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重機兵少女ホラィ・ト・スフィ  作者: ツカモト シュン
第2幕 ライトダーク
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竜殺しの技能と技術 -後編1-

   4


 ファイアードレイクが地上に降り立って、もう30分以上になる。


 その間、進展は特になし。基地としても、ようやく地上へ出撃したほど。本来なら、これほどゆったりとした出撃もない。


「ファイアードレイクはいまだ徒歩で進行中」


 かわらず内容をオペレーターが報告する。


 ファイアードレイクはその巨体にあった歩行速度でゆったりと歩いている。速度は10km/h程度。人間の歩く速度より早いが、その巨体から考えればやはり、ゆったりだ。


 だが、この巨体、質量が歩けば当然、地面は揺れる。


「やはり、待っていては都市からも苦情が来ただろうな」


 ハヤミはそう漏らす。


 まだ、体で感じられるほどの振動ではないが、基地の地震計もわずかな振動を拾っている。


「ひとまず、タンク砲の射程圏内に捉える地点まで進行。そこで砲撃をしつつ、ファミネイ達もそこから部隊を展開する」


 現時点でもタンク砲の射程圏内であるが、前述のとおり光学兵器では地平線の影響で目標は地平線の向こう側にいる。


 ただ、この車両なら簡易的に宙に浮くことができるので、そうすれば今この場でも砲撃は可能である。


 だが、それは相手にも攻撃をされる可能性が出てくる。それにあくまで宙に浮くだけで回避における機動力などない。使い方は進行する際の補助機能である。


 下手なリスクを背負うより、ひとまずは全体で進んで、リスクを少なくすることが大事である。


ファイアードレイクは全長で25mほど、その頭までの高さ、体高では16mぐらいだ。これを地平線越しで見ようとすると、20,000mは近づく必要がある。


 もっとも、それでようやくお互いが見える距離、ドンパチとなれば更にもう少し近づく必要はある。


 それにファイアードレイクの長い首を下げれば、その距離は更に近づく必要が出てくる。


 それでも現時点でのファイアードレイクとの距離関係では散歩程度の距離しか離れていない。


「少し準備に時間がかかりすぎたせいもあるが、あまり基地と離れていない場所での接触になってしまったな」


「できるだけ相手を後退させて、奥へ持って行けないでしょうか」


 アキラは語る。ここまで、発言する機会がなかったのは未経験、未知の状況でただ、場にいるだけになってしまったから。


 だが、何も考えず、じっとしているわけではない。しっかりと自分の考えで状況を見ている。


「ああ、そうだな。ファミネイ達は背後を取って攻めさせ、タンク砲は前進させることで相手を後退させよう。うまくいくかは別だが、その手でいこう」


 ハヤミもその案を素直に受け入れる。自身も思っていたことでもある。


 それでも、誰もが未体験の状況でもアキラは意外に落ち着き、冷静に判断していることはハヤミは感心して、見習うべきと感じた。


 なまじ、敵の恐怖を知るだけにハヤミにとって、そこが障害となっている。


「今、思ったのですがドラゴンは急がないのではなく、急げないのでは」


 ターニャはファイアードレイクの様子を見て、そう漏らした。そして、周りの意見など求めず、そのまま思いを語り始める。


