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その3 料亭の春 はっきりさせよう
料亭の春
紅燈の下
弦の音頻りに鳴り
闇の中に
桃色に浮く桜花よ
生温かく
生温かく
牽引する男と女
粘りつく語らい
粘りつき
叫び 酔いの甘さ 縺れる意識
濁った眼 その眼を剝き
ひきしぼられる涙
はみ出たシャツ 唾の飛ぶ口
時の消耗
ここより他を思う心
そしてひるがえり
連なろうとする心
ここから
あそこまでの
距離
はっきりさせよう
私の求めるものは何
それは存在
自立した存在
それは何
それはそそりたつ樹
苔むした岩 清らかな渓流
陽のひかり 風 柔らかに身を屈する草
そよぐ枝葉 散る花
つまり何
静かだが食い込んでいるそれ
在る事が意識とならぬほどに在る事
無いという事が夢想としてだけ成り立つそれ
民衆
この夥しいもの
打ち克ち難く持続し繁殖するもの
地を走る不壊の太綱
起源と帰結
歴史
私の血よ
彼らに帰るしかない
自らの働きで口に糊し
彼らの中に突き刺さり
自らも刺し通され
あの岩や木肌のように
存在となるのだ