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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅳ 第四詩集『蟻と土』     1997年刊
96/133

その32 長崎原爆資料センター   七三一部隊展

   長崎原爆資料センター


歩いている姿勢のまま

黒焦げになった少年よ


熱線とガラスの破片で

顔がつぶれた娘よ


こんな目に

なぜ会わねばならなかったのか


〈戦争をしていたから〉


なぜ戦争をしていたのか

何のために戦争をしていたのか


戦争に対して

どんな態度を取るべきだったのか


その「瞬間」の

前の時間に

思いは向かう


責任のない

少年や少女であっても

こうして決算されるのだ


政治の動きに

無関心でおれようか




   七三一部隊展


頭を割られた死体

腹を裂かれて内臓が出ている

並べられた生首五、六個

目玉を抉られた赤ん坊

血が飛び散った生体解剖の精密模型

凍傷実験で肉が壊死して骨が出てくる


嘔吐を覚えて

風邪をひいて熱が出ているせいもあって


鬼であったと

鬼の行為であったと

元隊員の老人が伏し目がちに

だが誠実な声音で証言していて

百人くらいの市民が聞いていたか


殺し合いの現場に引き出され

被害者か加害者になることを強いられるのは

いつも市民だ


椅子に座っていると

悪寒がする

昨日からの冷え込みは確かに厳しいが


冷風に晒される

市民の権利の

うそうそとした寒さよ

(職場ではネクタイ着用が強要されている)

戦争を始めようとする権力が

真っ先にむしりとろうとするもの

市民を一個の消耗品に変えるために


あの戦争を

侵略戦争とは認めないこの国の政府は

同じことを繰り返す可能性がある

自衛隊も海外に出たし    

憲法九条を守るという党も一つだけで



   ※七三一部隊…旧日本陸軍が細菌戦の研究・実験のため、一九三八年、中国・ハルビン南東    約二五キロにあるピンファン(平房)に設置した部隊。人体実験のために三千人以上の中国    人、ロシア人、朝鮮人などが犠牲になった。




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