「あの巨体は、まさに恐竜そのもの。そもそも、恐竜が地球の重力下で巨体を維持できたのか、いまだ疑問視されています」


「それがどうした」


 ハヤミはそう返す。ターニャの話が見えてこないからだ。


「ドラゴンは宇宙でこそ、その巨体の意味があり、また運用できた。だが、この重力下ではその性能は損なわれているのなら」


 事実、ドラゴンタイプは宇宙以外での接触はなく、地上での戦闘は恐らく初だろう(他の惑星や地上のネットワーク崩壊後は記録に残っていないので、あくまで推定となる)。


 ただ、そのことが人類にとってドラゴンタイプは全滅したと思い込んでいた。


 しかし、こうして目の前に現れたことを考えれば、実は地上では使えなかったと考えることもできる。


「ワープや高速移動を使わないのも、宇宙と違い効率が悪いからでは」


 機械であろうと生身であろうと、無理な負担は故障、破損の原因となる。たとえ、無限のエネルギーがあっても、機械は消耗する部品の組み合わせだ。


「単分子ナイフの有様を見ていると、同じではないかと思えまして」


 確かに単分子ナイフ装備はオプションとしてみても過剰だが、高機能だ。しかし、その分のデメリットも存在する。それゆえ、今までお蔵入りしていた。


 ドラゴンタイプもバカピックからすれば、今の人類には過剰な兵器だろう。何しろ、地下に籠もるだけの相手なのだから。


「なら、地上での戦闘はまだこちらに分があるか。地上育ちではないが」


 そうハヤミは自虐するが、それでもこちらは地上の重力下はまだ慣れ親しんでいる。ファイアードレイクが重力に慣れていないのなら、多少の分はある。


 それが事実かどうかは戦ってみないと分からないのだが。


 * * *


 車両は止まり、その上に付けられた砲塔、タンク砲が動き出す。それと同時にファミネイ達も車両から降り出し、武器を展開して戦闘に備える。


 そろそろ、対象のファイアードレイクが視界に入るからだ。


 そんな様子を元から車両の外にいる、グラスは単分子ナイフの推進装置を稼働させる。


『悪いけれど、先行させてもらうわ。そちらは支援になるけれど、よろしくね』


 その嫌味にも聞こえる台詞に誰も反応はしない。


 真似のできる芸当、また、したいとも思えないリスクであることを理解しているからだ。


 とはいえ、無謀な状況にただ放っておく訳にもいかず、班を束ねる者としてエーコは通信で返した。


 エーコはあくまで無口、言葉を発しないだけで、通信においては問題なく周りとのやり取りを行う。それでも今は少し離れているとはいえ声の届く範囲ではあるので、通信で正しく、各員へ連絡する意味では正しいのだが。


『しばらくはタンク砲以外の支援はできないが』


 タンク砲の射程内とはいえ、ファミネイ達ではまだ距離があるからだ。


 また、グラスは単分子ナイフの追加推進力で他よりも格段高い機動力を得たが、他との連携になると使いづらい場面も出てくる。


『切り込みには慣れている。問題はない』


 実際、グラスの得意とする戦法は敵集団への切り込み。そして、機動力での攪乱。


 この場面であっても、特に問題はない。


『どちらにしても、車両に対しても囮はいるでしょう。それに鈍足の亀さんには速さでは負けないわ』


 確かにタンク砲だけに攻撃している初手では、相手の目標はタンク砲を積む車両に目が行くのは明らかだ。そもそも、こちらの攻撃が届く以上は、相手の攻撃も届くと考えないといけない。


