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その1 スリキレトンボのうた 朝の外出
スリキレトンボのうた
スリキレ
スリキレにキレ
薄紙になった
胸
臆病にふるえる触覚
いつも潤んだ複眼
霞のかかった意識
翅音は
糸をひく
嗚咽
えへら
えへら
日日を
とぶ
朝の外出
戸口に
昨日おれがひっかけた
家人のサンダルがあったので
おばちゃんは遠慮したのだ
階段の中途にバケツを残して
おれはいなかったのに
おれの部屋には
二日酔いの後のザンゲとか
自分をシッタする標語とか
ポルノグラフィーとか
ホステスの名刺とかがあって
おばちゃんは目にしているはずなのだ
掃除しながら
気恥ずかしさも
今はさらにうすれ
彼女もまったく頓着がなく
むしろある親しさが二人の間に流れだした
と思っているとふと
こうして声もかけずに
引き返しているわけであった
掃除がなされなかった不在の時間
惜しいことだと思っていると
階段を上ってくるのだ
掃除していい 戸の向うから
おばちゃんの声が聞えるので
ああ、いいですよ
どうしようかと思うのだ
動きだす彼女に
不在 がやはり必要なので
コーヒーブレーク 閃いて
アタフタと出てきたわけだ




