竜殺しの技能と技術 -後編2-
* * *
しかし、ここまでは優勢である。このままパターンとなれば、ドラゴンタイプとはいえ勝ちを得られる。
それは司令室も感じ取っていた。
だが、常に不確定要素の乱入はシミュレーションされており、勝率が100になることはまずない。
援軍もであるが、そうでなくともバカピックは常に変化球を隠し球として持ち、気の休まるときはない。
「少なくとも、援軍ぐらいあってもいいが」
ハヤミは現状の優勢に満足などしていない。
先も述べた通り、ファイアードレイクの性質上、仲間との連携で真価を発揮する。つまり、この状況は援軍次第ですぐにひっくり返る。
そもそも、優性とはいえファイアードレイクへのダメージは軽微である
今の状況は古代の人類がマンモス相手でも勝てたと同じことで、動物の大群にあっては銃を手にした人類でも生存自体、怪しくなる。
「奴らにも、何らかな制限があるのでしょう。そうでなければ、我々はとうの昔で全滅しています。それか石で奴らと戦争してます」
ターニャがそう語る通り、このファイアードレイクとの戦いでも、それは感じることができる。
大規模戦闘にこのファイアードレイクがいれば、基地では守り切ることは無理と言わざる負えない。また、それも休みもなくなら、今の人類でなくとも無理だろう。
そうなれば、原子時代から原始時代への逆行である。結果は石が主兵装となる。
「本来、拠点防衛や攻撃の要で使われるドラゴンタイプを援軍がない中では捨て駒に使っているにすぎない。恐らく、ドラゴンタイプはバカピックでも時代遅れの象徴。過去の我々でも、巨大兵器で戦っていましたが、コストや火器の管理でサイズを小さくても威力を出せるようになった今では、威圧でしかない巨大兵器は運用に困るだけ」
ターニャの考えは理解できる部分はある。
もし、そうであるのなら、どうであれバカピックは明確な運営がなされていることになる。そうなると奴らの行動にはすべて理由があることになる。
だが、それはあくまで推測にすぎない。根拠など、この時点ではない。
それでもターニャは自信を持って言葉を続ける。
「我々は奴らと戦い続けた末裔です。言葉こそ語らずとも、奴らとは数多くの交流をしてきた」
戦いの中で感じられるモノこそ、少女達にとってバカピックとのやり取りである。それも1世代だけでない、何世代に渡るレベルである。
少女達はある意味で、バカピックと交流を続け、それを感じ取ろうとしている。
そんな少女からの言葉だ、根拠がなくとも説得力はにじみ出ている。
それに、指揮をするハヤミとて、バカピックの手の内は多少なりとも感じ取ることはできる。
「奴らはただの馬鹿ではない」
確かにバカピックと軽蔑して呼んできているが、その存在に人類はこのような生活を強いられている。
「なら、奴らにも時代の流れが存在しているのでしょうね。我々の変化に合わせるほどに」
ハヤミはその考えに対して、言葉では答えなかった。だが、頭の中ではそうであるのなら、時代遅れでは基地の運営が務まらないと感じていた。
しかし、今はそんな感傷に浸るときではない。まだ、戦闘中である。
「とりあえず、下手に反撃を食らう前に逃げ道を開けておくか」
現状、基地からファイアードレイクとの距離は多少稼いでいる。
単分子ナイフも破損していることもあるため、相手の出方を見るのにも現時点での防衛ラインを維持する方が得策かもしれない。
このままの攻防なら、それでも問題はないことだし。
「ただ、この状況ではドラゴンタイプなら想定内でしょうから、これで逃げを選択するなら初めから攻めに来ないでしょうね」
「ああ、分かっている」
実際は楽天的な考えで済めばいいのだが、そうはいかないだろう。そもそも、シミュレーションとてそういう風に管理しているのだ。
だけれども、ひとまずは守りに入り、あわよくば、撤退をしてもらうことが理想である。攻めに出ても、骨を折るだけだし。
「奥の手を隠しているのは、明確だろうな。だが、それを見せない以上はこちらも迂闊な手で行くわけにはいかない」
結局は相手の出方待ち。出たとこ勝負。
大規模戦闘だって、待ってからの守りでしかなかった。
「まずはそこからがスタートになるかもしれないな」
何時だって、人類は後手でしかない。
* * *
竜は考えていた。ただ、楽な仕事だと。
しかし、違っていた。
人類は眠ることなく、研鑽をしていた事実をようやく知った。
だから、竜もまた輝かしい栄光を取り戻そうと、錆び付いた己が体を酷使することを決めた。
* * *
ファイアードレイクはそこそこに追い込まれたことで、ようやく違った動きを見せた。
だが、それはハヤミが期待するようモノではなく、文字通り火に油を注いだ形となっていた。
その巨体から、多くの箇所で装甲は解放され、露出された部分は何か噴射口のような形状をしていた。その露出した部分からは次に炎を吹き出され、さながら炎の山と化した。
これがファイアードレイクの本来の姿なのだろうか。
