その24 死 秋雨
死
強い日射を浴びたとき
すでに死にはじめていたのだろうが
二週間ほどの時を経て
白い糸屑のように縮まり
脱落しはじめた
その下に
新しい皮膚ができたのだろう
バトンタッチだ
俺は生きているとしても
俺の一部はこうして
すでに死を経験しているのだ
死は近しい と
皮膚は言うのかも知れぬ
務めをはたし
先頭をきって死んでいく皮膚を
涙ぐましく称えるとしても
本体は
なお
たじろいでいる
森として
視線を中途で絶えさせる
洞穴を前にして
秋雨
国の重要文化財に指定された
明治の実業家の邸で
フランス料理を食べながら
雨の降る庭園を眺めている
高い天井やシャンデリア
大きな暖炉や絨毯を敷いた階段
ワインが効いてくると
躑躅を植えた築山に
雨水が滲みこむように
富の力が沁みて来る
それに
俺は抗ってきたのかな
抗えるわけがないよな
これだけ確かなものを
それは残せるのだから
若い頃からの自分を
痛むように思い浮かべる
徒労感に似た
気怠い気分のなかで
「人生は早いな
もう五十だよ」
ここまで歩いてきた自分に
投げかけるように言うと
あなたも痛ましいものを見る
目付きになったような
妻と過ごす
休日の一刻