 たとえ、拡散して前進するファミネイに相手をしてくれれば都合がいいのだが、射程外の相手にはうまくはいかないだろう。


 それをグラスが1人で引き受けると言っているのだ。


『……了解。できるだけ私達も急ぎ、支援に回る。飛ばしすぎないように』


 ファミネイ達は推進装置を使うことで高速移動ができる。それでも300km/h超。それ以上の速度を出す必要性は、今の戦闘スタイルでは特に不要である。


 今のグラスの単分子ナイフ装備により、音速を超えることも可能。


 あくまで、これは近接戦闘を速やかに行うための補助として使われるのだが、効率の悪さも目をつぶれば、そういった機動力の強化として運用もできる。


 司令室からも詳細な作戦が指示される。一応、グラスの先行も認められた上での指示となっていた。


『各員、ドンガメ相手の戦いと思うな。お客人のエスコートが優先となる』


 エーコの発言内容はあくまでたとえだが、現時点での作戦は基地から遠ざけること。それはエスコートとたとえのには問題ない。


 それでも敵に使うには皮肉も入っている。


『では、お客さんの出迎えに行ってくる』


「まったく、グラス。本当に1人だけで攻める気」


 パティは無謀な攻めに出るグラスにそう漏らす。そんな通信ではない声に気がついたのか、グラスは返信をする。

『期待しているわよ』


 グラスは勢いよく、その場を過ぎ去っていく。


「まあ、こんな豆鉄砲で期待されても困るのだけれど」


 パティはライフルを構える。まだ、相手との姿が見え始めた20,000mちょっと。ファミネイの手持ち武器としては、射程外である。


 他のファミネイ達は、射程に入ろうと距離を詰めて前進しているのに、パティはタンク砲と同じ場所に留まり狙撃態勢だ。


 だが、エーコもそのことはとがめない。


 パティの武器は一見すれば、レーザーライフルである。それでも違いを挙げれば、少し他より銃身が長い程度で。


 ただのレーザーライフルなら、射程は実は10,000mにも満たない。銃身程度でその距離は格段には伸びない。


 射程に関してはわざと減衰させているためで、減衰なしではかなりの距離で威力が継続して、その射線上に存在にダメージが与えることになるからだ。


 たとえ、人のいない地上であっても、そこは配慮すべき点である。


 なら、距離による減衰するレーザーをいかに長距離まで維持するか。


 そこで考えられたのが、目的の箇所でエネルギーのレーザー共振をさせ、ピンポイントでダメージ与える方法である。


 本来はこれも宇宙時代で開発された兵器で、当時でも規制の穴を付いた武器である。


 名前は光学式超広域狙撃用ライフル。


 光学式なのは原理がレーザーとは少し違い、望遠鏡などの光学理論を参考にしている点と、あくまでレーザーとは違うとの意味を持たせるためである。


 今日(こんにち)も意図的に減衰させている中では、この仕様は役に立つ場面がある。


 ただ、問題はピンポイントを狙う武器であること。レーザーは線の攻撃であるため、ダメージの継続性、ずれの調整を発射後にも可能であるが、光学式ライフルに関しては完全に点であるので、レーザーの線の特徴はない。


