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第百十話 静かな午後のレイフォード家

兄ィズが山奥で「わけのわからない修行」に翻弄されている同じ頃――。


王都の一角にあるレイフォード邸は、まるで別世界のように静かで穏やかだった。

秋の光が差し込む大広間。窓際の椅子に座ったアリアは、分厚い本を広げている。


「……ふぅ。ようやく課題もひと段落ね」


学園に入学してからというもの、友人との交流や授業、慣れない日々で常に慌ただしかった。けれど、今日は珍しく予定がなかったのだ。

アリアは机の端に花を飾り、紅茶を用意して、のんびりと本のページをめくる。



1.アレクシスの奮闘


一方、書斎では父アレクシスが政務に没頭していた。

机いっぱいに広がる文書を片手でさばきながら、次々に署名と判を押していく。


「……む、次の領主会議までに予算案をまとめねばならんか」


眉間に皺を寄せるものの、その手は迷いなく動く。

徹夜続きの時期もある政務だが、今日はどこか機嫌が良さそうだった。


使用人が控えめに声をかける。

「旦那様、本日のご予定は――」

「午後は家で休暇だ。せっかくアリアが居るのだからな」


不器用な言い方ではあるが、どうやら娘と過ごす時間を大事にしたいようだ。



2.レイナの小さな不安


そして母レイナは、リビングで刺繍をしていた。

白い布地に花模様を一針ずつ縫いながら、ふと視線を遠くにやる。


「……あの子たち、今頃どうしているのかしら」


「あの子たち」とはもちろんノアとレオンのこと。

修行に出たきり、まともに連絡もない。豪快な二人だから心配無用、と言いたいところだが――やはり母としては気にかかる。


「ねぇ、アリア。お兄様たち、元気にしていると思う?」


問いかけられたアリアは本から顔を上げ、にっこり笑った。


「きっと……相変わらずだと思いますよ。元気すぎて、周りを困らせてるんじゃないでしょうか」


その言葉にレイナは「ふふ」と笑い、また針を進めた。



3.穏やかな午後


屋敷全体が穏やかで、どこか温かい空気に包まれている。

アリアは読みかけの本を閉じ、そっと窓辺に立った。


遠くの空は澄み渡り、風が花の香りを運んでくる。

「こんなに静かな午後も、悪くないわね……」


彼女の脳裏をかすめるのは、兄たちの顔。

あの二人なら今頃、山で「意味不明な修行」に文句を言いながらも頑張っているはず。


「……がんばってね、お兄ちゃんたち……。」

小さく呟き、アリアはまた椅子に戻る。



4.おまけの一幕


その頃、屋敷の廊下を通りかかった執事が、穏やかすぎる光景に思わず足を止めていた。


「……なんと申しますか、静かすぎますな。旦那様も奥様もお嬢様も……。あの二人がいないだけで、屋敷の空気がまるで違います」


彼は遠い目をして呟いた。


「騒がしくも、にぎやかな日常……それこそがレイフォード家の本来の姿なのかもしれませんな」


こうして、兄ィズが老人に叩きのめされている裏側で――

レイフォード家には、つかの間の静けさが訪れていた。


だが、その静けさがどれほど続くかは……誰にもわからない。


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