この炎の山ではレーザーであっても、実弾であっても、当然、単分子ナイフであっても、その効果を薄くさせる。<リフ>とは違う意味でバリアである。
タンク砲であっても、この状態ではダメージは軽減されている。
そして、その炎自体も脅威な攻撃力を持つ。
炎を纏った尻尾での攻撃と口から吐き出される炎の連携によって、全方位がカバーできる。
なおかつ鈍足な動き、いくらか俊敏になり、巨体さのリーチに炎の付加と相まって、ファミネイの機動力でも避けきることは難しくなっていた。
距離を取ることで被害は避けられるが、それでは進軍を防ぐまでできなくなる。
* * *
だが、ターニャはその様子に笑い出した。
危機的な状況になったのに。しかし、それは周りの価値観である。ターニャには逆に見えているのだ。
「みんな分からないの、奴は拠点防衛としての姿を捨てたのよ」
確かにグラスの外部センサーは最適なポイントして、噴射口をあげている。ここは内部の機構と連結している。
強固な装甲はこのポイントでは剥き出しとなっている。
「いくら隠し球とはいえ、今は馬鹿のように内部をさらしているのよ」
「確かに……しかし、あの炎は一種のバリアだ。内部が剥き出しではないだろう」
ハヤミはそう語る。装甲から解放されたとはいえ、今度は炎のバリアで守られているだけ。今度はそこを突き破る必要がある。
それは装甲か炎の違いになっただけで、本質的な問題では何も変わっていない。
だが、アキラは理解した。
「……ターニャさん、パティさんの使っていた物をタンク砲でも用意できますか」
アキラはターニャに尋ねた。パティが使っていた光学式超広域狙撃用ライフルのことだ。
あれならば、1番初めに口の中を狙った通り、ダメージは期待できる。それもタンク砲であれば、その期待値はあがる。
それはターニャと同じ考えであった。
そう、これがターニャが笑っていた理由だ。竜は人類の前で、さながら裸の王様になったのだ。
「ええ、ちょっと回路を変えるだけだから、ほんの少しの時間で用意ができるわ。あれは元々は貫通レーザーの応用です。あの程度の炎も無意味よ」
確かにファイアードレイクの隠し球では危機に陥るかと思ったが、そこは機転によって逆に好機となった。
* * *
エーコは司令室からの新たに出された指示を確認する。無理のない内容にいささか安堵と物足りなさを感じる。死亡者を出ることも予測された中で、ただ、おびき寄せるだけなのだから、リスクは少ない。
『各員、指定のポイントにおびき寄せるわよ』
タンク砲は現在、アルミカンで回路を変換中。時間はさほどかからない、おびき寄せている間に完了する。
ファミネイ達は銃器を撃ちながら、後退していく。暴れ回るファイアードレイクは目の前の敵意を持つモノには容赦なく向かってくる。一度、攻撃が済めば忘れてしまうのに、それでも撃たれている間はこちらの言うことを聞くかのように付いてきてくれる。
まるで、獣使いに操られた竜である。
『まったく、単調なモノね』
その様にエーコは通信越しでつぶやく。つぶやきまで通信だ。
ファミネイ達は目的のポイントを通信で把握している。ここまでは素直に付いてきてくれたが、微調整になるといささか面倒で、さらにはその場に留まらせるには素直に「待て」の一言で済むわけではない。
それでも、何とか被害は出さずにポイントへ固定できた。
『おびき寄せたわよ』
『了解しました』
2台のタンク砲から放たれた一直線の光が、ファイアードレイクの体を交差する。
貫通式レーザー。レーザーとはいうが、その原理は少し違うらしい。2台で同時に行ったのは、その交差したポイントで共振を起こさせ、破壊力を生み出すため。
単一では無力な光線でしかない。
ただ、この光線は物体をも貫き、対象のポイントが装甲で間も割れた内部であっても威力を発揮する。
強固なファイアードレイクの装甲とて内部フレームを破壊されては、単なる剥製である。
それでも強固すぎる装甲の前では光線の効果は発揮できず、ファイアードレイク自身が邪魔となっていた装甲の解放はターニャが笑って喜ぶほど狙ってもないチャンスとなった。
この貫通式レーザーは光学式超広域狙撃用ライフルと同じで、規制の穴を付いた兵器であるため、許可はハヤミであれば問題なく出せる。
そして、狙っているポイントはタキオンエンジンだ。
これを破壊されれば、バカピックとはいえ、収束する爆発で自壊することだろう。ここまできて、サンプルで巨体を確保する気などない。
ただ、リスクを消し去りたい。
タキオンエンジンの位置もおおよそだが、それは今までの観測技術で割り出しているので精度はかなり高い。
ファイアードレイクはこのままでは滅ばされるだけだが、当然、抵抗して生き残ろうとする。
――一陣の風が吹いた。
見えなかった。誰もが感じた、正直な感想である。そして、そこにいたファミネイ達はファイアードレイクがさも初めから、そこにいたように感じていた。
しかし、データでは瞬時に移動したことは示されている。
風と錯覚の正体はワープであった。
光線は無意味に空中をクロスしているだけであった。
