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その5 灯火
闇に包まれた
帰着の駅に降りると
ぼくは漂泊者のように
ベンチに腰かけ
缶ビールを飲んだ
頭は
重く疼いていた
自転車の
サドルの上の高さで
闇を泳ぐ
小さな灯火が
不安定に
左右に流れる
橋にさしかかり
水銀灯の銀粉が
体を包んだとき
ぼくは
ふわ と浮きあがった
〈今が永遠であれ〉
ぼくは目を閉じた
朝がくれば
ぼくはまた電車に乗るだろう
異郷を走る電車
ぼくは着くだろう
荒野に置かれた机に
放擲された者
故郷はどこだったのか
そして
あの慕わしい
心嬉しい場所は




