展開する。キメラの爪や牙がぶつかるたびに衝撃波が伝わり、足元の床はひび割れ、光の残像が揺れる。


「くっ……防ぐだけでも精一杯……でも……!」


 アリアは魔力を一点に集中させ、キメラの攻撃を弾きながら冷静に観察する。回復能力の高いキメラの体をどうやって抑えられるか、光の壁を通じて微妙な動きを探る。


 その時、床の魔法陣がわずかに光を増す。アリアはそれに気づき、直感で理解した――魔力の渦が何かしらの規則性を持って動いていることを。


「……ここ……隙があるの……?」


 わずかなチャンスを見つけ、魔力を集中させるアリア。しかし、キメラの体は即座に反応し、わずかな隙も許さない。衝撃の連続に、アリアの体力は限界に近づく。


 心の中で再び叫ぶ――


『助けて!おにいちゃぁん!!』


 届くはずもない叫びを胸に秘め、アリアは光の防壁を強化。光が眩しく反射し、キメラの目に映る影は歪み、動きが少し鈍る。


「……負けない……絶対に……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