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その30 駅前の時計 「ウサギ小屋」の窓々の明かりに
駅前の時計
あくせく生きていることでは
誰にもまけていない
腕時計だって
職場のチャイムより
少し進んでいる
列車待ちに
駅前の喫茶店でほっと一服
腕時計を見ると二十分
まだ大丈夫
ふと壁の時計に目をやると
これはもう二十三分
慌てて腰を上げた
駅前の時計の
なんと早く進むこと
わが腕時計を上回る
列車に吸い込まれ
吐き出され
右往左往する人々の
切ない吐息が
時計の針を進めてしまうに
違いなく
「ウサギ小屋」の窓々の明りに
僕らの夜はテレビ
面白おかしいテレビ
どこかおかしいテレビ
疲れている僕ら
寛ぎたい僕らに
選択の余地はなくて
ケラケラ
ニヤニヤ
代償に
どこかおかしいテレビの
おかしい部分が
大脳皮質にびっちり
おう
もうこんな時間か
愚かさの増した頭をぐっと上げて
夜を見据えても
見えてくるものはなく
(搾り取られるより他に
ますます能はなくなり)
吐息をついて
さぁ、寝るか
休まなければ
明日のために
明日?
どんな明日
どんな生きたい明日が
奴隷に