ワープ後も、ファイアードレイクは瞬時に噴射口を使い、加速して後退をする。その熱量は口からの炎とは比べものにならない。通り過ぎた場所は地獄に変えるほど、石すらも溶かすほど超高温であった。
幸い、ファミネイ達が周りにいなかったのが救いである。だが、それほどの火力が有していながら攻撃に生かさなかったことは不可解だ。
それにいままでゆったりとした動きからは想像できないほどだ。必死だったとはいえ、せめて、その何割かも駆使していれば楽に戦えていたはずなのに。
どちらにしろ、それは敵の事情であるから、ハヤミにとってはラッキー程度な話でしかなかった。
ファイアードレイクはファミネイ達と距離を置いた後も、噴射口からは炎をまき散らしている。そして、こちらが攻撃しないのを見ると、さらに後退して宙へと飛んでいく。
どうやら、ファイアードレイクはこちらの期待に応えてくれたのか撤退していった。
エーコは斬り落とされたドラゴンの尻尾を見ながら通信を入れる。
『いろいろと思うことはあるだろうけど、この現状では十二分な成果よ。それを誇りましょう』
確かに勝ちだが、ここにいるファミネイも基地のハヤミを初めとする者達もそうは思ってはいない。
それでも、今はこの勝ちを誇りたい。たとえ、虚勢であっても。
* * *
「……ひとまず、終わったか」
何とか、被害もほぼ出さずに終えられた。
ただ、ファイアードレイクはかなりのダメージを与えられたとは思うが、まだ健在。
この先、憂いになるかもしれないが、それでも対策も多少は分かったのでそれだけは救いである。
「逃げる際もワープを使わないのは、やはり、あの大型には負担が大きいのでしょうか。まあ、ダメージもあるから、この場においてはそう考えるのが自然でしょうね」
ターニャはファイアードレイクの逃げる様をそう評価した。
「さて、グラスの報酬もあるが、少し他の者にも労をねぎらう必要があるか」
その言葉に司令室内の少女達も明るくなる。
ハヤミはさすがにここにいる者達までねぎらう気はなかったが、こうなっては発言の撤回もできない。むしろ、口にしたのが不味かったと後悔するしかない。
「……デザート1品追加が、精一杯か」
「それよりも、いつまでも保守的に続ける気ですか。これを機に攻めに出てはいかがでしょうか」
ハヤミとターニャの関係は今に始まったわけではない。
「しがらみもある中では、これで十分だ」
ハヤミはシノに手を振って、合図を送った。飲み物を用意してくれの合図だ。
今のターニャの発言は、戦闘開始前の会話と同様だが今回だけのモノでなく、たまにされる会話である。
そんな会話にハヤミは嫌々とはしているが、それもまた事実なのが耳が痛い。
実際、ハヤミは使い古した戦法ではあるが、今まで取りあえずは無事にこの基地を守り続けている。古さは分かっていても、成果も出しているその戦法を軸にしてきた。
「まあ、いいですが、昔の英雄みたいにそんな意地を通した所で、待っているのは悲劇でしかありませんよ」
昔の英雄に微妙なアクセントがあった。まるでハヤミの知っている人を指しているようであった。だが、ハヤミは黙って、その言葉を聞き流していた。
「貴方は近く、大きな選択しなければならない。我々はそれに従います。さて、後は専門家の仕事ですので」
ターニャは重要そうな内容を捨て台詞で語る。貴重なドラゴンの尻尾や戦闘データのまとめという自分達の仕事が待っている戦場へと移動しなければならない。
こう、ハヤミと結論の出ない会話に付き合う時間は実際、惜しいのだ。
「後、少し気が緩んでいる所すみませんが、『ゴールドドラゴン』という例もあります。対策はより強固でなくてはなりませんので」
ゴールドドラゴン、宇宙時代における有名なドラゴンタイプだ。
その名の通り、金色のドラゴンだが、姿、形はその時折で変わっている。
理由は多くの会戦で出現して大きなダメージを負っても、次の会戦で大きく改修され姿が変わっていたいう。
つまり、このゴールドドラゴンの例とするなら、ファイアードレイクはまたやってくる可能性は高いということになる。
ターニャはそう皮肉じみた台詞を言い残し、その場を離れていった。
「まったく、この余韻に水を差しやがって」
ハヤミはそういうが、それも事実ということは分かっている。だが、それでもぼやきたくはなる。
そして、シノもなだめることはない。シノとて同様なのだ。
これまで空気のようにただ、じっとしてこの場にいたが、それでもハヤミにとってはそれだけで心強い存在であるのだが。
そして、用意した飲み物をそっと置く。
「……長年作り上げた、まがいな平穏は終わりを迎えようとしているのだな」
そして、ハヤミはシノが用意してくれた飲み物を手に取り、飲み始めた。
飲み物が飲み終わる頃には、エンジニア達が調査のために地上へと出かけようとしていた。
アキラには黙って、その様子を見るしかなかった。
5
竜は再び眠る。
傷ついた体を休め、満足感のある疲労を癒やすため。
惰眠ではない、眠りにつくのだった。