 制止している物体なら楽に撃つことはできても、移動する物体に狙った場所を確実に当てるのは経験とセンスが必要である。


 パティはこれを使い熟している。


 そんなパティに援護されているグラスは推進装置で加速させながら前進する。そして、自身の目や耳よりも先に外部センサーがファイアードレイクの調査を開始する。


「これが、ドラゴンタイプか……」


 グラスは近くに来て、ようやくその大きさを知った。


 凶暴かつ強靱な図体。それでも顔はつり上がった半円のバカピック面。


 外部センサーの解析結果から表面の装甲は頑丈でかつ、かなりの厚みを持つ。内部フレームまで単分子ナイフでは何度も切り裂いてようやく達することができると判明する。


 また、そのデータは司令室にも送られ、作戦の参考にされる。


 そんなファイアードレイクの口元から炎が漏れている。


 ファイアードレイクは「火の竜」を意味する幻獣。そのため、口からも炎を吐き出すことは当たり前で、その特性は過去のデータでも記録されている。


 勢いよく向かってくるグラスに対して、炎で対応をしようとしているようだ。そして、ファイアードレイクは首を傾け、炎はグラスに向けて放出されようとした。


 パティは援護の目的でもすぐさまドラゴンの口の中へ向けて、光学式ライフルを発射させていた。


 首が動く中であっても、正確に口の中で命中させていた。


 だが、ファイアードレイクはものともしない。


 それでも、効果としてはわずかに怒りを買う程度あったのか、注意をそらすことはできた。ファイアードレイクは銃を撃ったパティの方に対して、炎を吐こうとする。


 ようやくパティは移動を開始する。相手の攻撃から逃げるためと次の狙撃ポイントに向かうため。


 そして、タンク砲が支援のため、発射される。


 タンク砲ではダメージらしい傾向が見て取れた。装甲にダメージ痕が残る。相手の反応でも痛がっている様子が見られた。


 そのやり取りの中で、グラスは自身よりも大きい単分子ナイフを振るった。


「食らいなさい」


 グラスは追加推進力の加速も使いで勢いよく、ファイアードレイクの後ろ足に単分子ナイフを食らわせる。勢いもあってか、装甲をいとも簡単に切り取っていた。


 とはいえ、装甲の上部を切り裂いただけで、内部まではまだ達していない。


 再度、外部センサーで割り出した装甲の厚さはm単位、ダメージが期待できる主構造物に至っては更に奥だ。


 人間でたとえれば、皮膚に擦り傷を追わせた程度だろうか。


 だが、その程度のことでもファイアードレイクは敵意を持つ相手に襲いかかる。そして、先ほどまでのことは忘れたのか、今度の対象をグラスに変わっていた。


 その場で何度も足踏みして、踏みつけようとする。


 だが、その程度ではグラスも踏みつけられることはない。推進装置を使い、その場を離れていく。


「意外に使えるわね、これ」


 装甲を切り裂いた程度だが、それでも十分。他の攻撃へも糸口になるからだ。


 単分子ナイフで切り裂いた所をタンク砲で攻撃すれば、それだけでもダメージは倍増するだろう。


 一見、効果がなさそうでも、積み重ねは大事である。


 それに、この時代でも太古からの剣や槍は権力、象徴、飾りではない。


 これまでもバカピック相手に十分に効果は見てきたが、少女の身体能力とコアによって、時には銃よりも有効な武器となり、実用性も十二分に発揮される。


 つまりこの時代でも、剣は『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』となり得るのだ。


 余談となるが、ルイスは自身の役割をドラグーンと称している。元は竜騎兵を意味する、銃を持った騎兵の名前である。


 右手には剣を、左手には銃を。そして、コアを駆使することで、その間合いはほぼ目で見える範囲、すべてとする戦法だ。


 ただ、そのルイスにしても自己で生み出した訳でもなく、一部のファミネイ、それ以前の先輩達が多くの実戦で実践を積み、さらには死線を越えて、生き残った技術である。


 今の基地ではルイス以外、使い手はいないが。


 実際、今もグラス愛用の短機関銃は所持している。


 ルイスには悪いが、これもまたドラグーンといっていいのかもしれない。


 目の前の相手もまたドラゴン。奇しくも双方ともドラゴンの名を持つ存在である。


 グラスは推進装置で駆ける。その動きは何とか目でも追い切れるが、その速度は音速は超えている。


 そのたび、衝撃波とそこから出る破裂音が鳴る。うるさいが、出している本人は意外に楽しい。


 他のファミネイ達もようやく自身の射程圏内に入り、ファイアードレイクの側面から攻撃にして、背後へと回り、後を捕る。


 そして、グラスは再度、その隙の中、音速を超えた状態で単分子ナイフを振るう。その太刀筋もまた、音速を切り裂く動き。


 一連の流れはただ、速いだけではない。装甲に当たる瞬間に自身の持てる力をかけて切断面を作りだし、そこを起点に速さと単分子の鋭利さで装甲を切り裂いていく。


 装甲に当てるインパクトも重要だが、速さも切断の要素の1つ。そして、それらを読み解く判断力も大事となる。


 これはターニャの初めにした説明にあった通りだ。


 だが、相手もドラゴンと名乗るだけのことはある。超速で繰り出された太刀筋ですら、皮膚にあたる装甲を傷つける程度で済んでいる。<リフ>の影響下がなければ、他のバカピックなら真っ二つになっている。


 それが適わないことは、単分子ナイフからの反動で伝わってくる。


 そして、グラスは他のファミネイの編隊に入り込んで、単分子ナイフの補修に入る。


 単分子はその構造上、いくら強固であっても、崩壊しやすい。だから、切るたびにアルミカンで単分子を構成し直す必要がある。


 そのためにも愛用の短機関銃の所持は必要であり、その間の攻撃手段として活躍する。ただ、ダメージとしての銃弾の効果はなくとも、気をそらす程度には効果はある。


 実際、ファミネイとタンク砲の板挟みになったファイアードレイクの攻撃目標はファミネイの方を優先している。


 ダメージ的にはタンク砲の方が脅威であるはずだが、うっとうしさではファミネイ達の方が上のようだ。


 それにファイアードレイクからすれば、タンク砲もそれほどの脅威ではないのかもしれない。


 何しろ、何発も撃っても倒れることはないのだから。


 ファイアードレイクは鈍足で、攻撃も手当たり次第。足踏みや尻尾による攻撃は機動力を売りにする少女達には避けることは容易い。


 口から吐かれる炎にしろ、威力こそ弱いが、広域で、長く放射され、避けきることは難しい。


 それでもファミネイ達にとっては盾、力場によって炎自体は大した問題ではない。長く浴びされ続ければ危険ではあるが、それまでにそのスピードで炎からは逃げきれる。


 だから、それらの攻撃は脅威にならない。


 せめて、他のバカピックがいれば連携ができ、その存在意義は大きいだろう。他で足止めされれば炎はダメージ源として期待でき、足踏み尻尾は他へのアシストともなる。


 巨体による、その防御力こそ、連携時に真の脅威となる。


 ファイアードレイクは1体ではただ全方位から攻撃され、素早く逃げられるだけで、まるでハエのように五月蠅(うるさ)く、鬱陶しい存在だ。


 それもあってか、ファイアードレイクはしつこく自身の周囲を駆け回るファミネイ達に攻撃を集中させているのかもしれない。


 そう、こうしている間にグラスはファイアードレイクの背後に回り、尻尾を切り落とした。それでも厚さ的に先っちょだけであるが。


 ファイアードレイクは背後であるが、その長い首を持って、クラスの姿を視線に捉えた。その間も他から攻撃されていたが、気にしていない。


 完全にグラスにのみに敵意を見て、相手すべきモノをグラスにシフトしたようだ。


 だから、他からの攻撃には気にすることなく、高速に動き回るグラスを追い回す。その際に尻尾や首、炎を駆使して、自分の体に入られないようにする。


 他のファミネイ達もファイアードレイクの近くには寄れなくなったが、それでも銃撃には支障がなかった。


 グラスにしろ完全な囮役に専念できるため、それでも役割としては問題はなかった。


 ただ、それだけでは面白みは薄いのだが。


「……ドラゴン殺しか。1度、できるか試してみましょうか」


 グラスはそう口で漏らす。通信で発したら、他から止められそうな気がしたからだ。


 実際、グラスは堅実な戦法を好んでいるわけではない。それが効率がいいから、自分に合っているから。それでもリスクが少なければ、ロマンを求める心も持ち合わせている。


 それは昔からそうであったが、環境が少しばかり考えを少し変えただけ。


 グラスは推進装置をフルに使い、ファイアードレイクへと向かい駆け出す。


 助走距離は十分、最高スピードまで出しきって、単分子ナイフに力を込める。そして、単分子ナイフを一直線に突き出す。


 狙うべき場所はただ1点。首だ。


 タンク砲からも狙いやすく、生物にとって、重要とされる場所である。


 ファイアードレイクは炎を吐こうとしている。タイミングとしてはばっちり、そして、動作のタイミングも完全である。


 グラスは完璧な動作のまま、ファイアードレイクの首へと単分子ナイフを突き刺した。だが、グラスが思った感触は柄から感じ取れなかった。


「ダメか……」


 突き刺し自体はうまくいっていた。だが、全力ゆえに単分子ナイフ自体が耐え切れていなかった。


 あくまで、設計外の仕様での使い方。これで壊れても作っていたエンジニアには非がない。むしろ、そんな使い方をしたグラスの方が悪い。


 それでも、ファイアードレイクには十分なダメージは与えていたのが、突き刺した箇所からは液体らしきモノが吹き出し、痛みからなのか体をがむしゃらに動かしている。


 当然、グラスは単分子ナイフが折れたことに動揺することなく、折れた時点でその場から離れていた。


 そして、折れた部分はアルミカンで修復を行う。単分子を維持するだけでなく、使い方によって折れることも多少は想定されているため、その素材は装備の中にストックされている。


 修復までは時間がかかるが、それでも成果としてはまずまずだろう。


『無理をして……しばらくは回避に専念しなさい』


 とはいえ、エーコはお叱りである。成果はあっても、まだ結果となっていない。そして、意外に使えている切り札はお預けにしたからだ。


 だが、このままなら勝ちを得ることも難しくないと思い、エーコは気を引き締める。周囲の状況も更に注意深く監視する。勝ちを確実にするために。


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